25.もういらないです
私はヒューリーに抱えられ、カイル=スピネルとともにお店を出た。
カイルは蔦でグルグル巻きにされて、ヒューリーによって引きずられているけどね。
いや~、精霊が人を引きずっている光景に、通行人は誰もが唖然としていたね~。
唖然としたのは私もで、お蔭で涙はぴたりと止まったよ。
この状況をどうにかしたくても、ヒューリーの様子が尋常じゃなかったので、されるがままに運ばれることにした。
後ろから追いかけてきた兄や護衛達が顔を引きつらせていたのを見て、状況は思っていた以上に最悪だと悟ったのでね。
でも、私がヒューリーにやらせていると思われるのが嫌で、ヒューリーの首に抱きついて顔を伏せた。
涙は既に止まっちゃってるからね。
これなら、引きずられている人物が私に何かして、精霊の逆鱗に触れたと思われると思うんだ。
城でも精霊のすることを止める人はいなかったので、ヒューリーはそのまま堂々と城内を闊歩していた。
まあ、城は私達のことを知っている人も多いから、逆に止めないわな。
王様の執務室に着くと、状況を見た王様が即座に人払いをして父を呼び出した。
で、集まった人達が私に事情を聞いてきたが、私は黙りを決め込んだ。
「……」
その間、ヒューリーの怒気もビシバシ。
王様の顔から物凄い冷や汗が流れていた。
「フレッド、バード、何があったんだ?」
埒が明かなく、父は今日一緒にいたフレッド兄とバード兄に説明を求めた。
すると、フレッド兄とバード兄は今日あったことを順を追って説明した。
「「「「「…………」」」」」
説明を聞いた執務室内にいた大人達は全員絶句している。
まあ、もう少しでヒューリーが暴れるところだったと聞かされればそうなるだろう。
さらに今日のことだけではなく、普段の様子についてもヒューリーが説明していた。
「「「「「…………」」」」」
さらに絶句。
あ、父以外の大人――王様と騎士団長さんと王様の侍従さん、それにアスターの顔色がさらに青くなっている。
「あ~、私でも気が滅入りそうな護衛だ。逆に今までリアが我慢していたのが偉いと思うぞ」
「「……」」
王様と騎士団長さんの顔が絶望的な表情に。
何だが気の毒になってくるほどの表情である。
「しかし、何だってそんな状態になったんだ? エルントスやレオニールが選んだくらいだから、彼は護衛としては優秀なのだろう? 私も噂程度には知ってはいるが……確か、真面目な人物だったはずだ。少々融通が利かないとは聞くが、実力で近衛になったんだろう?」
そうか。
父が噂で聞くくらいには、カイルは夢の通りの人物なのか。
「……」
「……エルントス、原因がわかっているって顔をしているぞ。これ以上、悪くなりようにない状況なんだ。正直に話せ」
「……と」
「なんだ?」
「常に側に身を置き、怪しいものは一切近づけず、場合によっては排除しろと……」
「そう命令したのか?」
「……」
「お前は……」
どうやらカイルの態度は、王様の命令を忠実に守っていた結果だったようだ。
まあ、だからといって彼の態度が許せるわけではないけどね。
「カイル=スピネルの性格を考えたらその命令はないだろう……」
父がぽつりと零した。
父よ、私もそう思うわ。
臨機応変に動ける騎士相手への命令ならありかもしれないが、カイル相手には間違ってもしちゃいけない命令内容だと思う。
だって、本当にその命令通りに遂行する人物なのだから。
父は頭が痛いのか、こめかみを揉み込んでいた。
「し、至急、別の護衛の選定を――」
「いらない! もう護衛なんていらないからっ!!」
おい、ちょっと待てっ!
私は王様の言葉を遮り、自分の意思を主張した。
もう、護衛なんて面倒なんでいらないやい!
「しかし……」
「やだっ!」
「あーあ、これは完全にトラウマになっているな~」
私の頑なな拒否に、父は仕方がないという感じだ。
このまま押し切れば、護衛は外してくれるかなー、と思っていたら――
《なーに騒いでんだー?》
誘拐された時に手助けしてくれた風の精霊さんが現れた。