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観光と、ついでに犯罪

 俺達は特に通行手形やらパスポートを用いることなく、普通にコンジャク王国に入国することができていた。

 あらかじめ確認していたが、この時期こそまさに格闘試合の大会のある時期であり、旧ユビワ王国よりも大分広い国には人が多く集まっていた。

 露天商なども並んでおり、実に活気にあふれている。

 まあ、それでも流石に日本の大都市ほどではない。人込みで前が見えないということもなく、少々にぎやかな程度だった。

 とはいえ、客引きで大きな声を出していたりするので、少々耳が痛いほどに街中はうるさかった。

「結構な人通りだな」

「ああ、そうだな……人間の街ってのは、本当にデカいな」

 田舎者丸出しで、俺とオカカ王は周囲を見回す。俺にしてみれば昔テレビの中にあったような光景で、オカカ王にしてみれば聞くばかりで見るのは初めてのものばかり。

 珍しいものばかりで、お互い興味を惹かれてしまう。

 露店では何を売っているのか、大きな商店では何を扱っているのか、それらをついつい覗き込んでいた。

 どの店の料理も、きっとヨル族の料理ほどは美味しそうではないのだが、しかしお祭りの効果かどれも美味そうだった。

「なあオカカ、アレ食べてみないか?」

「いいねえ! ちょっともらおうか」

 香ばしい肉の香りがした。

 流石に巨人族ほどではないが、この図体なので相応に腹も減る。

 お互い、財布に手を伸ばして、中の硬貨を数えながら取り出す。

 流石に、この大陸で一番信用のある硬貨とはいえ、日本のそれとは比べ物にならないほど歪で不揃いだが、使えるなら問題ない。

「へいらっしゃい!」

 俺とオカカ王が買おうとしたのは、蛮族ほどではないが髭を生やしたおっちゃんが調理しているケバブの様な料理だった。

 独特の肉の焼き方までは同じではないが、薄く切った肉を、野菜と一緒にナンの様なパンに挟んで売っている。流石にソースまでは無いようだが、それでも十分美味そうだった。

 この世界のファーストフードと言ったところか。

「おっちゃん、十個くれ」

「俺も同じぐらい」

「お、おお! ありがとよ!」

 身長二メートルぐらいの大男が、それより少し低い程度の大男と一緒に露店に並ぶと、とんでもなく圧迫感があるだろう。

 そりゃあ二十個ぐらい食べそうである。実際食べるしな。

 筋肉がムキムキの儘なので、とにかく基礎代謝が多いのだ。

「はいよ!」

 そこそこ時間をかけて、ひょいひょい、と渡してくれる。

 もらう端からぺろりと平らげていくので、気分はわんこそばだった。

 わんこそば食ったことないけど。

「ごちそうさん」

「うまかったぜ」

「あいよ~~」

 ケバブっぽい料理を二十個あっさり食べ終わると、俺達は再び歩き始める。

 全く食べ過ぎということはなく、むしろ少し食べて小腹が空いたほどだ。

 それは俺だけではなく、オカカ王も同じだったようである。まだ食べたりないと、周囲の露店を眺めていた。

「流石にヨル族のほどじゃねえが、人間の料理も大したもんだな」

「あんまりそう言うこと言うなよ、聞き耳立ててる奴はいないだろうが、面倒だ」

 人間に化けたとはいえ、俺もオカカもムキムキの巨漢。それが斧やら金棒やらを担いでいれば、そりゃあ目立つのが世の道理だ。

 おまけにあっちこっちを見ているおのぼりさんだ。

 そりゃあ悪目立ちもするだろう。

「おっと」

 俺は、腰から下げていた財布に延ばされていたスリの手をつかむ。

 財布を持ち歩くのは人生で初めてだが、こっちの世界に生まれてからはそれなりに経験豊富だった。

 なので、割とあっさりスリの手をつかみ取る。

 さて、警官がいれば突き出すべきかもしれないが、そんなに俺も暇じゃないわけで。

「へ、へへへ! だ、旦那、すげえな……勘弁してくれねえか?」

「駄目だ」

 つかんでいる手首を、ごきゃっ、とやる程度で勘弁してやった。

「んぎゃあああああ!」

 巨人族だった時は片手で握りつぶせたが、流石に今は無理なので、両手を使ってへし折る。

 治るとしても、当分スリは無理だろう。彼にも生活があるのかもしれないが、俺を襲った馬鹿さ加減を呪ってくれ。

 なんで田舎者だと思ったら、こんな大男にも手を伸ばすのか。

 リスクマネージメントができない犯罪者は、長生きできまい。

「ってぇえな……」

「おお、やんのかこら!」

「いってぇじゃねえか!」

 俺がスリを撲滅している間に、見ればオカカ王が地元のチンピラに絡まれていた。

 おそらく粋がって道を譲らせようとしたのだが、相手が悪かった。

 オカカ王は鬼人族の王なので、病人怪我人ならともかく、バカ相手に道は譲らない。

 そして、ケンカすることに対して抵抗感が薄いのだ。

「んぎゃあ!」

「んごぉ!」

「ひぃぁ!」

 特に躊躇なく振るわれる、二メートル近い筋肉ムキムキの大男の鉄拳。

 それは顔面に突き刺さり、チンピラたちの鼻や歯をへし折っていた。

 うん、見掛け倒しだと思われていたようだが、お互い氏族の頂点、荒事には慣れている。こんな程度の相手に困るようでは、戦闘民族の王は務まらないのだ。

「なあ、タロス! あっちから酒の匂いがするぜ」

「昼間っから酒かよ……」

 なんか、普通に観光している気がする。

 おかしい、このままだと妻に怒られるぞ!

 早く軌道修正しないと!

 でも酒は飲む。オカカ王が飲むらしいからね。


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