12.ダメでした
結局、ツカレトール薬はプロの薬師でも作ることができませんでした。
材料は私が提供して試しに作ってみたんだけどね、緑の魔力が流し続けられなかったのさ。
「なんてことだ……」
《だから言っただろ。あーあ、リアの育てた魔霊草を無駄にしてー》
薬師さん達が作った薬草を煮込んだ液体は、なぜか真っ黒だった。
火が強すぎて焦がした、ってわけじゃないのに黒くなっていく様は不思議だった。
なんでも魔霊草は魔力が足りないと黒く変色し、薬効成分が駄目になってしまうんだって。
薬師さん達も知らなかったらしく、目を見開いて驚いていた。
「ヒュー、物知り! 凄い凄いっ!」
《え、凄い?》
「うん!」
《へへへ~》
全力で褒めたら、ヒューリーが照れた~。
今は小さな姿だから、滅茶苦茶可愛いっ!
私は思わずヒューリーをぎゅう~。
私がヒューリーを抱きしめたら、ヒューリーも私にすり寄ってきたっ!
ホント、可愛いなぁ~。
おっと、ここで父も参戦。
ヒューリーを抱きしめていた私を持ち上げ、座っていた自分の膝へと導く。
後ろから抱え込むように抱きしめられた~。
「ヒューリー殿ばかりズルイよ、リア。父様もー」
私の頭に頬ずりする父。
父も可愛いな、おい……。
これで4児の父親かい?
でも、可愛いから許す!
ではでは、期待に応えてあげよう!
「お父様ー」
「リア~」
片手でヒューリーを抱きしめたまま、もう一方の手で父の首に抱きついた。
おお、父の顔が弛みきっている。
デレッデレだよ。
うん、父のデレ具合に、薬師達は呆然としているね。
「氷の宰相様が……」
……氷の宰相?
ああ、父のあだ名か?
確か執務をしている時の父は、それはそれは怖いという評判。
私はそんな父を目撃したことがないので詳しくはわからないが、不備のある書類を提出した者に、人を殺せるような冷酷な視線が漏れなく贈られる、とか……。
見てみたい気もするんだが、私の気配があるところでは発動しないんだよな~。
ちょっと残念……。
今度、こっそり見に行ってみようかなぁ?
ミリアに協力してもらったら、バレなさそうじゃない?
ほら、光の屈折とかを利用して姿を消すとか。
あーでも、気配でバレるか?
よし、じゃあ気配を消す方法も探しておこう!
というか、もう用件は終わったよね?
薬の作り方も教え終わってるし、試しに作ったしさー。
「お父様ー。もう帰ってもいい?」
ほら、そろそろ温室の水やりをしないといけないしね。
「ん? そうだね。所長、私達はそろそろ失礼するよ」
「あ、宰相様待ってくださいっ!」
ええー、まだ何かあるの~。
なに……薬が欲しい?
所長さんのたっての願いで、欲しい時は私が注文を受けて作って売ることになった。
うん、私の財源がまた増えたってことだね!
しかも早速、三本ほど売ったよ。
それも結構な高値で。
二、三本ならタダで提供しても良かったんだけど、父も所長さんもそれじゃあいけないって。
今回だけならそれでもいいかもしれないが、定期的に購入を望むかもしれないから、しっかりと値段をつけて契約を交わした方がいいんだってさ。
契約は父に全面的に任せたけどね。
なんでも、王族が使うかもしれない薬の出所はきちんとしておかないといけないとか、そういう理由もあるらしい。
購入記録とか、入手ルートとかだね。
まあ、今回は研究目的らしいから関係ないみたいだけど、一応ね。
あ、因みにツカレトール薬は魔法薬なので、普通に保管していても劣化する可能性とはないみたい。
だから、父の分の薬はちゃんとアスターに預けておいた。
「食事をきちんとして、睡眠もきっちりと取って、それでも疲れが残る場合に飲む」と約束して。
もちろん、父が飲む場合は一緒にアスターも飲むように厳命しておいた。
今回もそうだったが、父が疲れているってことは、アスターも疲れているわけだからね。
普通に言うだけなら、アスターは飲むのを遠慮しそうでしょ?
父にも言っておいたから、「私も飲みました」なんて嘘で誤魔化すことはできないだろう。
じゃあ、お家に帰って薬草に水やりしないと!