第八十二話 バック・トゥ・ザ・コンビニバイト②
テレテレテレンテ♪ テレテレテン♪
「いらっさぁせぇ」
品出しをしながら俺は気だるげに声をだす。深夜は二時を回ろうと言う時間だ。
終電も終わり来客も落ち着きだす時間帯であるが、こんな夜中であってもコンビニには客がやってくる。俺は客の気配に気を配りつつ、すぐにレジに入れるように品出しを続けた。
しばらくして客がレジに商品を持って来たので俺は向かうのだがそこで気が付いた。
またこのOLか。毎日毎日こんな夜中まで飲んで酔っ払って帰ってきて、夜道には気をつけろよまったく。て言うか顔色悪いな、掃除が大変だから店の前で吐くんじゃねえぞ。
いつもの時間の、変わらぬいつもの光景。俺はプリンとウコンドリンクを買っていくOLを見送ると一人、仕事を続けるのであった。
朝九時に交代のおばちゃんがやってくると、「いつも一人で大変ねえ」なんて言いながら、おにぎり作ってきたから家で食べなさいと手渡してくれるのだが、正直あまり嬉しくはない。俺は自分の母親が握った以外のおにぎりは受け付けないのだっ!
そして、交代の人が来たからと言って帰れるわけではない。もう一人、店長がまだやってこない。たぶん今日も娘を幼稚園に送っているのだろう。
「いやぁ~、ごめんごめん田中君。これでも飲んでよ」
そう言いながら店長はお詫びのつもりか、缶が凹んで売り物にならないので廃棄になったコーヒーを俺に渡してきた。結局このアホ店長が出勤してきたのは午前十一時を回る頃であった。
今日もまた明けて午前一時からバイトだ。大体夕方の五時くらいに寝始めるので、それまでダラダラと起きていなくてはならない。
とりあえず昼時なので俺は牛丼屋にでも行って、その後ブック〇フで立ち読みでもしながら時間を潰すことにした。
なんだかんだで聖〇士○矢を全巻読破したらもう昼の一五時半を回る頃だった。そろそろ家に戻ってシャワーを浴びて寝ないとな。
本屋から出ると二人のJKとすれ違う。
「もうっ、エミ早くしてよっ!」
「待ってよジュリ、今行くからぁ」
ジュリと呼ばれた子は中々に美人な顔立ちであるがちょっとキツめな感じだな。逆にエミと呼ばれた子は眼鏡っ子で、どこにでもいるような顔立ちの子でなんだか鈍くさそうな感じである。対照的な二人ではあったが仲は良さそうに思えた。
それにしても、ジロジロとJKを見つめていたら不審者に思われかねないのでそろそろやめよう。
家に戻ると俺は部屋の電気を点けようと紐を引っ張るのだが。
「あれ? 蛍光灯切れたのか? そろそろLEDに変えた方がいいかなやっぱ」
何度かガチャガチャと紐を引っ張るのだがやはり電気は点かない。そこで俺は部屋のデジタル時計が消えていることに気が付いた。あの時計はアダプター式なのでこれは停電か、いや……俺は玄関に行きドアの上に付いているブレーカーを見ると、やはり落ちていた。
「なんなんだよこれ、壊れてんじゃねえのか? て言うかいつ落ちたんだよこれぇ。アニメの録画予約、ちゃんと録れてるかなぁ」
ブレーカーを上げると、カンカンと音を鳴らしながら蛍光灯に火が灯った。
深夜0時を回る頃に俺は目を覚ますとシャワーを浴びて歯を磨き、風呂から上がると500mlペットボトルの水を一気に飲み干した。
三十分で支度を済ませると家を出る。今日もこれから朝の九時まで、たぶん店長が遅刻するだろうから昼前までバイトだ。
それにしても夜中だってのに異常に蒸し暑い、今日も熱帯夜だな。そういや昨日クーラーの予約して行ったんだっけ? だからブレーカーが落ちたのかな?
そんなことを考えながら夜の道を歩く。
夜の街を歩くのは好きだ。皆が寝静まった頃にこうやって外を徘徊するのは不思議と気分が高揚してくる。まあ、コンビニの看板の明かりを見た途端に萎えるんだけどね。
空を見上げると、街灯が一つ点滅していた。
カンカン、カンカン、と音を立てて。それは何度もフラッシュを焚いているように真下のアスファルトを照らす。
明るくなった瞬間に、なにか得体のしれないものが見えたりして……そんなことを考えると背筋がゾクっとするのだが、次の瞬間俺は自分の眼を疑った。
街灯が点滅して明るくなった一瞬。虚ろな目をした少女が見えた気がした。
いや、気の所為ではない。白いワンピースを身に纏った裸足の少女が右手を横に上げて何かを指差している。
この光景、どこかで……。
俺は何気なしにそちらの方を見るのだが、雑木林があるくらいで特段変わったことはない。
また街灯の方に目を戻すのだが少女の姿はなくなっていた。
やはり気のせいだったのだろうか? 幻覚? 連日のワンオペ夜勤で疲れているのかもしれない。とにかくこれから仕事だってのになんだか気分が滅入ってきたよ。
俺は肩を落としながら再び歩き出した。
カンカンカンカンカン。
前方から踏切の警告音が聞こえる。もうすぐ最終電車の時間だ。下りの電車が通り過ぎれば店も最後のピークタイムを終えるだろう。
そこでふと視線を踏切の方へ向けると、制服を着た女の子が一人ぽつんと佇んでいる。
金髪の女の子? 女子高生なのだろうか? なんでこんな時間に?
俺はある予感を感じ走り出していた。
電車が通り過ぎようとした瞬間、女子高生は踏切を潜って線路内に侵入する。
「ローリンっ!」
なぜだかわからないが、俺はその子のことをそう叫んで呼んでいた。
つづく。




