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敵の姫様が綺麗だったので、略奪婚してしまった巨人の俺  作者: 明石六郎
第二章 結婚式と言う名のお披露目
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奥さんが大興奮と、ついでに思ったのとなんか違う

 屋敷の庭に出た。

 そこそこ広い庭があるのだが、流石に池などはなく、植木がある程度だった。

 それでも、周囲が森に囲まれているということもあって、何というか建物や敷地以上の豪華さがある。

 というか、そもそも一応俺は巨人族の王なので、ここいら一帯は俺の縄張りともいえるのだが。


「バラの持つ幻灯アハトは少々特殊ですので……私の静鎖ツヴァイを用いて説明をいたします。よろしいですね?」

「ああ、頼む」


 さて、おそらく目標となるであろう丸太を数本横にして並べている。

 尚、その丸太は必要と言うことで俺が切り倒してきたものである。

 結構年輪を重ねており、俺の腕程度には太い。

 つまり、マリーの腰よりも太い丸太であるが、起動している伝説の武器ならたやすく破壊できるであろう代物だ。

  

「先に申し上げますが、魔剣アインを除くすべての武器には、共通する機能が三つあり、固有の機能が一つずつあります」


 腕にじゃらり、と鎖を巻き付けてあるラッパ王。

 鎖の長さは、目測で三メートルぐらいだろうか。

 比較的現実的な長さの鎖だと思われるが、伸びたり縮んだりするのだろうか?

 うむむ、一気に面白くなってきたぞ

 伝説の武器を手に入れて、五年たってからチュートリアルとは……!


「まずは共通の機能からお見せします。最初にお見せするのはチャージ―という機能です」


 ……うん?

 なんか、思ったのと少し違う機能な気がするぞ?

 なんというか、名称で既に機能がわかってしまうような……。


「原則として、全ての武器は機能の把握さえ済ませておけば、それだけで使用が可能です」


 いや、それはいいんだけど……。

 まさかこの状況からボタンを長押ししてくださいとか、連打してくださいとか言わないよな?

 言われたら流石に冗談じゃないぞ?!

 ものすごく真面目に嫌だぞ、自決もんだぞ、世を儚むぞ?!


「力を溜めたい、そう思うだけで……武器がまとう光の強さは増していきます」


 ラッパ王の持つ茶色の鎖、輪の太さは非常に細いが、その分速度が出そうな鎖に、力が満ちていく。

 腕に巻き付けていた鎖をほどいて、両手でつかみ、狙いを定めた。

 二メートルほどだろうか、その鎖を振り回して……目標である丸太に投げつけた。

 先端についている分銅的な重りが寝かされている丸太のうち一本を貫き、砕いていた。


「おおお……」


 結構な貫通力である。

 鎖の長さの関係もあって貫いてその場で止まったが、おそらく今の程度の丸太なら数本まとめて貫けたのではないだろうか?

 鎖分銅というのは扱いが難しそうだが、そこはこう、年の功なのだろう。

 実際、あっさりと巻き戻している。正に手品のような手並みだ。

 力任せにぶん回してブッ叩いている俺とはえらい違いである。


「参考までに、チャージしない場合をお見せしましょう」


 軽やかに振り回すと、それを再度投げていく。

 命中したそれは、確かに丸太に突き刺さっていたが、半ばまで達しただけで貫通はしなかった。


「凄い……本当に魔法の武器なんですね!」


 目を輝かせているマリー。

 そうだね、確かに魔法だね。

 俺もそう思うけど、これ思ったのと違うぞ?

 というか、思ってたのとジャンルが違う。


「では次は……ガードをお見せします」


 うん、猛烈に嫌な予感がしてきたぞ?!

 もうわかったぞ。三つ目の機能はたぶん、二段ジャンプとかだ!

 間違いない!


「ガードとは武器に込められた力を外部に放出し、光の盾を作る能力です。タロス王、恐縮ですがそこの丸太を私にたたきつけてください」

「あ、ああ……」

「タロス王! 頑張ってくださいね!」


 目を輝かせているマリーの純粋さが痛い。

 ああ、なんで俺は前世なんて持ってるんだ?

 この状況を楽しみ切れていないぞ。

 というか、思ったのと違うから結構がっくり来てるぞ。


「よっと……景気よくぶん回すが、いいか?」

「ダイ族の腕力は存じています」

「よし来た」


 俺が持っても、それなりに重みを感じる丸太だった。

 そこそこ太いので、両手で持つ。

 一メートル半ぐらいの長さの丸太を、軽く振って手ごたえを確認する。

 おそらく、どんなに頑丈な盾を持ち、鎧を着こんだとしても、絶対に吹っ飛ばせるだけの威力があると察する。

 単純な話である、細身の森魔族では重量を受け止めきれないのだ。極端な話、鉄の盾を持って構えても、トラックにぶつかればぶっ飛ばされる理屈である。

 これは腕力の問題ではない、体重の問題なのだ。


「それじゃあ、行くぞ!」


 豪快にぶん回して、ラッパ王をブッ叩く。

 当たり前だが、ガードが失敗した場合交通事故の如く、目の前のラッパ王はぶっ飛んでいくだろう。

 だが、俺の手ごたえはやはりというか当然というか、鉄の柱を木製のバットで叩いたような感触だった。

 俺が抱えていた丸太はあっさりとへし折られて、それを受け止めていたラッパ王は全くその場を動いていなかった。


「すげぇ……」


 分かり切った結果であり、こうならないととても困ったことになっていたのだが、それはそれとして凄かった。少なくとも、俺は非常に驚いていた。

 俺も巨人族の王、腕っぷしにはそれなりの自信と自覚があった。

 生物としての限界こそ超えていないものの、俺の腕力に勝る相手を視たことがない。

 それを、細身の森魔族が受け止めたことに一種の感動を憶えていた。


「如何ですか、これがガードです」


 うん、現実に引き戻されるな。

 腕に茶色の鎖を巻き付けていたラッパ王の前には、茶色い円盤ができていた。

 腕の前にできた、上半身を包み込む光の盾……。

 なんというか、一度も見たことがないのに既視感が凄いぞ。


「凄いです! これが伝説にある、十人の王が使ったとされた光の盾……!」

「魔剣にこの機能はありませんので、十人の王が使ったとされているのは誇張か誤りでしょう」


 興奮しているマリーに対して、冷静に指摘するアンドラ。

 こうなるとエリック君がますます哀れに……。

 エリック君……君の魔剣は別に最強ではないようだよ……。


「最後にダッシュです」


 うん、知ってた!

 そうだよね、そういう系だよね!

 ダッシュしながらジャンプすると、高く飛べたりするんだよね!


「このように、武器に宿る力を全身に流し込みますと、全身の筋力が増強されることにより高速移動が可能になります」


 武器そのものに宿る力がまんべんなく全身に行きわたっていく。

 それだけと言えばそれだけだが、一旦動き出した時は本当にびっくりした。

 半狼族同様に俊敏性が売りの森魔族とはいえ……一瞬で視界から消えるほどの速度を出せるわけがない。

 いつの間にか動き出したラッパ王はそのまま一瞬で走り出し、そのまま跳躍して……音もなく屋敷を囲う壁の上に乗っていた。

 というか、それまでの動きが全然見えなかった。


「凄いです……十人の王は皆、雷光の様に早く動けると教えられていましたが……」

「ですから、魔王シルファーにこの力はありませんでしたので、十人というのは誇張です」


 事実だから、ちゃんと教える生き証人。

 でも、子孫に先祖が実は戦ってないとか、言っちゃダメだろ。

 さっき自分で、夢は美しいままにしておこうとか言ってたのに……。


「今見せた三つは共通の機能ですが……お察しの通り、全ての性能が等しいわけではありません」


 と、当たり前のことを言い出した。

 確かにチャージは、鎖分銅にしては大した威力だったが……今の俺の斧なら通常攻撃でも似たことができそうである。


「かつてアトラスが使い、今はタロス王の手にある大斧ズィーベンならば、私が砕いた丸太と同じ太さの鉄の塊さえ悠々と切断するでしょう。私の静鎖ツヴァイはダッシュに優れており、且つ武器としても破壊力に長けているわけではありませんから、チャージしてもこの程度なのです」

「それでも人間相手なら十分だろう?」


 巨人が片手で扱うサイズの斧である、それを兜に食らわせてやれば、伝説もへったくれもなく相手は死ぬだろう。

 これ以上攻撃力が上がっても、完全に無意味だ。

 この世界の人間は、そんなに頑丈ではないのだから。


「ええ、人間相手ならば……ですが、リストの子孫マリーよ。貴女ならご存じの筈。この武器が何のために作られたのかを」

「巨大な獣を、駆逐するために、ですね」


 確かに、そんな話も聞いたな。

 二千年以上前に、この大陸を開拓したと。

 俺の領地、全然開拓されてないけどな!


「ええ、その通りです。私の役割は奇襲からの拘束でした。このように」


 それは、静かな変化だった。

 手に持っている鎖が少しずつ大きくなっていく。

 鎖を構成する一本一本の輪が太くなっていき、見るからに質量が変化していた。

 それはまさに伝説の武器としての機能なのだろう。


「す、すごいです……十人の王の一人、森の隠者と呼ばれたラッパ王は、巨大な獣をその鎖で締め殺したとされていますが……!」


 マリー大興奮だ……どうしよう、その感動を俺は分かち合えない!


「これが魔王シルファーが製造し、ミミ族の王である私に与えた静鎖ツヴァイの固有機能」


 もはやミミ族の腕力で扱える重量を越えた巨大な鎖。

 それは茶色に強く輝きながら自立して動き出す。


「絞め殺せ、フォレスト・イーター」


 今更気付いたのだが、ラッパ王の持つ鎖は全くの無音だった。

 流石に、視覚的にはどう考えても存在感はあるのだが、鎖特有の音がまったくない。それは、一種余りにも奇妙で、しかし静鎖の名を理解させるものだった。


 大蛇の如く、巨大でありながら長大になった鎖は屋敷の壁を越えて周辺の森へ食らいつく。

 そして……そのままラッパ王がわずかに腕を動かしただけで……そのまま凄まじい音と共に、鎖自体が何かの動力を持っているかのように、重機のように持ち上げていき……大量の木々を根っこごと引っこ抜いて、直上に持ち上げていた。


「これが、王に与えられた武器の真価たる固有機能です」


 ラッパがそう告げると同時に、屋敷から離れたところの木々数十本を抱え上げた鎖は、蛇が獲物をそうするように、締め上げて切断していた。

 なんというか……本当にすごいものを見た気分だった。

 ゲームで言えば、超必殺技と言ったところだろうか?


「固有機能を使用した場合、武器はしばらくの間沈黙します。これも、武器それぞれによって回復までの時間が異なります」


 へし千切った大量の木が地面に落ちていく中、鎖は巻き戻るように音もなくラッパの腕に巻き付いていく。

 と同時に、少し前の俺の斧同様に、全く輝かなくなっていた。


「回復までの時間、共通機能も使用不能になり、ただ頑丈なだけの武器となります」


 なんというか、本当にアクションゲームみたいな武器だな……。

 超必殺技を使うと、クールタイムが必要とか……。

 この世界は、実はアクションゲームかもしれない……。

 エリック君……君は知ってたかい? 俺は少しがっかりしているよ。


「凄いです……私はまさに伝説を目にしているのですね!」


 マリー、君が幸せそうなことが、本当に救いだよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゲーム的が過ぎて草生える チャージアタックにガードとダッシュ、そして必殺技アクションゲームの基本を抑えてやがる
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