第八十話 お祭りは準備している時が一番楽しい
盛大なファンファーレと共に昼の空に花火が上がると舞歌祭の開催が宣言された。
エミールが「今年も3日の開催期間の間、存分に楽しんでください」と言うと、オープニングセレモニーの列席者からパラパラと疎らな拍手が起こった。
街中はと言うと、年に一度のお祭り騒ぎ、真昼間から酒を飲んでいても誰にも咎められない、飲めや歌えや踊れや、ドッタンバッタン大騒ぎ……に、なっていない。
この街のやる気のなさは異常だ。普通こういう祭りごとって、お祭り好きの下町江戸っ子キャラみたいのがどこからともなく湧き出て一人空回り、しょんぼりしていたら周りの皆のサポートで大成功、みたいな展開になるのが普通と言うか王道の展開である。
しかし、そういうのは一切ない。騎士団の連中なんかはこれも公務なので仕方なく参加しているが皆やる気のないのが見え見えだ。オープニングセレモニーが終わると、とっとと引っ込んで皆ダラダラしている。
「想像以上に酷いなこれは……」
あまりの悲惨さにそう言うしかなかった。
その横でエミールもオルデリミーナもしょんぼりと肩を落としている。
「ここ数年は毎年こんな感じです。これじゃあ夕方からのステージにも皆さん集まってくれるかどうか……」
「なにを弱気になっているんだエミール! そうならない為に獣王殿を中心にコンビニの常連達もビラ配りなんかで宣伝してくれているんだ。我々は本番に向けて集中することだけを考えよう」
そう言って励ますオルデリミーナであったが、やはり不安気な表情は隠せていなかった。
そうしていると手を振りながらやって来るなんか獣の様な奴が俺のことを呼ぶ。
「おーいべんり。準備はできたぞー」
「え? どちらさまですか?」
「俺だよっ! 獣王ワールフだよっ!」
俺はしばらく考えこむのだがようやくこいつのことを思い出して手をぽんと打った。
「ああ、おまえか。いつもと姿が違うからわからなかったよ」
「こっちが本当の姿なんだけどな」
呆れた様子で答える獣王であったが、どっちが本当の姿かなんて知ったことではない。犬の姿をしていないと物凄い違和感があるのでそういうのは前もって言っておいてもわらないと困ると言う話だ。
さて、俺達は獣王の後について行き中央広場まで行くと、いい匂いが漂ってきた。
「むっ! なんだか美味しい匂いがしますねべんりさんっ!」
「おまえは食いもんの匂いには敏感だなぽっぴん」
くんくんと鼻を上下させながら匂いに惹かれるように、ぽっぴんは中央広場へと吸い込まれていく。他の皆もそれに釣られて駆け出していた。
そこは幾つもの屋台が立ち並び様々な食べ物や小物なんかが売られていて、これぞお祭りという感じで賑わっていた。
「べ、べんり。これは一体?」
「あぁ、オルデリミーナ。これが獣王に頼んでおいたことだよ。魔族の皆に一肌脱いでもらってさ、このお祭りを盛り上げて貰おう思ったんだ」
「それならば我々にも相談して貰えれば、騎士団のほうでも準備したのに」
「それじゃあ駄目なんだよ」
俺の言葉にオルデリミーナは不思議そうな顔をして首を傾げている。
「俺は今回の祭りを、魔族と人間の交流の場にしたいと考えている。これまでお互いがお互いを理由もなしに忌み嫌い避けてきたわけだが、これを機にその認識を変えることができないかと思ったんだ」
「べんり、簡単に言っているがそれは容易なことではないぞ?」
「わかってるよ。それでも、不可能ではない。それを先の戦いで俺達は証明してみせただろ?」
それは聖騎士と魔族の和解のことだ。あんなことをしたローリンのことを、魔族達は許し受け入れてくれた。いや、今でもまだ納得いっていない者もいるかもしれない、それでもメームちゃんの為に命を懸けてがんばったローリンのことを認め、理解し受け入れる努力はしてくれている。
少しずつではあるが魔族側の方から歩み寄ってきてくれているのだ。だったら人間の方からもそれに応えなくてはならないと俺は思う。
「だから、その為には魔族と人間の混合アイドルグループで、この舞歌祭を成功させる必要があるんだ」
「なるほどな、色々と考えていたのだなべんり。感心したぞ」
まあそんなこんなで色々と仕込んではみたものの、お祭りなんてものは楽しんだもん勝ち。難しいことは忘れて、美味いもんを飲んで食って大騒ぎすりゃ、その日の内にみんな仲良しになるってもんだろ。と思うのだが甘かった。
中央広場を取り巻くように街の人達は遠目から見て気にしてはいる様子なのだが、誰も中に入ってきてお祭りに参加しようとはしない。
「魔族の作った食べ物なんて誰が食うんだよ」
「毒でも入ってんじゃねえか?」
「気持ちが悪い、地下に戻って自分達だけでやれよ」
そんな誹謗中傷が聞こえてきた。その言葉にリリアルミールさんは悲しげな顔をして俯く。
そっか……リリアルミールさんはきっと……。
そうしていると向こうの方でなにやら揉め事が起きているようで騒がしくしている。
俺はそこに駆けつけるのだが、なにやら数人の兵士達と魔族達が口論になっていた。
「誰に許可を貰ってここで商売をしているっ!」
「ああん? 許可なんか取ってねえよっ! 物を売るのに人間の許可なんか取る必要ねえだろっ!」
「なんだと? きさまら魔族にこの帝国で商売をする権利などないっ! 即刻やめろっ!」
兵士の言葉にギャラリーの人間達も「そうだそうだっ!」と声を上げ始めた。
これは非常に良くない流れである。魔族だからと言う理由で問答無用で排除しようとする兵士も論外であるが、あんな態度で突っかかって行っては相手の思う壺だ。
「なにを騒いでいるのだっ!」
「ああん? 誰……皇女殿下?……いえ、ジュ、ジュリア騎士団長殿!」
オルデリミーナに気が付いた兵士達は、直立不動になり冷や汗をダラダラと流し始める。
「この者達がここで露店を開くことを許可したのはこの私だっ! 正式な手続きも踏んであるから問題はなかろう?」
「はっ! し、しかし、相手は魔……」
「人間であろうと魔族であろうと関係ないっ! 帝国の兵士たるものがそんな差別意識をもっているとは情けない話だぞっ! 恥をしれっ!」
そう言ってその場はなんとか丸く収めるのだが、警備兵やギャラリー達は解散して去って行く間も、恨めし気な目でこちらの方を睨んでいるのであった。
「す、すまなかったなオルデリミーナ。助かったよ」
「べんり、今回は私が助け舟を出したから事なきを得たが、これはなんの解決にもなっていないと言う事はわかっているか?」
「……あぁ、そうだな。すまない」
「権威を振りかざし相手に言う事を聞かせたところで、それは本当に変わったことにはならない。決して偏見などなくなりはしない。べんり、ここから先、私の助けなしでおまえは本当にやれるのか?」
オルデリミーナの問い掛けに俺は返す言葉もなかった。
しかし……それでも、やれるかやれないかではない。やらなくてはならないんだ。
俺達だけが魔族と仲良くなってそれでおしまいなんて、それじゃあ、そんなんじゃあ悲しいじゃないか。
俺だってこの世界の人達からすれば異世界人だ。そんな俺がこの街の人達に受け入れてもらえたんだ。毎日を楽しく生活できているんだ。
だから、そんな俺だからこそきっとどちらの気持ちも理解できるんじゃないかと思う。
いや、そんな理解できるだなんておこがましい理由じゃなくて、皆で仲良くワイワイと楽しく暮らせていけたらいいじゃないかっ! そう思ったんだよ。だから……。
「必ず。成功させてみせるよ」
俺は決意を新たに頷いて見せるのであった。
つづく。




