第七十五話 アイドル少女漂流記①
突如頭上で轟音が鳴り響く。
全員が驚き天井を見上げると、それはまるでどこかで見たコントのようであった。
強風に煽られた天井が吹き飛ぶと四方の壁までもが剥がれ落ち、横殴りの風雨と頭上からは波が襲い掛かってきた。
阿鼻叫喚の地獄絵図、全員が悲鳴を上げなにかしらを叫んでいるが暴風の所為でなにも聞こえない。雨粒が痛い、と言うかこれもう弾丸。マジで痛いっ! やばいっ! 高波がやばい、体を持って行かれる。
「みんな一塊になれっ! 全員で固まってしっかりと掴まるんだっ!」
「ハっ! ナイスですべんりさんっ! それですっ! メイちゃあああああんっ! さあっ、このリサの胸の中に飛び込んで、ああっ!?」
メームちゃんに飛びつこうとジャンプした瞬間、強風に煽られたリサが彼方へと吹き飛ばされた。
「無茶しやがって……死ぬなよ、リサ」
くそっ! この嵐が通り過ぎるまでの間、なんとか皆が無事生還できるように祈るしかないのかっ!?
「べんりくんっ! このままでは全員高波に飲まれてしまいますっ!」
「わかってるよローリンっ! わかってるけど、どうすりゃいいってんだっ!」
「私に考えがありますっ!」
考え? 一体なにをしようと言うのか。ローリンはメームちゃん、シータさん、ぽっぴんに声をかけるとなにやら説明している。そして俺の元へ近寄ってくるとその内容を話はじめた。
「これから、四人の全力の力でこの台風を吹き飛ばします」
「はあ!? 吹き飛ばすって、漫画じゃねえんだからそんなこと」
「やって見せますよ。ここにいる最強の四人の力が合わされば、台風のエネルギーすら凌駕する力を発揮できるはずです」
無茶苦茶すぎる。巨大隕石に穴を掘って爆弾で壊そうとしたり、地面を掘り進んでマントルを爆弾で動かそうとする映画並みにアホな考えだ。
そう思うのだが、それでも……あの四人なら、なんとかしてしまいそうな気がするから不思議だ。
俺は苦笑すると真っ直ぐにローリンの眼を見据えて頷いた。
残された者達は一塊になる。そして衝撃波を打ち消す為にソフィリーナがゴッデスウォールの準備をする。
その前にローリン、ぽっぴん、メイムノーム、シッタシータの四人が立つ。
「いきますよっ! エクスカリボーンっ! オメガドライブモードっ!! フルパワーエクスターミネートっ!!」
「サンライトハートっ! スーパーノヴァ・オメガバーストっ!」
「ダークマテリアル! エクストリームプラズマっ!」
「性別転身! サードアイ・ネクストヴィジョンっ!」
四人がフルパワーで各々の必殺技を放つ。すごいぞっ! 厨二病全開な技名がこんだけ並ぶとなんだか壮観だっ!
上空に向かって放たれた四つのエネルギー波が唸りを上げ混ざり合い弾けると、凄まじい閃光から少し間を置いて爆音が響き渡る。
その瞬間ソフィリーナがゴッデスウォールを展開するのだが、その時飛ばされた眼鏡を取りにエミールが離れてしまった。
「あの馬鹿っ!」
俺は咄嗟に動き出していた。
エミールの元へ駆け寄ると同時、閃光に包まれると意識を失うのであった。
「……さ……ん……べ……んり……べんりさんっ!」
俺を呼ぶ声に目を開けると、眩しさに目が眩む。俺は再びきつく目を瞑るのだが、何度か瞬きしながらゆっくり開けると、俺の顔を覗き込むモブ顔の少女。
「エミー……ル?」
「よかったべんりさん、気がついたんですね?」
俺の意識が戻ったことにホッと胸を撫で下ろすエミールはポロポロと涙を流し始めた。
「なんだよ。そんな、泣くほど不安だったのかよ?」
「はい……だって、このままべんりさんが目を覚まさなかったら、私……私はここで一人でどうすればいいのか」
一人? なにを言ってるんだこの子?
目の前には晴れ渡る青空が広がっている。嵐は去ったのか、と言うか本当に台風を吹き飛ばしたのか? 信じられない奴らだなまったく。
俺はエミールに膝枕をしてもらっていたらしい、起き上がるとエミールを見ながら質問した。
「皆は無事なのか? 嵐は止んだっぽいけど、これからどう……」
そこまで言って俺は息を飲む。見つめるエミールの向こう側に広がる広大な景色、慌てて辺りを見渡して絶句した。
見渡す限り360度のオーシャンビュー、ここはどこのリゾートホテルかな? 異世界は全周天モニターを開発していたのか……。
「じゃねええええええっ! ど、どどど、どういことこれ? なんで? なんで周りになにもないの? 世界は消滅しちゃったの? 世紀末の世界になっちゃったのっ!? 俺とおまえでアダムとイブになれってのかああああああああっ!!」
「落ち着いてくださいべんりさんっ!」
「落ち着いてられるかあああっ! なんでどうして、なにがどうしてこうなった!? お家に帰りたいよおおおおっ!」
「落ち着けって言ってんだろがごるぁぁぁぁああああっ!」
取り乱し泣きわめく俺の顔面にエミールの拳がめり込むと俺は再び意識を失い、目覚める頃には夕暮れ時になっているのであった。
どうやら俺達は今、別荘の床板ごと流されて大海原を漂流しているらしい。
俺とエミール以外には誰もおらず、周りには陸地のようなものは何一つ見えなかった。
「もう二度と私を一人にしないでくださいよっ! 不安で不安で死にそうだったんですからねっ! うわああああああんっ!」
「いや……おめえにやられたんだよ……」
泣きながらしがみついてくるエミールに、マジで俺はキレそうなのであった。
つづく。




