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敵の姫様が綺麗だったので、略奪婚してしまった巨人の俺  作者: 明石六郎
第二章 結婚式と言う名のお披露目
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十人の王への心証と、ついでにガードのチュートリアル

 およそ、二日ほど全力で走った俺達は、遂に目的の未開拓地帯にたどり着いた。

 そういう言い方をすると、俺達巨人族の縄張りが、さも整地されているかのようで不確かだ。実際にはただの住処でしかないので、ギリギリ未入植というべきだろう。


「凄いところですね……」

「ああ、こんなところがこの地にあったんだな」


 とはいえ、その景色は何とも壮大だった。

 梱包を解除されていたマリーと俺は、目の前の原生林に圧倒されていた。


 巨大な樹だった。

 なんというか、三メートル程度の巨人でしかない俺は、見上げてもその果ての見えない、百メートル以上ある木々に興奮していた。

 俺の腕でも抱えきれないほどの年輪を重ねた、一本一本の木が巨大な大森林。

 それを前に、俺もマリーも等しく矮小だった。


「……そういえば」

「なんでしょうか?」

「順番が滅茶苦茶だが、これはあれじゃないか?」


 足元にいる彼女を直視せずに、俺は片手で引き寄せた。

 俺の足に寄りかかる、俺の妻。

 その顔を、今は見れない。


「新婚旅行、って奴なんじゃないか?」

「ーーーそうですね!」


 そびえたつ針葉樹林、その大自然に圧倒される俺とマリーは、旅先の感動を二人で分かち合っていた。

 案外、これを見ただけでも、ここに来た価値はあるのかもしれない。


「これもハネムーンでした……ありがとうございます」

「うん、まあ……少しムードに欠けるかもしれないけどな」


 相変わらず、俺は毛皮の服であるし、マリーも森魔族の服である。

 しかし、それでも、こう、彼女と一緒に旅ができているのは、思えば幸福だった。


「それにしてもまあ、手際のいいことで」

「そうですね、やはり準備されていたのでしょうか」


 俺達の背後では、キャンプ地が設営されていた。

 なんというか、多くの移動用のテントが仮設され、その周囲を幕で囲んである。

 キャンプ地と言うか、ちょっとした陣地のような気もするが、そもそも俺が巨人の王であり、マリーが魔王の令嬢の子孫であることを思えば、当然であろう。


 問題は、これを準備したのが森魔族と夢魔族と半鳥族だということだ。

 仕事早すぎである。よくもまあ、ちょっとした集落を短い準備期間で用意できたものだ。

 エリック君は、よくもまあ、こんな連中の目を盗めたものである。


「……っていうか、ここには巨大な獣が多いんだろう? 大丈夫なのか?」

「そうですね、木の合間を半鳥族……いいえ、ハネ族の方が旋回していらっしゃいますし」


 一応そんな疑問も口にするが、流石にそれは心配症と言うものであろう。

 なにせ、そもそも、巨大な獣を駆除していた現役の王が三人で準備したのであろうし。


「ご安心ください、タロス王。既に準備は万端でございます」


 仕事のできるラッパ王が、相変わらずの忍者装束で現れた。


「あの陣はカミ族が作り出したものであり、知性なき者には認識できないようになっているのです。もちろん、認識できないだけで、踏みつぶされる恐れはありますが」

「だから偵察していると……」


 なんというか、あのテントどうにかしてウチの連中にも普及させてくれないだろうか。

 それだけでも、こう、生活が向上している感があるのだが。もちろん、作ってもすぐに壊されそうであるし、修理とかしないだろうけども。

 これはなんにでも言えることだが、その地に普及させるには、性能が優秀であること以上に、現地の人間でも容易に修理できなければならない。

 高価で繊細な医療機器も、発展途上国で壊れれば無用の長物と化す一方で、整備するのが簡単で、且つパーツが手に入りやすい銃や車が非常に普及しているということを、俺は知っている。

 そして、それを巨人族の中で学んでいった。

 つまり、発展とはそんな簡単なことではない、と言うことをである。


「所詮、夢のまた夢か……」


 内政チートなど、所詮は頭の中の気持ちのいい物語でしかない。

 いっそ、星さえ砕く力のほうが、よほど現実味があるのだろう。


「まあいいが……とりあえず、早めに獲物を捕らえたい。運搬に当てがあっても、調理の時間は考えるべきだろう」

「そうですね……最後の方に訪れた村の方は、本当に憔悴されていました」


 こくり、と頷くラッパ王。

 彼は手にした鎖をたわませて、じゃらり、と臨戦態勢を作っていた。


「では、その前にもう一度ご教授いたします」

「ガード、をか?」

「ご慧眼だ……チャージに関しては、さほど問題はありません。が、ガードに関してはあらかじめ憶えておく必要があるでしょう。ダッシュに性能差があるように、ガードにも性能差はありますので」


 俺はマリーを促して、少し動いてもらう。

 少し離れたところで、観戦してもらう構えだ。


「まずは、実際にガードを行ってください」


 斧を手にもって、ガードしてみよう。

 そう思っただけで、ダッシュの時同様に銀色の光が移動して、目の前に盾として構成されていた。

 見る限り、銀色の円盤はとても強固そうである。

 問題は、それがそんなに大きくないということだ。

 先日見たラッパ王の盾も、頭より少し大きいぐらいだった。

 今自分の前にある盾も、サイズ的には流石に大きいが、それでも俺の頭より少し大きい程度である。

 このままでは、上半身を覆うこともできないだろう。


「基本的に、ガードの盾も不滅です。例え貴方がチャージして攻撃しても、或いは固有能力で攻撃しても……それは砕けません。ですが……」

「なるほど、武器を持っている部分の前にしか出せないと」


 要するに、ただの頑丈な盾なのだろう。

 きちんと受けなければ、身を守ることはできないらしい。


「もちろん、バラの持つ幻灯アハトのようにガードに特化している武器ならば別ですが……」

「まあ、俺には関係ないと」


 消去法で、俺の斧が特化しているのはチャージの様だ。

 攻撃特化型ね、なるほど。


「その上で……いくつかの応用法があります」


 全く音のしない鎖分銅を振り回し、そのまま攻撃の態勢を整えている。

 ああ、攻撃するつもりのようだ。


「一旦盾を消して、私の攻撃が当たる瞬間に盾を出してください」

「……分かった」


 嫌な予感がする。

 もちろん、怪我をするとかしないとか、そういう問題ではない。

 もっとこう、精神的な理由だ。


「では、攻撃しますので」


 このガードのチュートリアルだが、そんなに不安はない。

 腐っても、巨人族最強の男であるし、結構露骨に攻撃の準備をしてくれている。

 熟練の戦士でもあるだろうラッパ王は、あえて予備動作を大きくして、こちらに備える時間をくれている。

 あとは、手元を見て攻撃を確認すればいいだけだ。


「今です」


 向かってくる分銅が、俺の頭を狙っていた。

 もちろん、手元で届かないように調整しているのであろうが、それは方向として俺の眼もとに向かっている。

 だが、タイミングは分かっている。

 なので、銀色の盾で防いだ。

 すると……。

 ものすごい勢いで鎖分銅は弾かれていた。


「お見事」

「まあ、分かりやすかったからな」


 流石に熟練者だけあって、跳ね返された分銅もあっさりと回避しているラッパ王。その所作に一切の危うさはない。

 一方で、俺は彼が今の行為を何と言うのか、戦々恐々していた。


「これはガードの応用、高等技である……ジャストガードです」


 知ってた。

 そうだよな、ジャストガード以外の何物でもないよな。

 ゲームとかなんとか知らなくても、ジャストガードとしか言いようがないよな。


「直撃の瞬間にガードを行い、相手の攻撃を弾くことができます。難しい技ですが、状況に応じて使用してみてください」

「……練習しておく」


 止めてくれ、マリーが目を輝かせているが、俺は心中でものすごくがっかりしていた。

 なんだこれ、完全にアクションゲームじゃん! そうでなくても、対戦格闘ゲームじゃん!


「もう一つ、こちらは簡単な応用があります」


 何だろうか……ものすごく聞きたくない。アレだろうか、シールドバッシュとかだろうか……。


「ガードジャンプです」


 ……それ、空中ガードじゃないとしても、二段ジャンプとかじゃないか?


「このように……空中でガードを行い、それを足場にしてさらに跳躍することができます」


 大真面目に語りながら、身軽に跳躍して足元に足場を作り、それを踏み台にして大きく跳ねるラッパ王。

 なんというか、見るからに便利そうだが、それでも名前と動きが完全にアクションゲームである。

 なんだこれ、空中でもう一度ジャンプボタンを押すと、二段ジャンプができる、とかそんな感じだぞ。


「ああ、十人の王は空中を跳ねるように飛んだと言いますが……いえ、九人の王はああして空を駆けたのですね!」


 感動しているマリーには悪いが、俺はもうお腹いっぱいである。

 だって、ガードジャンプも何も、普通に二段ジャンプとか多段ジャンプだもの。

 それを大真面目に解説されると、こちらは脱力するほかにない。


「これらがガードの応用となり……あとは立ちまわり次第と言うことで」

「あ、ああ……ありがとう。感謝する」


 そうか、昔の王様のうち、十人中九人はこんなことを大真面目にやってたのか。

 一気に親近感と言うか、懐郷心をくすぐられたというか……。

 アクションゲームのキャラとしか思えなくなってきたぞ。

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