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勝利の美酒と、しかしありえざる不吉

「よう、金棒の兄ちゃんと斧の兄ちゃん!」

 ある意味当然なのだが、大会参加者の面々が俺達を呼んでいた。

 みんな好き勝手に馬を食ったり酒を飲んでいたが、隅の方で酒を飲んでいた俺達にも声をかけてきたのだ。

 そりゃあまあ、あの戦いで俺達が彼らの事を見ていたように、彼らは彼らで俺達の事を見ていたのだろう。

 当然すぎて、呼ばれたらすんなり赴くしかなかった。というか、オカカ王も酒が入っているからかノリノリである。

「どっちも強かったぜ!」

「ほら、座れ座れ!」

「差し入れのソーセージもらってきたぞ!」

「ワインだけじゃあなんだしな、ビールもいっとけ!」

 満天の星明りに向かって登っていく、焚火の炎とその煙。

 それの根元で、俺達は蛮族の群れに戻ったような懐郷感を得ていた。

 俺は嬉しくないが、酒が多少旨いのは差だろう。故郷よりはだいぶマシである。

 温いのはどうかと思うがそれぐらいで、つまみとして出された魚の塩漬けなども、結構悪くなかった訳で。

「いやあ、半馬族どもに追われて逃げ出す連中の情けない事と言ったらねえな!」

「ああ、流石にもう来ねえだろ!」

「ざまあみろだ!」

 勝利の美酒に酔いしれる、人間にあるまじき戦闘能力の持ち主たち。

 ある意味では、よほどウチの野人共よりも救いがたいほどの馬鹿なんだろう。

 野人たちは唯一の価値観で生きているが、多様性のあふれる人間が、あえて努力してこれだけの力を得たのだから。

 だが、そんな彼らの事が、正直好きになっている自分がいるわけで。

「……ふぅ~~」

 少し、酔いが回っているのかもしれない。

 ワインも麦酒もいいが、水が飲みたくなった。

 流石に巨人族と同じペースで飲み食いすれば、その先は分かり切ったことである。

「ほら、ガンガン飲め」

 まあ、水なんてないんだけどな。

 桜鍋があるぐらいなんだから、水ぐらい欲しいんだが……。

 鹿かなんかの角を加工したようなコップに、どんどん酒が注がれていく。

 この野蛮人共は、暴力で自分の意見が通ったことが本当にうれしいらしく、この国の王様の心境も一切気にせずに勝利に酔いしれていた。

「にしてもだ」

「なんだ?」

「兄ちゃんたちはえらく強いが……武術やってるって感じの動きじゃなかったな」

 俺達を問い詰めるその眼に、理性と知性が宿っていた。

 流石は戦闘者、その辺りの事はあっさりと見抜ける様だ。

 気づけば、周囲の全員が俺達を見て黙っていた。

「ま、隠すことでもねえだろ、タロス」

「まあな」

 人間の常識で言えば、ここまで強いのに一切武術の心得が無い、というのはさぞあり得ないのだろう。

 なので、さぞ不自然に思えたはずだ。

「俺達は田舎の方からの出でね、村では一番の荒くれもんだった」

「だがまあ、武術ってのを習いたくてね……この大会で、いいところを見せてくれた奴に弟子入りしようってなったのさ」

 少々強引だが、全部事実である。

 実際、優勝如何を問わず、よさそうな相手を見つけたら弟子入りするつもりだったし。

「ははは! なるほどな!」

 呵々大笑する一団。

 さっきまでよりも距離を詰めて、酒臭い連中が群がってくる。

 もしかしたら、俺達よりもずっと若い時期に、同じようなことを考えて、この街を訪れた奴らもいるのかもしれない。

 だとしたら彼らにとって、この街やその大会の事は俺の想像していた以上に重い事だったのかもしれない。


 とはいえ、これで俺も安心して観戦ができる。

 この時は、割と本気で、これ以上何も起きないと思っていたのだ。

 実のところ、俺達の戦いはまだ終わるどころか、これからが本番だったのである。

 そう、俺は流石にもうありえないと思っていた。

 恥をかかされた王子は、しかしもう何もできないと。

 だが、そんなことはなかったのである。

 結局、俺とオカカ王はこの大会を観戦できずに、この街を去ることになるのだった。

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