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敵の姫様が綺麗だったので、略奪婚してしまった巨人の俺  作者: 明石六郎
第二章 結婚式と言う名のお披露目
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つかの間の帰宅とついでに氏族からの不満

 マリーの先祖であるシルファー様から結婚の許可が下り、ほんの少し肩の荷が下りた気がした俺であるが、斧がパワーアップしてもだから何だということはなく、アンドラやマリーと一緒に巨人族の村々を回っていた。

 当たり前と言えば当たり前なのだが、なんというか……巨人族の悪性を目にすることになっていた。


「「「「遅い!」」」」


 各村の御老体が、仮にも王様である俺に向かってそんなことを言っていた。

 気持ちは大変にわかる。結構急いだつもりだが、それでも大分遅くなってしまった。

 各村を回るということは、つまりは後半の村は後回しにするということである。

 必然、遅いと文句を言われるのだ。


「こっちはそこらの草を噛んで我慢してたんだぞ?!」

「俺達だってウサギぐらいしか食うもんがなかったんだ!」

「こっちだってな、そこいらの狐しか食えなかったんだぞ!」

「俺の村だって、そこらの魚を焼いて食ってたんだ!」


 政治はパンとサーカスだ、とはよく言ったものだ。

 少なくとも、最低限空腹を満たせなければ民衆は文句を言うものだ。

 そんなことはある意味当たり前で、俺にだって理解できることである。

 というか、これはある意味では日本でも地球でも、どんな状況でも起きることだった。

 問題は、じゃあどうしようか、という解決案である。

 他所の村から力任せに奪う、というのもそれはそれで正しい。間違いなく全員が思っていることだからだ。

 そして、やられると困るのが他氏族への略奪である。

 なにせ巨人族は腕っぷし以外何のとりえもない。

 他の氏族にケンカを売っても、なにも不思議ではない。

 だが、現状他の氏族にもたくわえがあるか、と言われれば微妙なところだ。

 第一、そこらに獲物は沢山いるのであるし。


「やはりここはタロス王に住んでもらうべきだろう」

「ああ、そうだ。ここらに住めば、此処が早く回ってもらえる」

「それなら俺の村がいいだろう」

「いやいや、俺の村だって」


 と、言い争いを始めた。

 これが民度の差、或いは国民意識だろう。

 要するに、自分とその家族さえ大丈夫ならそれでいい、という安易な発想である。

 まあ、気持ちはわからんでもない。

 今日を凌がねば来年など永久に訪れない。巨人族に税金などないが、社会保障など存在しないのだ。

 ああ、日本が懐かしい。生活保護とか年金とか、今にして思えば素晴らしい制度だった。

 ああ日本人、そんな制度が普及されるなんてすごいな!


「どうだ、うちには尻の大きい嫁がだな……」

「うちの孫はだな、乳がでかいぞ」

「どうだ、酒もたんとあるぞ」

「どうだ、一晩ぐらい」

「悪いが、他の村も残っている。それに俺はもう結婚しているし、これ以上嫁を増やすつもりもないし、住処を変える予定もない」


 はっきり言って、応じる気はない。

 大体、こいつらを助けても他の全員から嫌われるだけだ。

 それで諦めてくれるならまだいいのだが、絶対に諦めないし……。

 百のうち一人助けても、残り九十九から恨まれたら、労力に見合わないのだ。

 そして、その場合その村の婿になって村中の女から迫られる……。

 悪夢だ。


「け、けどよ……」

「次は早く来てくれるのか?」

「ああ、村の連中は皆怯えてるんだ」

「働き手が減っちまったからよ……」


 結局、彼らは彼らなりに、小さい自分のコミュニティーを維持しようと必死なのだ。

 いつものように、沢山の獲物を、食料を持ち帰ってくれる大人はいない。

 少ない老人と、子供たちだけが不安そうに狩りに行く。

 無事に帰ってくるだろうか、そんな不安を抱えながら、穴の中で暮らしていく。


「あの……」

「悪いが、ムリだ。いきなりどうにかできるもんじゃない」


 森魔族の姿をしたマリーはとても悲しそうな顔をしていた。

 気持ちはわかる。俺もあのエリック君ほど薄情ではないし、それなりに責任感は持ち合わせている。


「それに、珍しい事でもないからな」


 歴史的に見れば、そう言うことなのだろう。

 俺はそう理解していた。



 最後の集落を目指して、俺はマリーを抱えて歩いていた。

 それなりに急ぎ足だが、走ってもいいことがないとはよく知っている。

 そもそも、俺が転んだら俺の手に抱かれているマリーはえらい目にあうだろう。多分、死ぬ。俺の頭の高さから落ちて、俺につぶされたら落馬ってレベルじゃないしな……。


「あの、タロス王は……」


 もうすぐ最後の集落の有るあたりである。そこを巡れば、後はまた一周だ。

 そんな生活が、しばらく続くだろう。

 だが、先は見えている。

 少なくとも、村には男の子が多いし、老体といっても人間なら働き盛りで足腰が少し悪い程度。

 ほどなくして、狩りの獲物も安定するだろう。


「巨人族の王として奮戦されていると思いますが、改革などは考えていないのですか?」

「ない」


 申し訳ないが、そんな気はまるで起きない。

 生憎と俺は、熱意と才能に満ちた英雄ではないのだ。

 彼らに叡智というか知恵を与えるには、余りにもやる気がないのである。


「仮にだ、巨人族に保存のきく調理方法を教えたとする」

「はい」

「次の日には全部食べている」


 マリーが絶句していた。しかしそれが蛮族である。

 明日の事なんて考えるより、食えるうちに食えるだけ食う。それが蛮族なのだ。


「そうなんですか、アンドラ」

「ええ、その通りです。この気質はダイ族特有の物ですが……ツノ族もカタ族も似ているところはありますね」


 はっきり言って、内政チートというものには二つの大前提が存在すると、俺は理解していた。

 それは教える側の問題ではなく、教わる側の問題である。

 つまり、最低限こちらの話を聞こう、という姿勢が必要で、同時に理解できるだけの下地が必要なのである。

 そしてそれが、社会全体に存在しなければならないのだ。


「タロス王のおっしゃる通りです、ダイ族に貯蓄を普及させることは極めて難しいかと」

「そうなのですか……」

「そうなんだよ……」


 なまじ、年がら年中獲物が取れるからこそ、そう言う概念が育たない。

 なんでそんなことしないといけないんだ、という感情が彼らの根底にある。

 明日の食事、来月の食事、来年の食事。

 そんな先の事を気にしても仕方がない。

 とっておけば、他の奴に食われてしまう。

 怒って追いかけてもどうにもならないのだ。


「アリとキリギリスだな……普段から楽してるから、いざってとき困るんだよ……」

「はあ……寓話ですか?」

「そんなもんだ」


 仮に、そこらの森からウリ坊でもさらってきて、それを家畜にしようと色々模索したとしよう。

 その場合、確実にそこらの村から盗みに来る奴が現れる。

 そして、そのまま全部持っていかれるのだ。

 なんというか、個人の資産という概念がないのでそう言うことになるのだ。


「今までは、どうされていたのですか? 猟が上手く行かない時期もあるでしょう」

「人間から奪う」

「まあ……」


 いや、ほんとまあ、だよな。

 エリック君は救いようのない奴だったが、亜人を滅ぼせば周辺諸国は救われる、と言う主張だけは正しかったのだろう。

 それはそれで、こう、他の人間から搾取されるだけだとは思うのだが、だからと言って蛮族を許していいという話ではないからな。


「ただしばらくは無理だろう、大人が大分死んだからな」

「そうですか……いえ、人間でもそういう争いはありますけども……」


 巨人族は人類の敵、という認識は正しい。

 というか、人類にとって家畜以外の生物は基本敵だと思われる。

 第一、俺だって今更人間の味方面をするつもりはないし。


「最低限、道や橋だけでも造りたいんだが……流石に手が回らない。切り倒すならともかく、根っこを引き抜くとなると時間がかかりすぎるしな……」


 そもそも道ってどうやって作ってどうやって維持するんだろう。

 下手に木を切ったら土砂崩れになりそうである。


「そうですか……公共事業も大変ですね……」

「そういうことだ」


 仮に巨人族を相手に内政チートする奴がいるとしたら、それは洗脳能力の持ち主か、肉体改造能力を持った奴だと思われる。

 そうでもないと、命令を聴く、指示に従う、という最低限の行為さえままなるまい。


「仮にエリック君が何を知っていても、人間相手の調子で立ち回ろうとすれば、癇癪を起していただろうさ。アイツは……辛抱ってもんが足りなかった」


 あいつは大した奴だった。それは認めるところだ。単純に、森魔族と半鳥族の調査網を世界全体で振り切ったことも驚愕に値する。

 その上で、奴は魔剣の権威を借りたとしても、人間を仮でもまとめ上げた。それが無能なわけはない。

 いいや、それ以前に、奴は人類最強だった。魔剣の主にはなれるはずもないが、しかしそれでもバイル王国に集まったであろう同類を全部蹴散らして、優勝をもぎ取った男だ。

 きっと、落とし穴に落ちなければ俺ともいい勝負ができただろう。

 だが、奴は穴に気付かなかった、悪魔族の王子様がまるで気付かなかったように。

 別にアイツの事は嫌いじゃなかった。状況によっては友達にも成れたかもしれない。

 友達……友達か……いない……俺に友達いない。


「どうされました?」

「なんでもない……少し対人関係を嘆いていただけだ」

「タロス王?」

「いいんだ、俺には君がいるから」


 俺の腕に座っている我が妻マリー。

 この子がいるから、頑張ろうという気にもなるのだ。


「次の集落を回れば一回りだ。そうしたら一旦我が家に帰ろう」

「そうですね、結局一泊しか出来ませんでしたから」

「そうだな……ユリさんも待たせてるし」


 ユリさんの名前を出したら、俺もマリーも顔が真っ赤になった。

 彼女と寝て、なんというか、夢魔族の名前を理解した。

 夢に出てきてしまうのである、彼女たちの立ち姿を。


「期間は空いたが、二度目といこう……うん、今度は二人で拙くな」

「そうですね……なんといいますか、何もかもが急で……」


 実際の所、ただ俺に抱えられているだけのマリーにも疲れの色が見えた。

 少なくとも彼女は、こうして座り心地の悪い巨人に抱えられて移動し続ける日々に慣れていないのだろう。

 それに、俺の領地は基本的に背の高い木と山ぐらいしかないし、虫だって多い。

 その状況で野宿の連続だ。気が休まるということはないだろう。


「何日か休んでもいいし……何だったら君には休んでもらってもいいんだ」

「いいえ、妻として夫の仕事を見ていたいのです」

「その気持ちは嬉しいが……」


 実際、見ても何にもならないと思うのだ。

 仮に彼女が病気になったとして、それが治ったとして……。

 それでも俺は気が気ではないのだ。

 さらった手前いうことではないが、彼女にはできるだけ幸せであってほしいのだ。


「ご迷惑ですか?」

「そうと言えばそうだが……何よりも君には負担だろう」

「そうですけども……」

「何事もゆっくりといこう、ムリをしてもいいことはないんだから」


 とりあえず、我が家に赴くとしようではないか。


「待っていました、ダイ族の王よ」

「よろしければ、少しお話をしませんか?」


 最後の集落を回って帰ってきた我が家には、森魔族と夢魔族の王が揃っていた。

 勘弁していただきたい。

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