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触ってはいけないことと、普通の内政

「う~~ん、とりあえず食糧生産のために人手はいくらあっても足りないけども、道路を作らないと人を送るのが難しくて……工具は間に合ってきたし、シャケはよく働いているけど……やっぱり人が足りない……」


 ユビワ王国のエンゲー女王は、今日も執務室で頭を悩ませていた。

 なにせ、労働力が不足している。幸い、先日ここに越してきたツノ族の若者のおかげで大幅に筋力が補強されたが、それでも人数が足りない。

 具体的に言うと、あと五人ぐらい欲しい。

 農作業ともなれば、それなりに専門的な知識、或いは少々の経験が必要だ。しかし、木を切り倒して運ぶことが簡単な野人なら、道の整備は一気に楽になる。

 ツノ族は比較的非力に分類されるという。この際、少々無礼を承知でタロス王に頼もうか。彼がダイ族に声をかけて、五人ぐらい連れてきてくれれば、それだけで労働力が浮く。

 その浮いた労働力で、したいことがわんさかとあるのだ。


「漁場はあるけども、そこから運ぶにも人手が必要で……」


 道がないとモノを運ぶのに労働力がいる。

 道を作るのに人数を割くと食料の確保ができない。

 しかし道を作らないといつまでも無駄な労働力が割かれ続ける。


「ダイ族がいれば……カタ族でもいいけど……」


 そんなことを考えながら、一旦執務室から表に出る。

 そこには、シャケや一般のダイ族と比べても、尚大きいタロス王が待っていた。

 自分の仕事がひと段落するまで、ここでこうして待ってくれていたのである。

 やはり、寛容で人付き合いのできる方なのだろう。

 とはいえ、自分の氏族に対しては余り甘くない当たり、話し合うには少々気を遣ってしまう。

 うっかり逆鱗に触れては、元も子もないのだ。


「どうやら、本気で忙しいようだな」

「ええ、やはり町を作り直すとなると、都市計画を練らねばなりませんから……」

「そういう頭脳労働ができるだけでも大したものだ」


 簡単に壊したり、やり直したりできないからなぁ、と感心している。

 自分がそれをしたらあっさり失敗して、とん挫するであろうという自信があるのだ。

 何から手を付けていいのかわからずパニックになりかねないが、そうなっていない当たり彼女はすごいなあ、と本気で尊敬している。

 チートもないのに内省している辺り、彼女は本当にえらい。

 そんな風に思っている彼を見て、エンゲーは恨みがましく思っていた。

 彼が数日頑張ってくれたなら、そのまま道ができそうなのだが。

 恩着せがましいことは分かっているが、それでもそう想像せずにはいられないのだ。


「そういえば、奥様がそろそろ出産と聞きましたが」

「ああ、そっちも順調だ。なにせ、妻にはヨル族がついているからな」


 助産婦、というのであればそれはそれでヨル族の特技である。

 なにせ年中盛っているので、その分子供の出産に立ち会うことも多いのだ。


「そうですか、確かにそれは安全ですね」


 それは人間の間でも有名な事である。

 ヨル族の助産婦は、決してはずれが無いと。

 それこそ、自分の妻の出産のために、ヨル族がいるという村を訪ねる領主がいるほどだとか。

 彼女達もその辺りは奉仕精神を発揮するので、割とあっさり応じるのである。


「マリー様がお幸せそうで何よりです」

「そうか……ところで、そっちはどうなんだ?」

「何がですか」

「エンゲー女王は、結婚は考えていないのか?」


 その時、タロスは後悔した。

 彼女の目の中に宿った、洒落にならない何かを。


「いま、なにか、おっしゃいましたか、タロス王」

「なにも、いって、ない」

「そうですか、それはよかったです」


 婚期を逃した女に、言ってはならないことがある。

 それを知るタロスは、遅くなったが話題を引っ込めていた。


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