30.良かった~
《いや~ん。リアちゃんったら、本当に良い子だわ~》
例のごとく、私とジルベールから黄色い光が放たれてその光が収まると、ミリアが突撃してくるように抱きついてきた。
《良かったじゃないか、雷の……いや、もうジルベールだな。愛称をジルにするなんて、リアは本当に気遣いのできる子だな。さすが僕が契約した子だ》
《雷のはジルっていう名前を大事にしてたもんなー》
やっぱり大事な名前だったんじゃん!
みんなも知っていたのなら、教えてくれたらいいのにぃ~~~。
「もぉ~。やっぱり大事な名前だったんだぁ~。気のせいじゃなくて良かった~」
「新しい契約に私情は挟めません」
《ジルは固いんだよ》
本当だよ。
たとえ私に主導権があるんだとしても、主張くらいしてもいいと思うんだよね!
これはきっちりと言っておかないと!
「ダメ! 今度からはそういう大事なことはちゃんと主張してね!」
「……」
「約束して!」
「……」
《ジル、リアはこういうことは絶対に折れないぞ。観念しておけ》
「……わかりました」
ジルベールは私の言い分に無言で探るように見ていたが、ヒューリーのダメ押しが入ってやっと約束してくれた。
「あ、あとね、嫌なこととかも教えてね。無理する必要はないんだからね」
精霊にだってちゃんと感情があるのだから、無理強いはしたくないしね。
「ね?」
「……はい」
無理強いしたくないと言いつつ、今現在無理強いしているっぽいけど、これは譲れないからね~。
うんうん、これでよし!
《あら、そうそう。リアちゃん、忘れないうちにポシェットを返しておくわ~。でね、少しお金を使わせてもらったわよ~》
「別にそれは構わないけど……ミリアがお買い物なんて珍しいね?」
ミリアがお買いものなんて本当に珍しい。
何か欲しい物でもあったのかな?
もともとお金はヒューリーやミリアのお蔭で稼げたお金なんだから、遠慮しないで普段から使ってくれたらいいのに……。
《ふふふ~。リアちゃん、さっきのお店のケーキを楽しみにしていたでしょ~。だからね、ケーキをいっぱい買ってきたわよ~》
「えっ!?」
何ていうことだっ!
ミリアが欲しいものを買ったんじゃなくて、私のためにケーキを買ったってこと!?
っ~~~。
「~~~! ミリア、大好きー!」
抱きついちゃえ!
《うふふ~》
《むぅ。……ずるいぞ、ミリア》
《今回は私の勝ちね~》
何故かヒューリーがミリアを睨み、そんなヒューリーにミリアが悠然と微笑んでいた。
「どうしたの?」
《何でもないわよ。さあ、お家に帰ってゆっくりお茶でもしましょうね~》
「わぁ~。楽しみ~」
《そうだな。もう用は終わったしな》
《俺も一緒に行っていいんだよな?》
「もちろんだよ。ルークもジルも一緒に帰ってケーキを食べよう」
「私は後から行きます」
うきうきと帰宅モードだったが、ジルベールだけがこの場に残ると言った。
「え? どうして?」
「私は現在、騎士団に所属していますからね。そのことについて話しておかなくてはいけませんからね」
「あ!」
そうだった!
え、えっと……どうしたらいいんだろう?
「えっと、えっと、えっと……?」
退団手続きをすればいいのかな?
でもでも今さらだけど、ジルベールが努力してせっかく近衛騎士になったのに、辞めちゃうのってもったいないよね?
「うぅ……」
「大丈夫ですよ。私が自分で手続きしますから」
私がおろおろとしていると、ジルベールがそう言って宥めてくれて、私達はジルベールだけを残してそのまま先に帰ることになった。
後から気づいたんだけど、私ってばすっかりカイル=スピネルのことを放置して帰っちゃったんだよね~。
あの場には父が残っていたから対処してくれたみたいだけど、あれ以来、カイル=スピネルは私の前には現れなかったんだよね。
あ、でもでも、人知れず処分されたというわけではないよ!
詳しくは教えてくれなかったんだけど、一から鍛錬のし直しをするとか何とか……。
近衛から外されて、さらに王都にはいないみたいだけどね。
数年は王都外で勤務することが決まっているようなので、マリエッタに出会って恋に落ち、私が弾劾されて投獄されるルートは潰されたってことだ。
じゃあ、結果オーライってことだね♪