29.またです
「なかなかの逸材なのは間違いないですね」
《だろ? 契約しろよ~》
《リアは良い子だよ。雷の、ぜひ契約してくれ》
いやいやいや!
二人とも凄ーく契約を勧めているんだけどぉ!?
だから、本当にちょっと待とーよ、ねぇ!
《リアちゃん、ただいま~》
「ミリアっ!」
ああ、私の救世主が戻ってきたっ!
ミリア、この状況をなんとかして~。
《あら~。リアちゃん、可愛いおめめが涙目よ~。私がいない間にまた何があったのかしら~? そこに転がっているのが、この期に及んでまで何かしたのかしら~?》
あ、カイル=スピネルのことをすっかり忘れていたわ~。
……気絶してるね。
うん、じゃあ、また放置でいいよね?
そんなことよりも――
「ミリアー、ヒューとルークがぁ~~~」
《あらあら? ヒューリーがどうかしたの~? それとルークっていうのは誰かしら~?》
《俺だ、俺》
《あら~? 風の~? あなた、やっとリアちゃんと契約したのね~。気にしているのが見え見えだったのに、全然行動しようとしなかった姿は焦れったかったわ~》
《う、うるせー! 今はそれ、関係ないだろっ! それよりも今は雷のほうだよ!》
《雷の? あらあら~、珍しいわ~。あなた、正体をバラしたの~?》
あ、ミリアも雷の精霊さんとは顔見知りなんだね。
《雷のとリアを契約させようとしてるんだよ》
《あら~? 雷の、そうなの~?》
「ええ、契約しようと思います。お嬢さん、私に名前をいただけますか?」
「えっ!? いやいや! ちょっと待とうよ!」
やっぱり契約しちゃう流れなの!?
上級精霊はほいほい契約しないんでしょう?
何で私に限ってはほいほいしちゃうわけっ!?
「ミリア~。こんな簡単に契約するのはまずいよね? 考え直すように説得して~」
《リアちゃん、リアちゃん》
「ん? なーに?」
《契約しちゃいましょうか~》
「えっ!?」
まさかの、ミリアも契約推奨派かっ!
父達のほうを見れば、“自分達は口を出せません”とばかりに首を横に振られた。
み、味方がいない!?
《リアちゃんの気持ちもわからないでもないけどね~。でもリアちゃん、精霊っていうのはね、嫌な相手には絶対に契約を持ちかけたりしないのよ~。だからね、契約の話が出たら受けてくれたほうが嬉しいのよ~》
「うぅ~~~」
そんなこと言われたら、これ以上拒否できないじゃないかー。
「わかった。えっと……ジルさん、これからよろしくお願いします。……でも、ジルさんは名前はあるよね? それなのに私が名前をつけるの?」
「ジルは前の契約者がつけてくれた名前なのですよ」
おお~、ジルさんは前にも人と契約したことがあるんだ~。
「新たに契約する場合は、その契約者に新しく名前を貰うものなんですよ」
「……そうなの?」
「はい」
でもでも!!
ジルさんは穏やかそうな笑顔をしているが、少し悲しそうなのだ。
あれは名残惜しいって感じの表情だよね?
やっぱり愛着ってあるよね……。
前の契約者と良好な関係だったのなら、尚更!
んーと、んーと……そうだな~~~。
「じゃあ、ジルベール。ジルって呼んでもいい?」
「ジルベール……ジル……。ありがとうございます、リア」
ジルさん改め、ジルベールは朗らかに微笑んでいた。
良かった、気に入ってもらえたようだ。