第七十八話 アイドル少女漂流記④
「おらあっ! そこの線からこっちに入ってくんじゃねえっ! 刺すぞごるぁぁあっ!」
エミールが怒声を上げながら服の中に隠し持っていた短刀を構えて威嚇してくる。
「やってみろ人間風情があっ! あたしは魔闘神だぞボケえっ! おまえら下等生物の人間なんざ簡単に消し炭にしてくれるぞおらあっ!」
それに応戦するリサ。
「ああんっ!? おめえら俺のこと舐めてんだろ? あ? 俺は臨死体験してんだぞボケぇっ! 死の淵から何度も蘇ってる不死身の男だぞこらあっ!?」
戦闘力ではこの二人の方が上かもしれないが、運の良さでは確実に俺の方が上だ。こっちの世界に来てから何度も死にかけているのに今もこうして生きているのだ。今回だって必ず俺が生き残ってみせる。そもそもこんな状況に陥っている時点で運が悪いという話はなしな。
とにかくっ! 一触即発の状況である。俺の話を鵜呑みにした馬鹿二人が、誰かが生贄になるのではないかと勘繰りだして床に線を引いて陣地を形成、相手の陣地に無断で入った時点でそれは攻撃と見做されて反撃しても良いというルールが作られるのであった。
「とりあえず二人とも落ち着け、さっきのは作り話だ。真に受けるんじゃねえっ!」
「なんですか? そうやって罠に嵌めようとしているんじゃないですかべんりさん?」
最早聞く耳を持たないエミール。はっきり言ってこいつが一番危ない、漂流生活六日目でブッチギリトップのぶっ壊れっぷりである。今もまるで人のことを信用しない目つきで俺とリサのことを睨みながら警戒している。
「べんりさん。あいつはもう駄目です。このままでは私達を道連れに心中する恐れもあります。被害を最小限に食い止める為の犠牲はやむを得ません」
「聞こえてんぞドMレズメイド」
小声でリサが話しかけてくるのだがこんな狭い場所なので当然聞こえている。リサが俺と手を組もうとしたのが気に食わなかったのか、エミールはかなり苛々している様子だ。
するとエミールはしゃがんで短刀を床に突き立てると、上着のボタンを外して肩と胸元を露出しだした。
「ねぇ、べんり? これから二人きりになるとしたらどっちの娘がいいかしら?」
は? こいつ色仕掛けのつもりか? てめえ、そんなモブ顔で俺のことを誘惑するつもりか……ゆうわ……。
やばいっ! なんだこれ? あれ? モブ顔にエロい身体の組み合わせってなんかやばくね?
前々から思っていたがエミールの身体は妙にエロいのだ。ひょっとして男を誘惑する成分が全て身体の方に行った所為であんなモブ顔になったのではないか?
それにくらべてリサときたら、顔は並み以上なのだがちっぱいすぎる。最早あれは無いに等しい、おまけに変態だからな。それだけでぶっちぎりでマイナスである。
「色仕掛けですか……いいでしょうっ! そこまでやるのなら相手になって差し上げますっ!」
そう言うとリサは服を脱いで更に下着も全部脱ぎ去り海へと放り投げる。
「さあ見てくださいべんりさんっ! 私のこのあられもない姿を目に焼き付けてくださいっ! あぁっ! そんな……そんないやらしい、下卑た目つきで見られたら私! らめぇぇぇえええっ!」
全裸になり両手で胸を隠しながら悶え始めるリサ。いやおまえ、片方は局部を隠せよ馬鹿野郎。
「こ……の……ド変態があっ!」
対抗してエミールまでもが下着姿になり服は海へと投げ捨てる。だがそこで打ち止め、エミールの手は下着には掛からない。
「はんっ! 所詮おまえの覚悟なんてその程度、この期に及んで下着を残すところがおまえの限界だっ!」
リサが挑発するのだがエミールは下着を取ることはできない。すると突然エミールは海へと飛び込んでしまった。
「あーあ、とうとう逃げ出しちゃったよ。みっともない奴だっ!」
リサが失笑する。この全裸対決はリサに軍配が上がろうかとしたその時、エミールが海から上がってくると俺はあることに気が付いた。
「ま……まさか、エミールはこれを狙って……」
「べんりさんのエッチ、そんなに見つめないでください」
恥ずかしそうに両腕で自分の身体を抱きしめるエミールであったが、濡れた肌に濡れた下着がぴったり張りつき大事な部分が透けて見えるような見えないような。
「ちゃ……着エロだ……と? 馬鹿な、あの娘があんな高等技術を使えるだなんて……」
エミールの思わぬ反撃にリサも動揺の色を隠せない。一時は全裸のリサの方が優位に立ったのだがここで形勢逆転。見事、男の心理を捕えたエミールがリードする。
さあ、いよいよ審判の時、ジャッジ俺による脱衣対決に決着をつけなければならない。
「フっ……二人とも、ナイス脱衣だったぜ……でも……甘いなっ! 本当の脱衣と言うものはこういうのを言うんだっ!」
俺は叫ぶと服を脱いで全裸になる。その姿を見て二人は驚嘆の声をあげる。
「まっ……まさかそんなっ!」
「リサさんっ! あ、あれは? まさかあれは伝説のっ!?」
靴下残しっ!
そう、俺は全ての衣類を脱ぎ去ったと見せかけて、靴下だけは残すという奥義を使ってみせたのだ。俺の完璧なまでの変態紳士な装いに二人は膝から崩れ落ち、完敗だと認めるのであった。
「なにやってんですか……」
突如後方から聞こえる声に俺達は振り返る。と、そこにはなぜかローリンの姿が、それにオルデリミーナとソフィリーナまでもが並んで海の上に立ち、俺達のことを蔑むような目で見つめている。
なんだこれは? 幻覚か? 遂にお迎えがきたのか? それとも完全に頭がおかしくなってしまったのだろうかと思うのだが、エミールとリサにも三人の姿が見えているようだ。
よくよく見ると三人は小舟に乗っており、少し離れた後方に大きな船が待機していた。
どうやらあの別荘のある離島周辺は海流が同じところをぐるぐる回っているらしく、俺達はずうっと同じコースを回っていたらしい。
オルデリミーナ達もあの島で丸一日救助を待ってから捜索に出たので、これだけの日数を要してしまったのだと言う。
とにかくこうして俺達三人は無事生還を果たしたのだが、帝国に戻ると即、精神病院へと隔離されたのであった。
人間死に直面するほどの窮地に立たされると、理性を失って何をするかわからないと言う怖い話……。
ちゃんちゃん。




