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戦争の余波と、ついでに奮起する戦士達

 タケトリ王国第一王子、タマノエ。その名前を聞いても、俺は全くなんとも思わなかった。それはオカカ王も同様である。

 なにせこっちは九氏族。あまたある人間の国の、その名前や王子のことなど知っているわけがない。そもそも交流自体ないんだし。

 とはいえ、流石に人間は知っているだろう。さて、どんな国のどんな相手なのか。

 と思っていると、周辺の選手たちも首をかしげていた。どうやら、全く知らないようである。

 まあ、格闘技者がそんなに世界について詳しいか、というと疑問だが。

 そして、ああ、やっぱりと困り果てている国王陛下。なんというか、見るも哀れである。

 どうやら、ケンカを売ると後悔するぞ、という主張は彼限定なら正しかったらしい。

 この場にそろった全員が、相手を無礼打ちにしたことでこの国は困ってしまったようだ。

「タケトリ王国、というのはこの一帯の中では随一の強国であり大国なのです。当然、この国にも強い影響力を持ちます」

「知らん」

「知らねえ」

「どうでもいい」

「こんな辺境のド田舎の、その中で粋がってる奴なんて知るか」

「魔王領の近くでてっぺんとってもなあ……」

 選手の全員がどうでもよさそうだった。

 まあ、世界地図があってそれをみんなで勉強しているとか、そういう義務教育とかが存在しないならしょうがない。

 ただの大会参加者で、大分遠いところからもやってきたようだし。ある意味旅行みたいなもんで、有名な観光スポットやイベントを楽しみにしてきただけなんだろう。

 というか、ユビワ王国もそうだったが、やっぱり魔王領周辺は田舎扱いなのか。

「ですが、流石に去年行われた魔王領への戦争に関しましてはご存知でしょう」

 それは、流石に全員が知っているらしく、一々質問や異論を唱えなかった。

 オカカでさえ、自分の金棒を手に前王の事を想っているようである。

 俺も、あの戦争以降色々と変化が起きたので、その辺りはきっちり憶えている。

「あの戦いで多くの将兵が命を落としましたが、痛ましいのは多くの未婚の少女が命を散らしたことです」

 ごめんなさい、俺がやりました。

 俺が率先してそっちのほうに攻め込みました。

 蛮族が大量に押しかけてごめんなさい。

 多くの未婚の少女を殺してごめんなさい。

「旗印であったバイル王国のマリー様も……」

 すみません、バイル王国のマリーは俺の屋敷で俺の子供を産んで、俺の帰りを待っています。

「結果……多くの貴族が娘や妹を失い、失意に苦しみました。戦乱に発展したのも仕方がない事です。そして、もう一つの問題が生じました。未婚と言っても貴族ですので、婚約者がいました。ですが……」

 ああ、なるほど。

 確かに貴族の娘は政略結婚の材料で、生まれた時から誰と婚姻するのか決められているのだろう。もしくは、生まれる前からかもしれないが。

 いずれにせよ、結婚を予定していた多くの貴族が結婚できなくなったと。

「戦争に参加したとはいえ全員が亡くなったわけでもなく、従軍できないほど幼い娘や従軍の声がかからぬほど辺境の貴族や王族の娘に声がかかるようになったのです」

 なるほど、深刻な嫁不足が世界に蔓延したと。

 考えてみれば当たり前のことだ。五氏族では若い衆が死に過ぎて引く手あまたになっている。こっちでも似たようなことになっているんだろう。ただ、男が少なくても男は得をするが、女はそうもいかない。

 男尊女卑な思考だが、この世界ではそうなのだ。

 そして、それは九氏族と人間の数少ない、共感し理解しあえる事情である。

 きっと、少しでもいい条件の嫁を取り合っているに違いない。

「……お察しの通り、我が国にはあの戦争のことは知らされておりませんでした。なので、喜ぶべきことではありませんでしたが、我が国には多くの縁談が届いたのです。ただ、問題が起きたのが……タマノエ王子が、この大会に出場することで娶りたいと」

 なんか、どっかで聞いた話の様な気がしてきたぞ。

「ご存じのとおり、我が国の格闘試合はバイル王国で行われていた魔剣の主を決める大会を模したものです。百年に一度開催されるわけではないので、ある意味形骸化しており、優勝者には婚姻を申し込む権利を与えるだけなのですが……まあその権利を求めない優勝者の方が多いぐらいで……ですが、タマノエ王子はそれをしたいと言い出したのです」


「「「はあ?! ふざけんな!」」」


 会場が一気に険悪な雰囲気になった。

 要するに、そのタマノエ王子が箔をつけたいという理由で、参加者全員に辞退か八百長を求めたのだ。

 オカカ王もマジ切れである。選手たちも怒髪天を衝く勢いだった。

 まあ、そりゃあ怒る。まっとうに参加したい、なら別に構わないが、それはないだろう。

 氏族を問わず、男の風上にも置けない男だ。

「ええ、その通りです。我がコンジャク王国の祭りも、既に百年以上続く伝統行事。それを汚すことはできないと、普通に嫁がせるならともかくそのようなことはできないと突っぱねました」

 なるほど、これは信用問題なわけだ。

 この国の祭りは公正であることを売り物にしており、それを信じて多くの参加者が遠方からやってくる。

 そして、そんな彼らが戦うところを見るために、俺達を含めて多くの観光客がやってくるのだ。

 権威に傷がつくということは、そのまま無価値になるということである。下手をすれば、今後選手が現れないこともあるだろう。

「向こうの王も、こちらの事情を理解しており……たしなめてくれてはいたのですが、それも通じず、皆さまにご迷惑をおかけすることになったのです」

 そりゃ向こうの王様も恥ずかしがるわ。近所の国のお祭りを台無しにしようとするんだし。

 そもそも、コンジャク王国は普通に嫁に出すんだからそれを受け取ればいいものを。

「そして……自分の手の者が殺されたので、報復すると言って手勢を率いてこちらに向かっていると……」

 だから、俺達も含めて報復される予定の者が集められて、説明されたと。

「大変申し訳ないのですが、観光客への配慮もあり……今回の大会は中止、延期という形に……」

 さて、大変恐縮している王様だが、その一方で諦念が見て取れる。

 極めて誠実に説明を受けた選手たちは揃って声を上げていた。


「「「断る!」」」


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