勝者の宴と、ついでにこの国の未来
「なんで全員生き残ってるんだろう……」
戦争が終わった後、大地に転がされている多量の馬や兵士たちを他所に、少々の手傷を負っただけの選手一同と共に宴会に興じている俺とオカカ王。
タケトリ王国が投入した大量の馬は、焼かれたり馬刺しにしたり、鍋になったりと捨てるところが無い状態である。
もしかしてこいつら、全部食う気じゃあるまいな。ありえなくはない、と思ってしまう程度には、俺も状況が見えている。
戦場で腰を下ろし、のんきに飯食って酒飲んでる選手たちは、本当にがつがつ食ってた。
街から差し入れの酒が樽ごともってこられたりしているが、それもジャンジャン空にされていく。本当に人間なんだろうか、こいつら
「全員強いからだろ」
「まあそりゃそうだが」
戦いがそこまで長引かなかったことで、俺もオカカ王もほぼ無傷で乗り切ることができた。
それだけで、俺にとっては最高の結果である。
敵も帰ってくれたみたいだし、選手たちの怒りも鎮まったし、コンジャク王国にヘイトは向かないし、損をしたのはタケトリ王国だけだ。
「しかし、この作戦はちょっと気に入らなかったな」
「なにがだ?」
「王子ってのを逃がしたことだよ。それだけが気に入らねえ」
顔も拝んでいない相手だが、逃げてもらわないと困るのだが。
彼を参加者や俺達が殺した場合、向こうの国もいよいよ引っ込みがつかなくなる。
仮にも第一王子が、そこそこの数を率いて大陸中の観客が集まっている状況で、討ち死に。
それは戦争待ったなしだった。ある意味、この国にとって最悪の事態である。
まあ、その場合は流石に俺も付き合いきれないので帰るところである。
もちろん、オカカ王には何も言わないで。ぶっちゃけ、全ての原因が俺にあるというわけでもないのだし。
馬鹿な王子に巻き込まれるのは、一度で十分である。
「まあそう言うなって、そっちに尻尾切られた奴が行っただろ?」
「……アイツの事か」
「多分、負けた責任を取らされて、似たような目に合ってるさ」
去年の戦争で負けて、その責任を取らされた魔王の息子の事である。名前は知らん。
鬼人族の方に人身御供として奉げられ、凄惨な扱いを受けたという。
あの王子を引き合いに出せば、オカカ王も納得してくれるだろう。
実際、タマノエ王子がどんな扱いを受けるのかはわからないが。
しかし、結構な数の騎兵隊を失ったのだ。その叱責は彼にはきっちりと及ぶだろう。
あれだけの数をそろえるには、さぞ金と手間がかかっているに違いないし。
「勝ちすぎるとろくなことにならないぜ」
「そうか?」
一応納得してくれたらしいが、その辺りは呑み込んでもらう他ない。
今から追いかけて殺しに行くとか、蛮族っていうかストーカーっていうか、完全に殺し屋である。
そこまでやる気は無いだろうし、気にする意味もないだろうが。
「にしても……こいつら本当に強いな」
「ああ」
身体能力では流石に野人に劣るだろうが、技量や経験でそれを補っている。
そうでなければ、あの乱戦を生き残れまい。多分、全員格闘漫画の主人公みたいな生活をしているのだろう。
「こいつらが大会をするんだ、楽しみだな」
「ああ、全くだ」
今後王子が実権を握るようになったらこの国がいびられるかもしれないけど、そこは流石に仕方ないよね。
そこまで面倒見切れないよね。
自分の国の事なので、この国の王様には自力で解決していただきたい。




