39.潰しました
《ふふっ、何でもないわよ。気にしないで、リアちゃん》
「私、仲間外れにされていない?」
《そんなことないわよ》
私の視線に気がついたミリアが優しく頭を撫でてくれるが、四人で内緒話をされるとやはり気になってしまう。
《リアがこいつをどうするんだろう~……って話し合っていただけだよ》
「何だ、そういうことか」
ブラッドは一応、暗殺者だもんね。
私の方針次第でみんなのやるべきことが変わってくるから、そのことを話していたようだ。
「そうだね~。――ねぇ、率直に聞きますけど、私を殺しに来たんですか?」
「……」
私の質問にブラッドはだんまりである。
まあ、率直に聞き過ぎて答えづらかったのかもしれない。
「自分の意思で来たわけではなさそうかな? 命令で仕方がなく来た?」
私の前半の言葉にブラッドは無反応で、後半の言葉に僅かに息を呑んだ。
なるほど、嫌だったけど仕方がなく来たってところか。
「その命令に強制的な何かはありますか? ブラッドが止めようと思えば止められる?」
「……」
生い立ちからして恐怖を刷り込まれて育てられているかもしれないし、暗示や洗脳っぽいことをされているかもしれない。
また、残念ながらこの世界には、むりやり従属させる道具は存在する。
それら可能性も含めて聞いてみたが、ブラッドは黙り込む。
「進んでやっているわけじゃないよね?」
「……失敗扱い……に、される」
「失敗? あ、罰とかがあるのかな? というか、帰らなければ罰せられなくない?」
ブラッドがいる組織がどんなところか知らないけれど、帰らなければ罰は与えられないよね。
思ったことを口に出してみたら、ブラッドは呆然としていた。
「……ぇ?」
「うん、うちにいればいいよ」
ブラッドは攻略対象者なのであまり関わりたくないところだが、ブラッドの場合、職種柄っていうのかな、行動が読みづらいんだよね。
だから、手元に置いて観察したほうがいいような気がするのだ。
《……リア、こいつも手元に置く気?》
《リア、止めろよ》
《まあ、まあ、リアちゃんったら~》
「従者にでも仕立てますか?」
ヒューリーは呆れている?
ルークは反対。
ミリアは面白がっている。
ジルベールはノリノリ?
私の提案というか、思い付きな発言に精霊達がそれぞれ意見を言ってくる。
「あ、でも、ブラッドがうちにいることはすぐにバレるかな?」
ブラッドが消息を絶ってまず調べられるのは、仕事に出た先。
ってことで、うちだよね?
「ん~?」
……裏組織を潰すか?
あ、でも、私じゃ物理的には無理だし、策略を巡らせて……という得意じゃないしな~。
精霊であるみんなに手伝ってもらえればできるだろうけど……私的過ぎるお願いをするわけにはいかないよね?
《リア、考え事が全部口から出ているよ。でも、それがいいと思う。潰そう。リアを狙う組織なんて潰すに限る》
《俺も協力するぜ。任せろ》
《一度あったことは二度あるっていうものね~。今後のためにも徹底的にいきましょうか~》
「騎士団にも協力させましょう。組織だけじゃなく、依頼主も調べさせないといけませんしね」
「……あれ?」
……考えていることが全部口に出ていたらしい。
しかも、みんながみんな賛成であるようだ。
というわけで、精霊達はブラッドと共に裏組織に出向き、その日のうちに壊滅に追い込んだ。
まあ、私はお留守番していたので、全部聞いた話だけどね。
隠された書類を見つけ出すことなど精霊達にかかれば容易なことだ。
些細なものも残さずに見つけ出された書類は騎士団へ届けられ、組織の人間はもちろん、組織に依頼した人間も全員摘発された。
組織にはブラッドのようにむりやり使われていた人間も多くいたらしいが、一人ひとり詳しく調べられた。
今回が初仕事であったブラッドは情状酌量が認められ、ブラッドの身柄はしっかりとジルが確保してきた。
「じゃあ、ブラッドも今日からうちの子だね」
「よ、よろしくお願いします」
ブラッドは私の七歳年上の十四歳。
エメラルド公爵家に雇われることになり、私専属の従者となった。
ここまで、ブラッドの私の部屋への侵入から丸一日もかからないって……うちの精霊達、もの凄く優秀すぎ。