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敵の姫様が綺麗だったので、略奪婚してしまった巨人の俺  作者: 明石六郎
第二章 結婚式と言う名のお披露目
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ダッシュのチュートリアルと、ついでに哀しい話

「魔王シルファーの武器に関しましては、説明させていただいた通りです使い方を貴方が認識した時点で、共有機能も固有機能も発揮可能です」

「走るペースはもう貴方に合わせるから、私についてきてちょうだいね」

「ものすごくドキドキしています!」


 前に夢魔族、後ろに森魔族、そして背中には人間のお姫様だ。

 何だろうか、この面白展開は。

 おかしい、なぜ愛しい自分の嫁を、背中に背負って走ることになっているのだ。


「うむ……うん……んん」


 毛皮の服に着替えた俺は、背負っている妻がきっちりと固定されていることを確認した。

 なんというか、コレよく似た話を知っているぞ……。

 こう、アレだ……多分きっと、護衛ミッション的な奴だ。

 四方から敵が攻撃してくるから、味方ユニットを守れ、的な。

 何度かダメージを喰らったらゲームオーバーする奴だ。

 しかも、今回俺は守られる側だ……。


「では、ダッシュを使用してください。もしもの時は私が補佐いたします」

「分かった……じゃあ先導を頼む」

「ええ、任せてちょうだい」


 鈍く光る銀色の斧を手に、その力を受け止める。

 なんというか……全身が銀色に包まれていく。

 これも良く知ってる……まさか二十年たってからオーラをまとう日が来るとは、人生分からないもんである。


「それでは……ユリ、この家の事お願いね?」

「アンドラ、留守をしっかりと守ることだ」


「「承知いたしました」」


 屋敷の前に、アンドラとユリさん、それからその部下たちが並んでいた。

 いいなあ、使える部下がいて。俺なんて飼育員に近いんだぞ?

 巨人族にも改革が必要だ、誰か内政チート持ちが全員洗脳してくれないだろうか。彼らに速やかに叡智をもたらしてくれないだろうか。知恵の実はどこにあるんだろうか。


「では……行きましょうか」


 ものすごい速度だった。

 それを、今の俺も視認できた。

 夢魔族の女王は、とてもではないが運動向きではない清楚な服のままで、猛烈な速度で屋敷の外へ走り出していた。


「凄いですね……」

「ああ……凄いな」


 色々と心中複雑だが、とりあえずこの状況を認めねばなるまい。

 俺が走らねば、前に進まないのだ。


「マリー、揺れるから気をしっかりと持ってくれ!」

「はい、わかりました!」


 銀色のオーラをまといながら、俺は全力で走り出していた。

 その一歩目の瞬間から、俺は自分が加速していることを実感した。

 例えるなら、電気自転車だろうか。

 自分の足、自分の筋肉以外のアシスト、動力が存在している感覚だった。

 体が軽い、圧倒的に軽かった。

 手に持っている斧から流れ込む、圧倒的なオーラ。

 それが動力となって、俺を押し込んでいた。


「す、すごいです! 全然揺れを感じません!」

「本当だ……なんていうか……アレだ……全然もてあまさないぞ?!」


 自分の体に噴射器でもつけて走れば、それは普通にもてあますだろう。

 素人をモンスターマシンに乗せて、アクセルを踏み込めば、確実に事故を起こすだろう。

 これは、そういう不安が一切ない。

 道なき道を走っていて、当然直進などできずに気にぶつかりそうになるのだが、慣性で吹き飛ばされそうになるということがなく、直前で九十度方向を変えてもまるで負担にならない。

 え、これ慣性制御とか重力制御とかしてるの?!

 それすごくないか?! 地味にすごくないか?!


「いかがですか、これがカミ族の御業です」


 俺の背後から、ラッパ王がニンジャのように駆けてきた。

 すげえびっくりする、完全に無音だった。


「前方をよく見てください。タロス王はともかく、奥様には負担ですよ」

「ああ、わかった」


 慌てて前を見て走る。

 実際、急に激突したらそのまま大ダメージだろうし……。


「これこそカミ族の生み出す武器の力です。人間のように大量生産ができるわけではありませんが、カミ族は皆特別な武器や薬を作ることができるのですよ」

「……みな?」

「とはいっても、此処までの物を作れるのはごく一部。特に、二千年前当時の若さで、これほどの物を作れるのは魔王シルファーぐらいなものです」


 先導しているバラ女王の背後を追いかけながら思う。

 いや、もっと作れよ、ここまでのじゃなくていいからさ、と。

 少なくとも、巨人にしか使えない斧とか、物凄く便利そうである。


「それに、カミ族は余り争いの道具を作りたがらないのです。それは腕が立つほどに共通します」


 それって、物凄く淘汰されるフラグ立ってないだろうか……人類が火薬とか発明したらそのまま排除されそうである。


「それに……先日貴方が証明したように、優れた武器も使い手次第……大量に作るとなると、やる気が出ないそうです」

「創作意欲の問題か……」

「ええ、今でこそ政治の立場に立ちますが、カミ族は元々そういう立場なのですよ」


 なんというか、悠久の時の流れを語る森魔族よりも、明日の飯のことを心配する巨人族の方がまともに思えてきたぞ。

 何だろうか……知恵があっても、やることは怠惰だな。


「それに、我ら三人にとって、人間もまた同胞なのです。領地を維持するためとはいえ、人間を殺すために兵器を作る、使う、というのは魔王シルファーもお望みではありません」

「ふん、迷惑な話だ」

「ご理解ください、我らにも最後の手段は常にありますので」


 背中のマリーが悲しげだった。

 少なくとも、彼女もまた人間であり、同時に十人の王の真実を知る者でもある。

 九氏族を亜人と蔑んだ他の人間に対して、今の言葉の重さを感じて欲しいのかもしれない。

 しかし、同族で殺し合うのも人間だし、九氏族も一緒だ。

 今俺が走っているのも、もとを正せばそれを未然に防ぐためでもある。


「マリー、君が気に病むことはない。俺も被害者と言うわけでもない。今の話を聞いても、誰も何も思わない」

「その通りです、奥方。飢えと渇きはヒトの心を乱すモノ……そして氏族を守るために立つのが王たるものの使命です」

「ですが、エリックは……」

「エリックが勝てば、彼が言うように多少マシなことになっていただろう。君も知っての通り、九氏族だけが悪と言うわけでもないが、略奪はよくやっている。害になっていることは事実だ」


 大体まあ、人類の歴史上、お腹がすいたから隣の村を襲うというのは良くある話だしな。別に珍しくもないし。


「そうですか……」

「あらあら、花嫁にそんな血なまぐさい話を聞かせるものではなくてよ?」


 と、前を走るバラ女王は蠱惑的に注意してきた。

 確かにまあ、そういう話をいまする必要はあるまい。

 なんで結婚式の引き出物兼料理の材料を取りに行くのに、戦争とか歴史の話になるんだ……。


「違いないな、バラ女王……それで、あとどれぐらい走ればいい?」

「もうしばらく走れば、山が見えくるわ。その山を登ったら、小屋を用意してありますから、そこで小休止を取りましょう」


 用意してあるって……やっぱり周到に準備されているじゃないか……。

 怖いな、仕事のできる人って……。

 というか、走るのに全く向いていない、遊びのないロングスカートで森の中を高速で移動するって、相当怖いな。新種の妖怪みたいだぞ。というか、俺が背負っているマリーの方が、ずっと妖怪っぽいけども。


「それにしても、本当に昔を思い出しますわ……二千年以上前、他の王たちと一緒に未開拓の地を駆けたことを」

「……また昔の話を」

「あら、胸躍る冒険譚じゃないの。今では貴方ぐらいよ、こうやって走ってくれるのは」

「元々、お前の仕事ではないだろう。年寄りの昔話など聞いても面白くはあるまい」


 いいえ、ウチのお嫁さんはそういうお話大好物です。

 目をむっちゃ輝かせていると思います。


「あ、あの! よろしければその話を詳しくお聞かせください!」

「あらあら、じゃあ今日は眠れないわね?」

「……控えることだ。この旅の目的地を忘れたか」

「寝不足は体に悪いぞ、マリー……」


 そんなことを話していると、目の前に山が見えてきた。

 確かに、岩肌の露出した山に、どんどん近づいている。

 だが、おい、待て、なんだこれ。


「あの、バラ女王……あの山を登るんですか?」

「ええ、その通りよ」


 森の木々の隙間から、見えてくるのは断崖絶壁だった。

 というか、そそり立つ岩肌はどう見ても走って登れる角度ではない。

 こう、クライミングの領域だった。

 木々の隙間から見えるだけなので、何とも言えないのだが……数十メートル以上の岩の壁がそそり立っている。


「タロス王……ダッシュは初めての貴方に、一つだけアドバイスを」


 意味深なことを言うバラ女王。

 あの、すみませんが一つだけじゃなくて、思いつくだけアドバイスしてください。


「絶対に、途中で足を止めないでくださいね?」


 それ、アドバイスか?!

 え、なに、やっぱりコレチュートリアルなの?!

 ダッシュしていると、垂直の壁も登れますとか、そう言うチュートリアルなの?!


「さあ、付いてきてくださいね?」


 ほとんど膝を上げることのできない服で、そのまま垂直の壁にぶつかりそうになるバラ女王。

 あわや正面衝突か、と思っていたらそのまま壁を垂直に駆け上がっていく。

 重力が垂直になったのか、という急角度で壁に吸い付いて走っていく。

 やっぱり新手の妖怪だろ、これ……。


「す、すごいですね……」


 マリーが思わずつぶやいた。

 だろうな、俺もスゴイ間抜けな顔して、それを見送ってるよ……。

 というか、俺のすぐ前にも壁が迫っていた。

 このままだと俺もぶつかるが……本当に大丈夫なんだろうか……。


「舌を噛むなよ、マリー!」

「はい、信じてます!」


 目の前の壁を蹴るように、足を付ける。

 直後だった、自分に働いている重力の向きが一気に変わった錯覚を覚える。

 さっきまで走っていた地面が壁になり、足を付けた壁が床になったようで……。

 その止まらない足で、そのまま壁を走っていく。


「……すごい」

「ああ、スゴイな……」


 もう感嘆するしかない。

 明らかに垂直以上のオーバーハングを、まるで普通の地面のように走っていく。

 なんというか、首を左右に動かすと、世界はまさにひっくり返ったようだった。

 大丈夫だと分かっていても、これめっちゃ怖い。


「だ、大丈夫ですか? 固定している縄は、ほどけていませんか?!」

「多分大丈夫だ! 確認するのが怖い! っていうか……前が崖だ!」


 本来、崖のふちともいうべきところが、こちらの視点から見るとやっぱり崖のふちである。

 この場合、どうするのだろうか。

 やはり二段ジャンプしないと駄目なんだろうか?!

 ええい、足を止めるなと言われたし、そのまま走るしかない!


「タロス王、落ちることがありましたら、私が拾いますのでご安心を」

「その前にもう少し練習をさせてくれ!」


 後ろから聞こえてくるのは、頼もしいラッパ王である。

 コレ、客観視すれば気持ちがいいかもしれないけども、主観の視点だとめっちゃ怖い!

 全力疾走して壁にぶつかってくれ、よりも全力疾走して崖からダイブしてくれ、の方が怖いに決まっている。

 というか、前を走っていたバラ女王がどう走っていたかなんて、全然見て取れないし!

 なんて不親切なチュートリアルなんだ!


「難しいことはありません、このまままっすぐ走ってください」

「それが一番難しいんだよ!」


 仮に、ここで足を止めたらどうなるんだ?! 俺が背負っているマリーはどうなるんだ?!

 なんでそんな危ないことをいきなりさせるんだ?!

 やっぱり俺が巨人族だからか?!

 習うよりもやってみろってか?!


「ご安心ください」

「安心する要素がどこにもない!」

「足を止めなければ、それで問題はありませんので」

「足を止めたらどうなるんだ?!」

「落ちます」


 そういう説明は、もう少し早くしてほしいです。

 俺は中身がアレなので、普通の巨人族と同じ扱いをしないでください。


「マリー!」

「はい、しかとついております!」

「よし……気合を入れるぞぉ!」


 イメージとしては、TV番組のアスレチックだろうか。

 こう、回転する足場、そんな感じであった。

 崖のふちに足をかけた俺は、そのまま地面が回転するような錯覚を覚えていた。


「だああああ!」


 そして、ようやく俺は平常な坂道を上り続ける状態になっていた。

 確かにすごいけども、この視点だと洒落にならん!


「うふふ……懐かしいわね、カブトムもそんな感じで……」

「肝が冷えた……」

「お見事です」


 古代からの王に笑われながら、俺は何とか普通の岩山を走り続けることができていた。

 あと、魔王が自分用に作ってないのは、単純に自分で使うのが怖いからだと思われる。


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[気になる点] >「魔王シルファーの武器に関しましては、説明させていただいた通りです使い方を貴方が認識した時点で、共有機能も固有機能も発揮可能です」 通りです。使い方を
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