飛んでくるのは、いい話
「私が知る限り、一番可愛らしいのはカミ族ですね」
怖いもの知らずここに極まれり。
ユリさんのぶっちゃけトークを聞いて、俺もマリーもカナブ王も湯船の中で縮み上がっていた。
体を洗うことも一回りして、夢魔族の面々も温泉を満喫していた。
もちろん全員裸である。その周囲に群がる剛人族たちを客観視すると、そりゃあ女衆が彼女達を敵視する理由もわかるというものだ。
「聞くところによると、ヨル族の死因の最たるものは痴話喧嘩だそうです」
「見ればわかる」
自分は湯船につからず、池のほとりで控えている森魔族一行。
なんでも彼女たちは湯船に浸かる習慣がないらしい。
というか彼女たちは極めて代謝が緩やからしく、野人や半人と違って臭くならないそうだ。
実は死んでるんじゃないだろうか、と思った物である。
もちろん、体が外的要因によって汚れないわけがないので、体を洗わないわけではないそうだ。
つくづく、夢魔族と対照的な氏族である。
ここで俺がテンプレな主人公なら『遠慮せずに一緒に入れ、これは命令だ』とかほざくところだが、なにせ氏族差がある者だから、下手をしたら全員死ぬという可能性が無きにしも非ず。
そもそも、無理強いして楽しいはこっちだしな。
まあ、彼女達が湯船に浸かるのを見たいというスケベ根性がないわけではないし。そもそもセクハラだ。
「それにしても、いいお湯ですね」
「ああ、全くだ」
身長差があるので、俺が座り込んだ場合とマリーが立った場合、そしてマリーにデイダラがしがみついた場合の目線は大体一緒になる。
俺が肩までつかる深さだとそこそこ熱くなってくるが、まだ十分我慢できる温度帯だった。
「俺の領地にもこういうところがあればなあと思うよ」
「まあなあ、お前の所は本当に獣と森しかねえからなあ」
突っかかってくるカナブ王。事実なので何も言い返せない。俺の所も、穴掘ったら温泉湧くとか無いだろうか。
まあ毎日お風呂屋さんに行っているようなものなので、向こうから見ればこっちの方がうらやましいだろうが。
「それでも私はダイ族の領地が好きですよ」
「マリー……そうか、そう言ってくれるか」
「うう」
マリーはいいお嫁さんだが、はっきり言って俺が嫌いなのである。
もうちょっとこう、どうにかならないだろうか俺の領地。
田舎は名物がないから田舎ということなのだろうか。
「そうっすよ、ダイ族の領地の肉は美味いっすし」
「っけ! ツノの折れた奴が何を言ってもな!」
シャケも褒めてくれるが、しかしカナブ王は拗ねたような顔をする。
多分、野人の中で唯一狩りが苦手なことを気にしているんだろう。
「へえ……」
うむむ、結構傷ついてるな、シャケ。
ここで怒ってもいいが、それはそれで角が立つしなあ。
「あらあら、シャケ君も可愛いと思いますよ~~」
フォローするユリさん。
というか、湯船の中でリミッター解除している、全裸の夢魔族がそのままシャケに絡みついていた。
角が折れている鬼人族というのは一種の罪人扱いで、諸事情があると知っていても軽視されるのだが、夢魔族の女に贔屓にしてもらっている時点でそう言うのは些細なことに成り下がる。
俺なんかは何時も近くにいるけど、やっぱり羨ましいもんだよなあ。
とはいえ、一気にフォローされて気を取り直すシャケ。すまんな、嫌な思いさせて。
「む……タロス王、カナブ王。今こちらにハネ族の者が向かっているようですが、如何しますか?」
アンドラが何かを聞き分けたのか、俺達に半鳥族の接近を告げていた。
何か伝令でもあるのだろうか、俺達も上空を見るが、中々見つけることができない。
あいつら目がいいからな、こっちの事が補足できているようだ。
「俺は構わんが……カナブ王、どうする」
「儂が嫌と言うもんか、馬鹿馬鹿しい」
当たり前だが、俺達はあんまり半鳥族の伝令が怖くない。
ぶっちゃけ、そんなに悪い統治をしていないからだ。
それに、今は人間たちも大人しくしている。そう悪い知らせとは思えない。
この間の羊飼いの鈴みたいなのは稀も稀なのだ。
アンドラが狼煙を立てると、それを目指して空から舞い降りてくる巨大な鳥の影。
腕と足が鳥と言う、半人に属する半鳥族の飛来である。
「ううう!」
もしかして、半鳥族を直に見るのは初めてなのだろうか。
興奮気味のデイダラを抱える俺。
入浴中でくつろいでいる俺達の前に降りてきた半鳥族の男は、いつものように大仰に振る舞い始めた。
「おお、タロス王にカナブ王! 九氏族の諸王の中でも屈指の猛者であるお二人が、こうして同じ湯につかるとは! なんという素晴らしい事でしょう、我らの結束はここに確かめることができました! カナブ王の大器には、我らハネ族の翼の大きさも参ります!」
「ふん、まあ言いふらしたければ、言いふらしても構わんがな!」
実際、巨人族の事を嫌っている剛人族が、巨人族を招いて湯に一緒に入るってのは相当おかしいしな。
それはそうだと思うのだが、まさかそんなことを見物しに来たわけではあるまい。
「では、タロス王。魔王様とバラ女王からの伝言です、二人のヨル族の手配が付いたので、そちらの御屋敷に案内すると!」
ああ、頼んでたのが来てくれたのか。
剛人族たちが、シャケとアレックス君を見る。
そこには、物凄く嬉しそうに笑う二人の姿があったからだ。




