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これからの話と、ついでに昔の話

 さて、可愛そうなエリック君の末路はあんまり語りたくない。

 強いて言えば、非文化的かつ非人道的な行為が、極めて私的に行われただけである。

 彼は森魔族の手配によって、既に人間の領地に送り返されているだろう。

 そのあと、政治的な判断という、文化的かつ知的な思考の元に裁判が行われ、彼は目も当てられないことになるだろう。

 それこそ、野蛮で残忍な原始人には思いつかない行為が、彼の未来に待っているはずだ。


「さて、しばらくぶりだな。タロス王に、マリーよ」


 俺とマリーは、魔王城に赴いていた。

 石造りで重厚なその城の、謁見の間で俺は玉座に座っていた魔王の前で座っていた。

 相変わらず、人間の少年と変わらない容姿であるが……玉座に座っている彼の尻からは、一本の尾が揺れていた。

 なんというか、小悪魔感のある動きだった。


「どうやら夫婦仲睦まじい様で、とても嬉しい」


 うむ、と魔王は、『魔王シルファー』はそう頷いていた。

 自分の遠い子孫を見る彼は、なんというか先日自分の息子の尾を切って、鬼人族に差し出したようには見えない。


「シルファー様……どうぞ、この魔剣を」

「魔剣アインか、懐かしい……二千年ぶりだな」


 そもそも、巨人の俺と人間のマリーで子供が作れるのか?

 答えはできる、である。

 人間と九氏族は、交われば子供ができる。

 仮に俺とマリーの間に子供ができれば、人間にしては大きい子供、或いは巨人にしては小さい子供が生まれる。

 種族の特性が弱まる形で、子供は両親の性質を受け継ぐのだ。

 もちろん、悪い事ばかりではないらしいのだが……巨人は大きいことを価値として、他の氏族も氏族らしさを優先するため、例が極めて少ないのである。


 では、悪魔族と呼ばれるカミ族が人間と子供を成せばどうなるか?

 人間にしては長い寿命を持つ子供が生まれるのだ。それがマリーの先祖、リストだという。

 二千年という長い年月、人間と他の氏族の対立、それらが史実を書き換えてしまったのだが……。

 そもそも十人の王で、人間は聖剣を与えられたただ一人。他は全員、九氏族の王だったのだ。

 だからこそ、俺がこの斧を持つこともまた、正当な権利なのである。

 製作者である魔王がそう言っているんだから、当然である。


「人間との間に成した子、リスト……アレは可愛い子でな、多くの子をもうけたが、アレが一番かわいかった」


 長寿の悪魔族は、二千年を経ても変わらぬ容姿であるらしい。

 子孫であるマリーよりも幼く見えるのではないか、という魔王は昨日のように自分の娘を語っていた。


「その内旅立つころには、お父様のような童顔ではなく、豪傑に嫁ぎますと言ってな……せめてと思ってこの剣を与えたのだ」


 人間にとっては歴史でも、彼にとっては思い出でしかないのだろう。

 今も亜人の九氏族をまとめる魔王は、マリーが差し出した剣を手にとり、剣そのものよりも剣に託した思い出を語っていた。


「国母であるリスト様は、二百年ほど生きられたと伺っています」

「短いな……余りにも過去だ」


 多くの国で、人間が亜人と同列でこの大陸に至り、協力していたという事実を忘れていく中で、律儀に最古の国の王家にはその言い伝えが残っていたようだ。

 だからこそ、魔王領への侵略は反対だったのだろう。


「で、どうであったか、タロス王は。お前にぞっこんであろう?」

「はい……とてもお優しい方です」


 マリーがリラックスしていた理由、俺に対して好意的な理由もわかった。

 彼女にしてみれば、会ったことのない祖父の家に来たようなもので、それを魔王本人から聞かされて安心していたのだ。

 魔王から俺の事を褒めて聞かされて、それが本当で嬉しかったのだろう。


「善き王であり、善き夫であろうとしてくれています。そんなタロス王を、支えられる妻でありたいと思っています」

「ふむ、それは良い。実に良い」


 娘の子孫が幸せそうで、幼い容姿の魔王は男泣きをしていた。


「さて、我が娘の起こしたバイル王国ではこの魔剣アインは婿に与えるように言い伝えられていたが、タロス王には既に大斧ズィーベンを授けている。故にこれは手元に戻そう。さて」


 魔王は、手にした剣を俺に向けてかざしていた。

 というか、俺の持っている斧に向けてかざしていた。


 なんの冗談だ、と思っていると魔王の持つ魔剣が輝きだし、俺の斧も輝きだしていた。

 黒い魔剣は正に黒いオーラを放ち、銀色の斧はまさに銀色のオーラを放っていた。

 なんというか……この世界で初めてファンタジーな状況である。


「始まりの魔剣は、他の武器を支配する……」

「ふむ、ダイ族は既に忘れていると思っていたが……エリックとやらから聞いていたのか?」


 俺の呟きに対して、魔王は律儀に答えていた。

 それこそ、とても懐かしそうな顔をしている。


「この魔剣はこの大陸に至る以前に、旅の仲間である他の氏族の王たちに送った武器の試作よ。無論カミ族でなければ扱えぬが、こうして他の武器を起こしたり、寝かせることができる」


 なんというか、哀れな話である。

 悪魔族である魔王シルファーが自分の為に作ったという魔剣アインは、つまり人間であるエリック君にとってただの頑丈な剣でしかなかったのだ。

 よくわからんが……仮に真価を発揮しても、支配の力を発揮しても、剣からビームが出て敵を切り裂く、というわけではないようだ。

 最初から真価を発揮できず、できても意味がないとは……。


「今より、タロス王の大斧ズィーベンを起こす」


 というか、魔王はそんな重要なものを娘にあげちゃったのか……。

 なんて無責任なんだ……。


「我が永遠の友、アトラスの末裔よ。我が娘の末裔をよろしく頼むぞ」


 武器を起こすことができる、という意味はよくわからない。

 しかし、どうやら……俺の斧はパワーアップしていたようだ。

 本当によくわからんが、俺の持つ斧は常に鈍い輝きを放ち続けている。


「これが結婚祝いだ。短い人生を、幸せに過ごすが良い」


 ただ、そんなこととは関係なく、とても嬉しそうに笑う魔王に結婚を認めてもらっていたことで、俺は少なからず胸のつかえがとれていた。


「さて、どうだマリーよ。この際手紙など書いては? 一応連絡は済ませてあるが、直筆の手紙を送れば貴様の父の心配もほぐれるであろう!」

「はい、そうさせていただきます。父や兄弟たちに……」


 マリーは笑っていた、とても幸せそうに。


「とても、素敵な旦那様を得ましたって」

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