14.誘拐されました
「エメラルド家のお嬢様ですね?」
「はい?」
城の通路を歩いていると、突然、知らない男性から声をかけられた。
城で働く侍従とかではなさそうだから、貴族かな?
でも、騎士ではないし、文官っぽくもないんだよね……。
誰だろう?
ん~、あっちは私のことを知っているんだよね~。
「……えっと、どちら様ですか?」
「名乗るほどの者ではございません」
「……」
名乗らない人につき合う必要はないね。
うん、行こう。
――コツンッ。
その場から立ち去ろうと思った時、後ろから音が聞こえたんで、振り返るとすぐ側にもう一人知らない男がいた。
「っ~~~~」
ビリッ、と首に痛みを感じ、それと同時に意識が遠のいていった。
◇ ◇ ◇
「ここは……」
目が覚めたら私は知らない場所にいた。
えっと、私はどうしたんだっけ?
ああそうだ。
知らない男の人に声をかけられた後、首に痛みを感じて気絶したんだった。
状況から考えると、最初に声をかけてきた人になにかされたんだよなぁ~。
なんか、スタンガンみたいなのを当てられた感じかな?
あれ、それって誘拐か?
私、誘拐されたのかっ!?
マジか……。
あ~、それにしてもここはどこだろうなー。
窓もない一室。
ドアは勿論一つ。
鍵が掛かっているのか……開かない。
どこだろう、まだ城の中かな?
それとも、もう城から連れ出されているかな?
私はまだ小さいから、木箱とかに入れれば簡単に連れ出されるよなー。
さすがに門番の人も、木箱の中身までは確認しないだろうし……。
さて、どうするかなー。
「ヒュー、いるー?」
……………………。
あれ?
反応がない。
ヒューリーを呼んで反応がなかったなんて、今までなかったのに……。
どういうことだ?
「ミリアー?」
……………………。
うん、反応なし。
普通の状況で契約を交わしている精霊と意志疎通が出来くなることは、まずない。
ということは、今は普通の状況ではないということだ。
ん~?
そういえば、何処にいてもふよふよと浮かんでいるはずの精霊の姿もないなー。
精霊は普段、人には姿を見せないがそこら辺何処にだっている。
私はヒューリーとミリアと契約したお蔭か、見ようと思えば周りを浮遊する精霊の姿が見えるようになった。
――のだが……何故かここに精霊がいない。
おかしい……。
あまりの精霊の多さに目眩を覚えるので、普段は見えないようにしているぐらいなのに……。
この世に精霊のいない場所なんてあるんだなーなんて呑気に考えてもみたが、そんな訳がない。
きっと、あれだ。
精霊を寄りつかせないような仕掛けがあるに違いない。
あれ?
ということは……今の私って結構ピンチだったりする状況か!?
え、どうしよう…。
ヤバイ!!
私、ちょっと悠長に考えていた。
えっと、えっと……。
まずはヒューリーかミリアに連絡を取る方法か、ここから出る方法か?
ドアを叩いて人を呼ぶのは危険か?
来るのは助けに来る人とは限らないしな……。
ん~……。
精霊がいない……。
ここに精霊が嫌いなものでもあるのか?
見たところ、普通の狭めな一室。
今の私の部屋が大きいだけであって、狭めと言っても八畳くらいはあるんだけどさー。
部屋にあるものは、私がさっきまで寝ていたベッド。
それとベッド脇には水差しが置かれたサイドテーブル。
それだけだ。
怪しいものどころか、ほとんど物がないんだよな~。
さて、困った……。
この、精霊がいない現象がこの部屋だけならば、この部屋を出れば何とかなるのだと思うのだが…。
この部屋だけではなく、ここら辺一帯だった場合は厄介だ。
むぅ~どうしよう……。
ここは賭けに出るか……?