21.護衛がつきました
私は自分で思っていた以上に価値があるらしい。
誘拐されたのも、そのことが原因であった。
公爵令嬢で上級精霊の契約者、稀少な薬草の栽培、さらに効果的な薬の製作。
うん、今さらだけど私って凄い価値のあるよね。
というわけで、国から私専属の護衛が派遣されることが決まりました。
ドンドンッ、パフパフッ、わ~♪
SPだよ、SP!
お偉いさんみたい!
って、私、もともと国の重要人物として認識されていたらしい。
王族と同じ扱いなんだってさ、はっはっはー。
本当にお偉いさんだった!
わ~、護衛がつくのは当たり前じゃん。
私の存在価値を考慮すると遅かったくらいなんだけど、私が嫌がると思って今まで見送られていたらしい。
だが、今回の件でそんなことは言っていられない、という結論になったようだ。
で、騎士の中でも優秀な者にしかなれない近衛騎士から、私の護衛が派遣されてきたんだけど――
「本日よりヴィクトリア様の護衛につくことになりましたカイル=スピネルと申します。カイルとお呼びください」
おう………。
この人見たことあるぞ……夢の中で……。
あれだ。
攻略対象者じゃないかーーー!!!
何故だっ!?
こんな設定はなかったはずだぞー!!
カイルは第二王子の護衛だったはずだ。
何でここにいるっ!?
くぅ~~。
なるべく攻略対象者には近づかないようにしていたのにぃぃぃぃぃ!!
カイル=スピネル、二十歳。
赤い髪に黒の瞳でスラリとした長身の青年。
攻略対象者なわけだから、もちろん美形。
スピネル伯爵家の次男で、若いながらも近衛に配属されるほど優秀な騎士。
性格は真面目で勤勉。
こうだと決めたら絶対にブレない、信じたものはとことん信じるタイプの男だ。
まあ、思い込みが激しい男とも言えるがな。
夢で見たカイルルートはというと――
カイルは第二王子の護衛として学園に出入りするようなるんだ。
最初こそはマリエッタのことは、王子の周りをうろちょろする人間として警戒していたのだ。
実際は第二王子がマリエッタに近づいていたんだが。
そんなある日、カイルはマリエッタが落ち込み儚い様子を目にして恋をするんだ。
そこからはカイルは落ち込むマリエッタを見掛けると積極的に声を掛けて慰める。
マリエッタも優しく慰めてくれるカイルに惹かれていく。
そして、頑なに落ち込む理由を言わなかったマリエッタが嫌がらせを受けていることを知り、憤る。
マリエッタが悲しむ原因を排除しようと、嫌がらせの証拠を集めて犯人を糾弾する。
まあ、その糾弾相手というのがヴィクトリアなんだ。
その頃にはマリエッタに対する嫌がらせがエスカレートしていて、階段から突き落とされるっていうベタな展開があるんだ。
それで、殺人教唆とやらでヴィクトリアはカイルに捕縛されるのだ。
大まかに説明すると、こんな感じである。
きっとカイルの集めた証拠は、王子と仲の良いマリエッタのことを疎むご令嬢達がでっち上げた偽物で、ヴィクトリアは冤罪なのだと思う。
だって第一王子の婚約者候補のヴィクトリアが、第二王子に近づく女に嫉妬っておかしいじゃない?
好きだったら、それこそ権力を使ってさっさと婚約に持ち込んでいるだろうよ。
あ~……自分を捕まえようとするかもしれない人間が護衛だなんて……。
人生、何が起きるかわからないものだ。
◇ ◇ ◇
「スピネル様、椅子にお座りになりませんか?」
「いいえ、私はこちらで」
「……」
ある日、私が自室で読書をしている時。
カイルは扉の前で直立不動。
しかも、じっとこちらを見ている。
視線がビシバシと感じて、はっきり言って存在が気になって読書に集中できない。
椅子に座っていれば少しは緩和するかな? と思ってそう言ってみたが断られた。
◇ ◇ ◇
「お茶はいかがですか?」
「いいえ、任務中ですので」
「……」
またある日、サロンでまったりお茶を飲もうとしている時。
カイルは一応、伯爵家の令息。
使用人は仕方がないとしても、彼を無視して一人でお茶を楽しむのが気が引けたので誘ってみたら。
……お茶とお菓子を楽しんでいる間、じっと見られていた。
お茶もお菓子も味がよくわからなかった。
◇ ◇ ◇
何なんだ、こいつは!
本当に嫌だ!
もう耐えられないっ!
護衛がついて数日で私の忍耐は限界に近いとろこまできていた。




