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弱さと、強さ

「通貨か……人間という物はよくわからんな」

「それが人間の弱みであり、強みです。それは前の大陸から変わりません」


 オカカ王は魔王の城の一室で、ラッパ王から指導を受けていた。

 とはいえ、非常に基本的な事ばかりであり、それも既に復習に近い。

 しかし、教える側にノウハウがあり、教わる側に熱意があるとしても、通貨経済の説明をするのは非常に難易度が高かった。

 それをやりおおせたあたり、ラッパ王は流石の手並みということだろう。


「通貨が弱みであり、強み……どういうことだ」

「定住して農耕する文明に、通貨は必要不可欠。個体としての弱さと引き換えに得た総体としての強さ、それが人間の文明です」


 オカカ王は通貨を指でつまんで撫でていた。

 自分の金棒と同じ色をしており、しかしくすんで見える小さい円盤。

 これに、人間は大層価値を見出しているという。

 まあ、それなりには綺麗だが、これにそんな価値があるとは思えない。

 ユビワ王国でアレックスを名乗る男から、ツノ族用の鉈や斧を一本ずつ程もらった。

 アレはかなり便利で、自分の村に持ち帰ったところたいそう喜ばれた。

 しかし、これはなんだ。これが生活にどう役に立つ。


「これがなんの役に立つ」

「これそのものは重要ではなく、分業という制度にこそ意味があるのです」


 これは戦闘に長じた五氏族すべての共通認識なのだが、人間は自分達よりも弱いという物だ。

 だが、彼らが攻め込んでくれば五氏族総出でかからねばならない。

 それはなぜか、単純に数が多すぎるからである。

 しかしそれは、逆に言えば人間は人口を増やすことができているということである。


「人間を五人ほどそこらの山に放り捨てれば、そのまま死ぬでしょう。ですが、五氏族ならば問題はありません」

「当たり前だ、そんな軟弱者はいない」

「それが人間の弱さ。強さを切り捨てた先の繁栄」

「弱くなれば、数が増えるってか?」

「その通りです。個の強さとは、繁栄にとっては不要なもの」


 ラッパにしてみれば、そもそも繁栄さえどうでもいいことだ。

 これはミミ族全体に言えることでもある。

 人間は確かに繁栄している、十氏族も確かに生命を謳歌している。

 だが、何時かは滅びる。人が死ぬように、他の多くもいつかは滅びる。

 あえてその滅びを早めたいとは思わないが、個体として生きるには時間が長すぎるミミ族には、総体としての繁栄に意味は見いだせない。

 それはそれとして、人間の繁栄には一目置いている。

 自分達には持ちえない、圧倒的な情熱には尊敬を禁じ得ない。


「病気が治らずそのまま死ぬ、獲物を獲れずに飢えて死ぬ、戦いで傷を負い倒れて死ぬ。九氏族はそれを仕方がないと諦めている」

「それは当然だろう、何をやったってどうなるもんじゃねえ」

「人間はそれを諦めないのです。弱い個人も救い上げ、役割を与える。良かれ悪しかれ、それが繁栄の理由」


 弱いものにも仕事を与える。

 それは搾取の構図であり、いい面ばかりというわけでもない。

 しかし、数を増やす上では、数を維持する上では、これが正解であり適切な物だった。


「もちろん、それは他の氏族にはできないことです。ですが、知ることが無駄というわけではない。オカカ王、いい機会です。人間の事を少しでも知ってくるといい」

「……俺は強くなりたいだけだけどな」

「そこにも人間の強さがあります。得るものは多いでしょう」


思うところありまして、一日一回投稿に切り替えます。

何と言いますか、このままでは一話を三回に分割しているだけですので。

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