第六十九話 眼鏡の奥のアイドルマスター②
ふ……ふ……ふっ!
「ふつーーーーーーーーーっ!」
思わず声に出して言ってしまった。
エミールさんもオルデリミーナも俺の言ったことがよくわかっていないのか、不思議そうな顔をしている。
「いや……すいません、なんでもないです」
なんとかその場は誤魔化して事なきを得るのだが、それにしてもこの女の子……。
はっきり言って普通である。
勿体ぶって引っ張るくらいだから眼鏡を取ったら美少女だったってオチが来ると、まあだいたいの人がそう予想しただろうが斜め上の展開、いや上にも下にも行かない、もうパーフェクトすぎるくらいに普通のモブ顔だ。
美人でもなければかわいくもない、かと言って不細工と言うわけでもない。それどころかどこにでもいる普通の女の子ですらない。とにかく普通の顔なのだ。
クラスで誰がかわいいか? というネタで男子同士で盛り上がった時に名前が出たら、誰もが「まあ、普通だね」って言われてそのままスルーされるやつ。「あいつ超ブッサイクだよなw」ってネタ提供してくれるほうがまだマシなレベルだ。
くそがぁ……眼鏡を取ったら【εε】こういう目をしてましたって方がベタだけどまだ笑えたぞ。
「お……おい、べんり? どうした? 腹でも痛いのか?」
「あ、いや、すまない。なんでもない。それで? なんでしょうか? エミールさん」
オルデリミーナの呼びかけで俺は我に返ると、なにか言いかけていたエミールさんの話を聞き返す。
「そ……その、私は……迷惑なのであれば、無理に……その、手伝って貰うのは悪いので……だから」
モジモジと両手の指を絡めながら言うエミール。
こんな引っ込み思案の子が、よくお祭りの実行委員なんてやっていたもんだ。と思うのだが、多分めんどくさいから押し付けられてただけなんだろうなきっと、なんだかちょっとかわいそうだなと思ってしまう。
「エミールっ! おまえはいつもそうやって、自分の言いたいことを言わないからなあなあで終わってしまうのだぞ。ちゃんと自分の口で助けてほしいと伝えなければ、べんりも手伝ってはくれないぞ」
「そんなこと言っても、私は本当に無理矢理手伝って貰ってまで……」
「だから無理矢理ではなくお願いをしろと言っているのだっ! おまえのその曖昧な態度では、相手も本当に手伝うべきかどうかはかりかねるだろう?」
あーあ。たぶんいつもこんな調子でオルデリミーナに言いくるめられてきたんだろうなこの子。
もちろんオルデリミーナもエミールのことを本気で気遣ってのことではあるのだろうが、ちょっと強引過ぎるような気もするな。二人の性格を合わせて割れば丁度良くなるんじゃね。もういっそのこと合体しちゃえばいいのに。
しょうがないので俺はエミールの方へ助け舟をだす。
「まあまあ、そんな風に詰め寄られたらエミールさんだって逆に頼みづらくなっちゃうよ。なんだか言わされてるみたいじゃん」
「むぅ……そ、それはそうだが……」
俺の言葉に納得のいかない様子のオルデリミーナだが、なぜだかしゅんとなって俺のことを恨めし気に見ている。
なんだよ、そんな目で見られるほどきつくは言ってないだろ。
「それじゃあ、俺の方から質問させてもらってもいいかな?」
「は、ははは……はい。な、なんでしょうか?」
「エミールさんは、舞歌祭は嫌いなのかな?」
「そっ……そんなことはありませんっ!」
俺の質問にこれまでしどろもどろだったエミールさんは声を張って否定する。
直後、ハッとしたような表情になり、真っ赤になると俯いてしまった。
「じゃあ、エミールさん。もし、このまま舞歌祭がなくなってしまったらどうします?」
「そ……それは……時代の流れなので、仕方のないことだと……」
そこまで言って口籠るエミールさん。しばらく俯いたまま黙っているのだがゆっくりと顔を上げると寂しそうな笑顔で答える。
「でも、それはやっぱり悲しいことだと思います」
なるほどな……。
俺はその答えに一人納得して頷いた。
「わかりました。エミールさん、引き受けましょう」
「え? 引き受けるって?」
突如舞歌祭を盛り立てる手伝いをすることを承諾する俺に、エミールさんもオルデリミーナも呆気にとられた様子で茫然と俺のことを見つめている。
「な、なんだ突然? さっきまであんなに面倒そうにしていたのに、一体どうしたと言うのだ?」
「まあ、面倒なことは面倒だ。しかし、俺はこちらに来てからずっと、ある重要なことを忘れていた。それを今思い出したんだ」
「あること?」
俺の意味あり気な言葉に眉を顰めるオルデリミーナ。
そう、俺は異世界に来てからと言うもの、ネット環境がなくなってずっと忘れていた。
プロデューサー活動を!
ガチャガチャを幾ら回し続けても推しが引けず、そのストレスから体調が悪くなるくらいまでの廃課金勢だった日々を思い出したぜ。
俺は今ゲームの世界ではなく、リアルでアイドル育成シュミレーションを行うことができる状況にあるのだ。
おもしれぇ……おもしれぇじゃねえかっ! 俺の手でアイドルの卵を育成しつつ、伝統あるお祭りが廃止に追い込まれている危機を救うと言う、なんか例のあれみたいなネタまで同時進行できる。
一つで二度おいしい、アイドルネタのいいとこどりの様な展開ではないかっ!
「で、でもべんりさん、私は」
エミールは不安そうな顔で俺のことを見ている。
無理もない、当然だ。いくらオルデリミーナ皇女の紹介とはいえ見ず知らずの男に自分をプロデュースしてもらうなんて、正直不安で堪らないだろう。
しかし、ここは俺のことを信じてついてきてもらいたい。俺ならば、アイドルアニメとゲームと声優をこよなく愛する俺ならばっ! 必ずや君をトップアイドルに育て上げることができるっ!
「心配しないでくださいエミールさん。我々の手で必ずや、舞歌祭を盛り上げてみせましょう」
そう言って俺は右手を差し出す。
エミールさんはその手を取ることを躊躇しているようなのだが、オルデリミーナが俺とエミールさんの間に入って三人が繋がる。
「当然、私も助力は惜しまないぞ」
決まったな。こうして、俺のエンパイア・アイドルプロジェクトがスタートするのであった。
それにしても……。
俺はエミールさんの全身を値踏みするように上から下まで見つめて思う。
モブ顔の癖にエッロい身体してんなこの子。
つづく。




