鬼人族の文明と、ついでに娘の癇癪
「ああ、皆さん! お待ちしておりました!」
なんとも大仰に俺達を迎えたのは、やっぱり半鳥族の女王だった。
大きな翼を広げて、再会を喜んでいる。
相変わらず、何かを持っているようには見えなかった。
「ここがツノ族の長老衆が集まる、ツノ族の首都ともいうべき村ですよ!」
ツノ族に有ったことはあっても、村を訪れたことはない。だがそこは、村だった。
少なくともこう、人の手が自然環境を破壊していた。
何だろうか、この敗北感は……。
羨望している、俺はこの村に羨望を抱いている。
「竪穴式住居だし……」
数日かけてたどり着いた、鬼人族の村。
そこはきっちりと土木工事の行われている、ちゃんとした集落だった。
具体的に言うと、まず森を伐採し、木の根っこも引き抜いてある。
その上で地ならしをして、森の中の土地を平らにして……。
そこに縄文時代のように、竪穴式住居を立てていた。
もちろん、サイズは鬼人族基準なので、大分大きい。二十かそこらの家があるだけの、上下水道も電気もガスもない集落。
でも、それでもここには文明があった……。
「巨人族ってレベル低っ!」
おそらく俺ぐらいではないだろうか。
この竪穴式住居と言う原始的な家屋を見て、敗北感と羨望を憶える元日本人は。
「あの、何を泣かれているのですか?」
「野人の中でも、巨人族が大層レベルが低いってことだよ……」
「その……他の方がいらっしゃる前で、野人と言うのは……」
いいんだ、白い眼で見られてもいいんだ……。
なんで俺は巨人に生まれてしまったのだろうか……。
「おお、諸王の皆さま……」
「久しいな、ネギミ。息災で何よりだ」
どうやら何代か前の王であったらしい、三本の角の生えた青い肌の鬼人族。
ほとほと困った顔をしている、竪穴式住居から現れた彼は、なんというか……来てくれてよかった、と、来ちゃったのか、という感情が混じった顔をしていた。
そりゃそうだ、小娘の癇癪で氏族全体が滞り、挙句他の氏族全員の王が来るはめになったのだから。
「申し訳ないですのう……本当に、もう、あの娘っ子は……」
「気に病むな、これも良くあることだ」
自分よりもはるかに背が低い魔王に頭を下げて、慰めてもらっている元鬼人族の王。
そりゃまあ、二千年生きてりゃよくあるよな。
そこはまあ疑う余地はないけども。
「まずは、こちらへどうぞ……」
彼は住居の中に案内してくれた。
ぞろぞろと入っていくが……。
「随分変わった家ですな……」
「そう? うちも似たようなもんだよ~」
と、新王は互いに感想を言っていた。
そうか、やっぱり巨人族が一番遅れてるんだ……。
「もう降ろした方がよさそうだな」
「そうですね、では……」
マリーを降ろして、俺も入る。
身をかがめて入る必要はあるが、元々鬼人族は巨人族よりも少し小さい程度。
少なくとも、人間基準の家よりは大分大きい。
俺が入っても、さほど問題はなさそうだった。
「……狭い」
意外にも、と言うか意外じゃないかもしれないけども、半馬族のエリア王が座ろうとして難儀していた。
なにせ、人間の住居に少し小さい馬が入ってきたようなもんだしな……。
天井の高さと言うか、幅を取ってしまうのである。
「事情は大体聞いとるがよぉ、ネギミのじいさん。娘っ子一人如き、寝てるところをとっちめればいいじゃねえか」
身もふたもない事を言い出す剛人族のカナブ王。
実に同感だ、さっさとそうしていただきたい。
なんで俺達がこんな面倒なことになっているのだ。
俺が魔剣を持っているエリック君をそうしたように、朽ちない武器と言っても、持っているのは只の人間である。
この場合は只の鬼人だが、周りの奴らだって全員鬼人族なんだから面倒なことなどない筈である。
いくら頑丈な棒を持っているところで、その内寝るだろうに。
「それがよう……よりにもよって、あの子は……食糧庫に陣取っちまって」
なんだって?! ではこう、この鬼人族には公共の備蓄と言う概念が存在するのか?!
そんな高度な意識が、彼らにはあるのか?!
首から人間の頭を首飾りにしていたのに?!
あんな奴が王様やってる国なのに?!
「なあ、そこのダイ族の若い王は、なんで泣いてんだ?」
「なんでもないから、話を続けてくれ……」
敗北感だ……。
俺はこの上なく敗北感を感じている。
俺は、ウメボ王のことなんて何にも分かっちゃいなかったんだ……。
食料の備蓄があると言っても、精々ご家庭レベルだと思っていたのに……。
やっぱ実物を見ると思うところってあるな……。
「別にまあ、その食糧庫だけってわけじゃあねえんだがよ……前の戦の事もあって、あそこで暴れるのは躊躇っちまって……」
確かに備蓄が壊されるのは痛いな……。
というか、人質に近い……。
知的……! 圧倒的知性……!
涙で前が見えなくなりそうだった。
「それにまあ、あの娘っ子にほれ込んでる若けぇ衆も多くてよう……」
「くだらん、そんなことをしとるから思い上がるんだ!」
「言って聴くんなら、言って聴かせようってみんなが言ってたんだが……」
俺の結婚式にも間に合わなかったと。
いや、まああんなかんじで、人間の生首をファッションにしているのが来たら、ドレスコードをでっちあげてお帰り願うところだけども。
レベルの低いドレスコードだなぁ……。
人を殺してファッションにしてはいけませんって、アメコミでもねえよ。
完全に野蛮人だよ。
「そうか……しかし、あの娘を王にするつもりはないんだろう」
「そりゃもちろん」
魔王の確認に、元王はあっさりと答えていた。
じゃあしょうがないな、彼女は王になれませんで終わりだ。
「来ていただいた皆さんにゃあ申し訳ねえが……もう意地はるのはやめるように言ってくれや」
「よし、分かった。ではお前はお前で、王を決める戦いの準備をするように」
「あ、ありがてぇえ」
「だが、いざとなれば手荒になるぞ?」
「そ、それは……まあ仕方がねえけども」
二つ返事の魔王だが、実際どうするつもりなのだろうか。
第二形態にでも変身して、ぶちのめしたりするんだろうか。
「さて、タロス王。荒事になれば、その時は頼むぞ」
「……おう」
「っけ!」
やっぱり俺か。
剛人族のカナブ王は大層不機嫌そうだが、それでも自分がやると言い出さない当たり、現実が見えているのだろう。
別に絶対的な相性というわけではないのだが、剛人族は鬼人族と戦うとやや相性が悪い。
対するに、巨人族は剛人族にやや分が悪く、鬼人族は巨人族に分が悪いのだ。
もちろん、剛人族最強たるカナブ王は、彼女と戦っても負けるということはないだろう。だが、怪我をする可能性はある。
剛人族は己の躰の硬さを第一の基準としており、大きな傷を恥じる風習が強い。
これが、鬼人族の王だというのならまだマシだが、鬼人族の王の子供、それも女が相手だとすれば、傷はどう考えても恥だろう。
その辺りの計算は実に賢明である。
とはいえ、俺も怪我をする可能性は高いのだが。
「それじゃあ、今日の所はここで寝てくだせぇ。近くの村から酒も持ってこさせるんで」
「うむ、世話になる」
そうか……ここで寝泊まりか……。
ここに来るまで野宿だったけども、現役の竪穴式住居で寝るとか、人生分からんもんだ……。




