第八十九話 バック・トゥ・ザ・コンビニバイトPART2③
さっきの場所に戻るとアルオデリオはまだそこに居た。
木材の上に座って偉そうに踏ん反り返っている。あいつ馬鹿だろう、これから妨害工作をしようと言うその親玉が、あんな堂々と目立つようにしているなんて。
まあいいや、むしろ相手が馬鹿で助かった。俺は不意打ちを喰らわそうと、後ろから抜き足差し足忍び寄るのだが。
ベコンっ!
床に転がっていたトタンを踏んでしまった。なんでこんな所にこんなもんが転がってんだよっ! しかもそれに気がつかないなんて俺の馬鹿っ!
物音に気が付いたアルオデリオが振り向き俺と目が合う。お互いに暫く無言で見つめ合うのだが、アルオデリオが悲鳴をあげた。
「うおおおおっ!? き、きさまなんだっ!? 私の背後から近づいてなにをしようとしていたっ!」
「え? いや、おまえビビりすぎじゃね? チキンすぎんだろ」
「だ、誰がチキンだっ! ビビッてなどいない、この私を誰だと思っているのだああっ!」
知らねえよ。そもそもおまえ誰なんだよ? なんか皆当たり前のようにお前のことを知っているようだけど、俺は知らねえんだよ。オルデリミーナの従兄って情報しか持ってねえんだよ。
「ん? きさま、よく見れば。中央広場でオルデリミーナと一緒に居た男だな。この私になんの用だ?」
「なんの用だと? しらばっくれんじゃんねえ。おまえがこれからやろうとしていることは全て聞かせて貰ったぜっ!」
「な、なんだとっ!?」
「こんな所で大声で部下達と話していて、誰も聞いていないとでも思ったのか?」
アルオデリオは「ぐぬぬ」と歯を食いしばり悔しげな表情をしている。
「なるほど、それでそれを阻止しようときさまはやってきたわけだな。だがもう遅いっ! この会場内に設置した五つの煙袋を、これから全て見つけることなど時間的に不可能だっ!」
うわぁ……こいつマジで馬鹿だぁ……。
全部で五つね、ご苦労さん。とりあえず数だけは聞く手間が省けたよ。
「そうか……だったら、おまえの身体に聞くしかないなっ!」
「ぼ、暴力を振るおうって言うのか? わ、私は王族だぞ、オルデリミーナの従兄なのだぞ?」
よしっ! なんかこいつになら俺でも勝てるような気がしてきた。ビビッて腰が引けてるし、顔が強張って引き攣ってんぞ。
これまで殴り合いの喧嘩なんてもんをしたこともない、それどころか怖そうなお兄さんを見かけたら存在感を消して極力絡まれないようにしてきた俺だが、この異世界に来てからは数々の修羅場を潜りぬけて、何度も死の窮地から生還してきた。そのおかげでかなりの度胸はついたと思う。
勝てるっ! 喧嘩なんてものは臆した者の負けなのだ。最初の一発が肝心、それさえ決まれば後は相手を徹底的に痛めつけて戦意を喪失させればいいのだ。
俺が拳を構えて睨みつけると、アルオデリオは腰に差していた剣を抜いて切っ先を向けてきた。
「降りかかる火の粉は払わねばならないからな。これは決闘と理解した。死んでも恨むなよ」
え? なにそれ? それは卑怯じゃね? おまえ……。
「ちょっと待てえいっ! おまえ、武器は卑怯だろ武器はああああっ!」
「なにを言っているのだ。騎士の決闘と言えばこれであろう? 構わんぞ、きさまも抜けっ!」
抜けっ! じゃねえええええっ! 持ってねえよそんなもんっ、見ればわかるだろ! こいつマジで頭おかしいだろっ! いやいやいや、マジで馬鹿だろっ!?
アルオデリオは「いざっ!」と叫ぶと突きを繰り出してくる。俺は間一髪それを躱すのだが、次から次へと突いてくるアルオデリオ。
くっそがあ。あいつまじで手加減なしかよ? あんなもん刺さったら痛いだけじゃ済まないぞ、突き所が悪かったら死ぬぞこれえええ!
必死で逃げ回る俺とそれを追いかけ回してくるアルオデリオ、傍から見たらさぞかし滑稽な決闘であろう。しかしこっちは必死である、マジで命が懸かっているのだ。
俺は先程踏んだA4サイズくらいのトタンを掴みあげると、それをアルオデリオに投げつけた。
手裏剣の様に飛んで行くトタンを剣で受けたアルオデリオであったが、逸れたトタンが頬を掠り血が滲み始めた。
「あ……ご、ごめん……」
「きさま……私の顔に傷を付けたな……」
頬から流れる血を指先で拭い、それを見つめながらワナワナと震えるアルオデリオ。
あ、やばい。これ、完全に怒ってるやつだ。
「きさまはこの場で四肢を切り落として民衆の前で火刑台送りにしてくれるわあああっ!」
うわあああっ! やべえやべえ、マジでやべえよこいつ! 血を見たら目の色が変わりやがった。これはマジで殺される、もう俺の手には負えねえ! アニキだ。アニキのところに行くしかねええええっ!
俺はアニキに助けを求めようと踵を返して舞台裏へと全速力で走り出した。
「待てえええええいっ! 下郎があああああっ!」
怖い怖い怖いっ、マジであいつ怖いっ!
剣を振り回しながら追いかけてくるアルオデリオ、もう見境なしと言う感じだ。そこで俺は前方にあるものに気が付く。
あれだっ!
俺は振り返り脇にあった樽を倒して蹴飛ばすと、迫ってくるアルオデリオに転がって行く。それを難なくジャンプして躱すアルオデリオ。
「馬鹿めっ! こんなものがっ!?」
さらに俺は脇に積んであった麻袋を投げつけた。しかしそれを剣で切りつけるアルオデリオ、その瞬間袋が破けて中から白い雪が舞った。そうそれは演出用に作って置いた紙吹雪だ。
「くそっ! こんな目くらましなどっ! なあっ!?」
アルオデリオからすれば俺が空中を並行に滑って、ライ〇ーキックをお見舞いしたように見えただろう。
俺は天井からぶら下がっていたロープに掴まってターザンの要領よろしく、アルオデリオに蹴りを入れる。
もろに喰らったアルオデリオはそのまま地面を転がり木材に頭をぶつけると気を失うのであった。
つづく。




