第六十七話 大賢者と夜の街④
夜の街を当て所もなく逃げ惑う俺と獣王。その後を追いかけてくる秘密結社スイーツ・プリン同盟のエージェント達。
「くそっ! なんとか巻かないと何をされるかわからないぞ」
「べんりっ! ローリンの嬢ちゃんのとこに行くわん。奴らもさすがに聖騎士の家までは襲撃できないわんっ!」
なるほど、確かにその通りではあるがさっきからこいつに主導権を握られてるのが妙に癪だわ。まあいい、今は奴らから逃げ遂せることだけを考えよう。
路地を抜け大通りに出る所で、右手から来ていた出前のチャリンコとぶつかりそうになる。間一髪チャリンコの方が避けるのだがフラフラと脇の壁にぶつかり横転した。
岡持ちからぶちまけられた麺を頭に被って出前の兄ちゃんが怒鳴り声を上げる。
「ばっきゃろうっ! いきなり飛び出してくるんじゃねえっ!」
「すまねえっ! 追われてるんだ。ちょいとこいつを借りるぜっ!」
俺は謝罪もそこそこに倒れているチャリンコを起き上がらせるとそれに跨り一気にペダルを漕いだ。背後から出前の兄ちゃんの怒声が響くが今は緊急事態なんだ。後で返しに行くから許してくれ。
よしよし、チャリならば奴らも追いつけまいと俺は後方を振り返り確認すると、追いかけてきていたエージェント達もどこで手に入れてきたのかチャリに跨り疾走してくる。
くそがぁ、あいつら絶対にあれチャリパクしただろ、窃盗だぞそれ、あとでローリンに逮捕してもらうからなこのやろうっ! え? 俺は借りただけだから、ちゃんと持ち主に断ったからね。
それにしても、あいつらめちゃめちゃチャリ漕ぐの速えな。だったらこれでどうだっ!
俺は急ハンドルを切り再び狭い路地へと侵入した。
追いかけてくるのは四人、この突然の方向転換にカーブを曲がりきれなかった奴が電柱にぶつかって一人脱落、残るは三人だ。
「どいてどいてどいてええええっ!」
俺は叫びながら路地裏をチャリで疾走する。ここは生活通路でもあるらしいのだが、こんな夜中だと言うのに夜更かしの住人達が建物の間に通した紐に洗濯ものを干したり、露店を拡げていたりと結構混雑していた。
それらを巻き込みながら俺と追っ手達は路地裏をチャリンコで暴走、このまま逃げ遂せても後が怖いなと思いながらもあいつらに捕まるわけにはいかない。
ふと目の前を見るとタバコ屋の看板、右手の壁に小さな出窓の様な扉が見えたので俺は通り過ぎる時にその扉をノックした。
来客だと思った店主が扉を開くと同時に後方から来ていたエージェントに直撃する。
よしっ! また一機撃墜っ! 残る追跡者は後二人だ。
と、前方に長い材木を二人で肩に担いだ通行人が!
くそがあっ! どんなアトラクションだよこれっ! 俺は咄嗟にブレーキをかけてスライディングするように車体を傾けて材木の下をすり抜ける。と言うのはイメージ映像で実際にはそのままこけて地面を転がる。
しかし後ろから来ていたエージェントはそのまま材木に突っ込んでいた。
俺は起き上がると再び自転車を持ち上げて飛び乗る様にサドルに腰掛けるのだが。
「ふぐぉぉぉぉおおおおおおおおっ!」
尻に突如走る激痛。倒れた時にサドルが抜けていたらしく、思いっきり尻の穴に鉄棒が刺さったのだ。
その場で悶絶する俺は遂に最後のエージェントに追いつかれてしまった。
「ここまでね。べんりくん」
「ふぅぅぅ、ふっふ……ぐぬぬ。マ、マリーさん?」
尻の痛みに喘ぎ声を上げる俺のことを見下ろしていたのはマリーさんであった。
「よくもまあ、器用にジャッキーアクションの様な真似ができるわねべんりくん」
「なんでマリーさんがそんなことを知ってるんですか?」
この追跡劇の一連の流れはまるでプロジェクトAさながらではあったが、時々異世界の人達ってそういうツッコミするよね。わけわかんない。
俺が涙目で尻を押さえながらマリーさんを見あげていると、後方からゆっくりと現れたのはぽっぴんであった。
「マリーさん、お疲れ様でした。それにしても無様な姿ですねべんりさん」
「ぽっぴん……てめえ、一体なにが目的だっ! おまえは秘密結社なんて作ってなにをしようとしているっ!」
俺の問い掛けにぽっぴんは鼻で笑うと手にした杖の先を俺に突出し言い放つ。
「なにをって? 決まっているでしょうっ! 我々はスイーツを! プリンをこよなく愛する団体っ! あんなに美味しい物を独占し販売しているべんりさんに対抗するべく、我々は独自にオリジナルスイーツを開発して、大儲けしようとしているのですよっ! ふはははははははっ!」
大笑いするぽっぴんの後ろでニコニコとしながら頷いているマリーさん。
「ば……馬鹿じゃないのかおまえら? そんなことで、なんで夜中にあんなパリピみたいな真似してるんだよ?」
「その方が気分が高揚して、より美味しくスイーツを楽しめるからですっ!」
なんだそれは、これが“スイーツ脳”ってやつなのか? いや、ちょっと違うな。
「さあべんりさん、観念してくださいっ! 秘密を知られてしまった以上、あなたをこのまま返すわけには行きません」
気味の悪い笑みを浮かべながらにじり寄ってくるぽっぴんの姿に俺は恐怖した。
ここで捕まってしまったら、糖分を摂り過ぎて頭がハイになった奴らになにをされるかわからない。
「や、やめろおおおっ! 近寄るなあああっ! 俺に触るんじゃねえっ! 助けてっ! ママあああああああっ!」
俺は泣き叫びながらポケットに入っていた物を投げつける。
ぽふっ、っとぽっぴんに当たるとそれは地面に転げ落ちるのだが、ぽっぴんは怪訝顔をしながらそれを拾い上げて広げるとぷるぷると震えだす。
「べ、べんりさん……これは、なんですか?」
「え? そ、それは……」
それはぽっぴん追跡の為に俺が洗濯カゴから拝借してきたニーハイソックスだった。
「これ、私のソックスですよね?」
「ま、待てぽっぴんっ! 違うんだ、落ち着いてまず俺の話を聞けっ!」
俺は右手を前に突き出してぽっぴんに落ち着くように促すのだが、その親指の部分にぶら下がる白い布切れを見て血の気が失せる。
「そ、それは……」
「ハ……ハハハ。し、白旗です」
その瞬間、俺は炎に包まれてぽっぴんのパンツも一緒に燃え尽きるのであった。
「まったくもって、きさまと言う奴は本当にどうしようもなく、どうしようもない男だなっ!」
どうしようもないって二回言ってますよジュリア騎士団長様。
取調室のテーブルを挟み目の前で呆れ顔になっているジュリア・レギンス騎士団長。
「面目ないです」
「謝って済む問題ではないぞ馬鹿もんっ! ああもうっ! なんで私はきさまの様な奴をっ! ああああああもおおおおっ!」
俺はしきりに頭を下げて反省していることを態度で示すのだが、ジュリア騎士団長は一人で真っ赤になり頭を抱えているので放っておこう。
あの後、別ルートで逃げていた獣王がローリンに助けを求め、二人が駆けつける頃には繁華街はめちゃくちゃになっていた。
俺とぽっぴんはその場で御用となり、治安維持をしている騎士団へと引き渡されることになったのである。
罰金刑で済んだのはよかったが、これで俺は前科二犯、ぽっぴんは一犯となり今回は特にオチと言うオチもなく終わるのであった。
ちなみに秘密結社スイーツ・プリン同盟は解散、今は名前を変え【甘味同好会】として細々と続いているらしい。




