24.私の可愛い子(ミリア)
リアちゃんの感情に異変を感じ、慌ててヒューリーとともにリアちゃんのもとに向かった。
するとそこには、今にも泣きそうなリアちゃんが。
その瞬間、ヒューリーは誰から見てもわかるような怒気で、周りを威嚇した。
原因は……ああ、あの護衛なのね……。
予想通りといえば、予想通りだわ。
だってリアちゃんはあの護衛に関しては、前々から泣きそうにしていたものね。
だけど、その感情を頑張って押し込めていたのよ。
私達が行動に出ないようにするための行為だったので、リアちゃんの努力を無駄にしないようにしていたのだけど……。
やっぱり、その必要はなかったみたいね。
はぁ~……これならさっさと排除したほうが良かったわね~。
《こらこら~。ヒューリー、少し落ち着きなさい~。獲物を狩るのはいいけど、そのまま怒りに任せて行動したら建物すら塵と化しちゃうでしょ~》
「「「「っ!!!」」」」
私はとりあえず、怒りに任せて力を使おうとするヒューリーを止めた。
あら、リアちゃんのお兄様達が目を見開いて驚いているわ。
まあ、もうちょっとで建物が塵になっていたかもしれなかっただなんて、そりゃー驚くわよね~。
《そんなことしたら、リアちゃんが悲しむわよ~》
リアちゃんが悲しむ、その一言でヒューリーは少しだけ落ち着いたようだ。
私のリアちゃんは自分が傷ついていようとも、周りに被害が及べば傷つく子よ。
本当にリアちゃんはいい子なの~。
ヒューリーもそれがわかっているから、私の言葉を聞き入れて思いとどまり、護衛の彼を蔦でグルグル巻きにして床に転がしていた。
《こいつだけ処分するなら問題ないか?》
ヒューリーの怒気は多少収まったが、収まりきらなかったのだろう。
ヒューリーは護衛の彼をぐりぐりと踏んでいた。
《ダメよ~。リアちゃんはそこまで望んでないでしょう》
本音としては、私はヒューリーに賛成なのだけど……。
それをやると、やっぱりリアちゃんが悲しむのよね~。
《だけどこいつはリアを悲しませたんだぞ》
《ダメよ~》
《ちっ!》
ヒューリーったら、舌打ちなんて器用なことをするわね~。
少し人間臭くなったんじゃない?
まあ、そういう私もリアちゃんと契約してから、リアちゃんとお菓子を作ったりするのが楽しくなっているから、同じなのかしら?
《リアちゃん、もう大丈夫だからね。とりあえずリアちゃんは、ヒューと一緒にお城に行っていてね。――ほら、ヒューリー。あなたはリアちゃんとその問題児を連れて先に城に行ってなさい。王に返品してきなさい》
《わかった》
「……ミリアは?」
《大丈夫よ。ここは片付けたらすぐにリアちゃんの側に行くわ~》
ここで私のことを気に掛けてくれるなんて~。
自分のことでいっぱいいっぱいのはずなのに~。
いや~ん、リアちゃんって本当に良い子だわ~。
《あ、リアちゃん。リアちゃんのポシェットをちょっと貸してちょうだい》
「うん……ぐずんっ」
《ありがとう》
まだ少し泣いているリアちゃんだけど、私のお願いにそれでも頷いて返事をしてくれていた。
リアちゃんのポシェットには、人間にとって価値があるものがたくさん入っているんだけど、リアちゃんは何も問わずに簡単に私に託してくれた。
己の契約精霊だとしても、それは簡単にできることではないわよ~。
リアちゃんからポシェットを受け取ると、ヒューリーはリアちゃんを抱いたまま、蔦でグルグル巻きにした護衛の彼を引きずって店から出ていった。
あとは……。
《ほらほら、リアちゃんのお兄様達。あなた達もついていかないと、誰が事の顛末を説明するの? ヒューが好き勝手にねつ造しちゃうわよ?》
私がそう言うと、はっとしたお兄様達が慌てて店を出ていった。
《えっと、あなたは邸でリアちゃんとよく一緒にいる人よね~? あなたはここに残ってね~。で、そっちの彼はリアちゃんのお兄様達の側でよく見る人よね~? で、そっちの彼は?》
私は一人一人、指を差していった。
えっと、リアちゃんの侍女(?)と、あとはお兄様達の侍従(?)ってやつだったかしら?
もう一人は見掛けたことがないのよね~。
でも、一緒にいるのだから関係者よね?
「っ!! 彼は護衛です」
《護衛~? ふ~ん、あなた一人?》
「い、いいえ! あとの者は店の外におります!」
《そうなの~。じゃあ、あなたは外にいる護衛を連れてお兄様達を追いかけなさいな。今のヒューリーはお兄様達のことを守るかどうかわからないからね。あ、あなたはここに残ってね~》
私がそう言うと、侍従の彼は慌ててお店を出ていった。
店の中にいた護衛の男は、リアちゃんの侍女のために残ってもらいましょう。
リアちゃんの侍女を一人残して何かあったら、リアちゃんが悲しむものね。
まあ、こんなところね~。
「あ、あの、光の精霊様。私は残って何をすれば……」
《ん~? ここ、お店って場所でしょ~? このまま全員いなくなちゃって良かったの~? 人って~余所で何かを食べたら~、お金を払わないといけないのでしょう? で、そっちの彼はあなたを一人にしないようにね》
私の存在にビクビクしていた侍女にそう言ったら、彼女ははっとした様子をした。
私がここに残した理由が理解できたみたい。
すぐにテキパキと対応を始めた。
ふうん~、お店にいた全員分のお金を払うのね~。
人っていろいろ面倒ね~。
《そうそう! あとね~、ここはお菓子を売っているお店なんでしょう? お店ってことはお菓子を持って帰れるわよね~? リアちゃん、楽しみにしてたのにお菓子を食べられなかったのでしょう? あなたお店の人ね。えっと、これで買えるだけのお菓子をちょうだい》
食べ損なったお菓子を持っていけば、リアちゃんの機嫌が少しは良くなるわよね?
そう思って、私はリアちゃんのポシェットからお金を取り出した。
このためにポシェットを預かったのに、忘れるところだったわ~。
人が使っているお金って何種類もあるのだけど、リアちゃんは金色のと白っぽいものの二種類しか持っていないのよね。
確か、こっちの白いほうが価値があるって言っていたから、こっちを何枚か出せばいいのかしら?
《これで足りるかしら~?》
「は、白金貨っ!! せ、精霊様、お、多すぎます!」
《あら~?》
「白金貨一枚で、この建物丸ごと買い取ってもおつりが出ます」
《そうなの~? じゃあ、こっちね~》
どうやら、白っぽいお金のほうでは多すぎたみたいね。
私は白っぽいお金をしまい、今度は金色のお金を取り出した。
こっちならいいでしょう?
「き、金貨……」
あら~?
もしかして、こっちのお金もダメなの?
お買い物って意外と難しいわね~。