第八十四話 バック・トゥ・ザ・コンビニバイト④
どうにもこうにも、今回の事がよくわからない。
なぜ俺はまたユカリスティーネの居る、この【時の狭間】に来てしまったのか? まるで見当がつかない。
そう言えば目を覚ます直前に誰かと何かを話していたような気がするけどどんな内容だったかも思い出せない。
「どうすればいいんでしょうか?」
「え? なにがですか?」
俺の漠然とした質問にユカリスティーネはぽかーんとなっている。
そりゃそうだよね。大体おまえは何しに来たんだ? と言いたいところだろう。
「いや、前回みたいに幽体になってここに来たってわけでもないっぽいし、戻るにしてもどうすればいいのか」
「うー……ん。確かに困りましたねそれは」
ユカリスティーネは眉間に皺を寄せて腕組みをしながら考え込む。そして暫くそうしていたのだが、何か閃いたのか手をぽんと打つと俺の方に向き直って言う。
「とりあえず一回自分ちに帰ります?」
「は、はぁ……はあ!?」
ユカリスティーネが薄暗い空間の隅の方へ行くとなにやら宙を弄っている。
すると「ギィ」っと音を立てて黒い空間が開いた。そう、文字通り扉を開けるように空間が開いたのだ。
真っ暗な空間が四角く切り抜かれ眩い光が射しこんでいる。
「なにかわかりましたら私の方からべんりさんにお報せしますので、今は一度元の世界の自分の家でゆっくり休んでください」
言われるがままに俺はその光の中へと入って行くと、一瞬目の前が真っ白になり視界がぼやける。そして少しずつその明るさに目が慣れてくると辺りを見回して「あぁ、やっぱり」と零すのであった。
そこはたぶん近所の区立図書館の中、振り返ると一枚の扉があったので開けようとするのだが鍵が閉まっているようだった。
「そこでなにをしているのですかっ!?」
突如背後から声が響く。振り返ると廊下の向こうに立つメイド姿の女性が俺のことを睨んでいた。
「ここは一般の方は立ち入り禁止の場所ですよ」
「あ、すいません。なんか迷っちゃったみたいで」
怪訝顔をしながらもその女性は俺のことを外まで案内してくれた。
「気をつけてくださいね」
「はい、すみません……ところで、どこかでお会いしたことありましたっけ?」
俺の質問にメイドは不快な顔をしながら去って行った。
図書館から出ると俺は家へと足を向けるのだが、なんだか妙な違和感を感じる。確かに周りは知っている風景ばかりなのだが、どこかがおかしいような気がする。
不思議に思いながら歩いていると数メートル先の民家の庭からなにか動物が顔を出していた。ずいぶんとモフモフした毛並みの動物だなと思い近くに寄ってみると、それはアルパカであった。
最近は個人でアルパカをペットにするのが人気らしい、いつでもモフモフできるので子供にも大人気だ。
するとそこのご主人だろうか? 獣のような顔をしたおっさんが出てきてニコニコと俺に話しかけてきた。
「いい毛並みでしょう? 近所の方々にも人気のモフモフなんですよ」
「そうですね。素晴らしい毛並みだと思います」
俺はモフモフさせて貰うとお礼を言ってその場を去った。
なんとなしに近所の公園を通って散歩しながら帰ろうと思いたち寄り道をしてみる。
夏の日差しはジリジリと照り付けてくるのだが、木陰に入れば程よい風を感じて涼しかった。
こんな真昼間だってのに眼鏡のサラリーマンがベンチに座り込んで俯いている。なんだかその姿が無性に切なくて俺は直視することができなかった。
だだっ広い公園の敷地内をしばらく歩き続けていたのだが、気が付くと日もとっぷりと暮れて暗くなり始めていた。
早く家に帰らねばと少し早足になる。妙に急かされているような気になり俺はいつの間にか駆け足になっていた。
家へと続く道を走る。もうとっくに辺りは暗くなり街灯に照らされた道が妙に物寂しい。
少し先の街灯が切れかけているのだろうか? パチパチと点滅していることに俺は気が付くとゆっくりと足を止めてそれをぼーっと見つめていた。
まただ……。
なにがまたなんだ? わからない。 でもそんな風に俺は感じた。
カンカンカンカンカンカン。
踏切の警告音が鳴り響く。その音はまるで早鐘のよう。なにかよくないことを報せるようなそんな音に聞こえて、俺の鼓動はそれに合わせてバクバクと早くなる。
踏切の向こうに見える金髪の女子高生。なにかこの光景に既視感を感じる。いや、これは……俺は、一度こうして……。
俺はまた駆け出していた。
一体いつから同じことを繰り返していたのか。どこからが現実でどこからが夢だったのか? 元居た世界? 異世界? そもそも俺は何者であったのか? どこから来てどこへ行くのか?
そんなことを考えながら無我夢中で走った。踏切を潜る女子高生の名を叫びながら。
「やめろローリンっ! 死ぬなああああああああっ!」
列車が轟音を鳴らしながら通りすぎるとローリンの上に覆いかぶさった俺はホッと息を吐いた。
「どうして……」
そう声を漏らしたのはローリンであった。
「どうして……死なせてくれないの?」
「馬鹿な真似はやめろよ。おまえが死んだら皆が悲しむだろ」
「どう……して……生きていたって辛い事ばかりなのに……私なんかが死んだって誰も悲しむわけないのにっ!! どうしてそんなことを言うのっ!?」
ローリンは顔をくしゃくしゃにしながら大粒の涙をボロボロと流し始めると、大声を上げて泣くのであった。
つづく。




