37.迷子になりました
突然ですが、私、ヴィクトリア(七歳)は絶賛、迷子になっております。
場所は王都を出てすぐ傍にある広大の森。
「……ここはどこ~?」
とりあえず、王都周辺に生息する動物は把握できたので、早速、ルークに頼んで森まで飛んできたのだが……迷いました。
ここに連れてきてくれたルークだが、森に着いた途端《美味しい果物を取ってきてやるぞ!》と言い残してどこかに行ってしまったのだ。
私もじっとしていれば良かったのだが、森の中にぽつーんと一人でいると、とっても寂しかったのだ。
なので、少しぐらいなら大丈夫だと思い周囲に生えている植物を見て回っていた。
そう、植物を見ていたので、自分が歩いていた道筋を一切覚えていなかったのだ。
「うぅ~、見たことのない植物に気を取られ過ぎた~」
ルーク、早く帰ってこないかな~。
《あ~、こんなことになっていると思ったよ》
「ヒュー!」
《ルークはリアを放置して、どこに行ったのさ》
「果物を取って来てくれるって。うぅ~、ヒューが来てくれて良かった~」
泣きそうになっていると、ヒューリーがやって来てくれた。
ヒューリーは大きい姿になると、ひょいっと私を抱き上げた。
精霊は成長しないのでヒューリーは高校生くらいのイケメン青年のままだが、私は7歳となって年相応に育っている。
なのに、そんなこと関係ないという感じに未だに持ち上げて片腕に座らせるのだ。
いつもなら恥ずかしくなって「下ろして」と訴えるところだが、今日はヒューリーの首にしがみつく。
少しの時間だったが寂しかったみたいだ。
《ルークのやつ、後で説教だな》
「私も悪かったから、ほどほどにしてあげて~」
めそめそしながら、少しだけルークの擁護をしておく。
一人にされたのはあれだが、ルークに悪気はないわけだし、迷子になったのは私自身の責任だからね。
《いや、駄目だね。リアを一人にすること自体がありえないことだからな!》
ヒューリーは静かに怒っていた。
擁護は意味がなかったようだな。
『グルルッ』
そんな時、茂みの中から獣の唸り声が聞こえてきた。
「え、何?」
《フォレストウルフだね》
「あ、本当だ」
灰色の狼が茂みから顔を出した。
フォレストウルフという森に出る狼で、そこそこの戦闘力があり1対1ならば倒せるくらいの存在だ。
《森の中なんだから、あいつみたいのが寄ってくるんだよ。な、そんな場所でリアを一人するのはありえないだろう?》
ヒューリーは蔦を操り、フォレストウルフを締め上げながら私を窺ってくる。
「走って逃げても追いつかれるよね?」
《そうだね》
「ヒューが来てくれて良かった~」
私の足じゃ逃げきれないし、倒すことなんて以ての外だ。
絶賛迷子中に出会わなくて良かった!
《リア、フォレストウルフの毛皮と牙は売れるけど、持って帰るかい?》
「え? そ、そうだね。捨て置くのも勿体ないから持って帰るかな」
今ではもうかなり財産が蓄えられているけれど、捨てるのは勿体ない。
貧乏性である。
それに、時々高額な魔道具などを買うことがあるので、お金はあるにこしたことはない。
なので、ヒューリーの助言にありがたくフォレストウルフをポシェットに収めることにした。
とりあえずポシェットに入れておけば、後でどうとでもできるしね。
時間停止、容量関係なしのポシェット様様である。
《じゃあ、リア、この後はどうする?》
「え?」
《まだ帰るには早いし、適当に森の探索でいいのかな?》
「いいの?」
《もちろん、リアの望むままに》
この後、ヒューリーにいろんな植物について教えてもらいながら森を探索した。
《あ、リア、魔霊草が生えてるよ》
「え? こんな王都のすぐ傍の森に?」
《あ、これはリアが好きなハーブだ。よし、たくさん採ろう》
「うわ~、いっぱい生えてる~」
《ここにはイーチの実があるよ。リア、イーチの実好きだったよね?》
ヒューリーがどんどんといろんな植物を発見してくれ、なおかつ集めてくれたお蔭で第1回森探索は無事に、かつ充実な結果で終わった。
まあ、探索後、ルークがヒューリーにお説教されたのは余談である。