第五十八話 究極の剣士対決! 聖騎士対魔剣士の巻①
「つ……強い……」
ローリンは床に剣を突き立て膝を突くとそう零した。
戦いの素人である俺の眼から見ても相手はローリンと互角、いやそれ以上の実力の持ち主と言えるだろう。それほどまでにこれまでの相手とは一線を画す、まるで次元の違う強さの持ち主であった。
まるで氷のように冷たいオーラを放つ女騎士。ダークシルバーに輝く鎧を身に纏った美しい騎士を前に誰もが息を飲む。
第十の宮を守護する魔闘神、魔剣のエカチェリーネ・オルストラ。
「聖騎士ローリン……貴殿の振るう聖剣エクスカリボーン。確かに紛うことなき最強の剣と言えるだろう……だがっ! 扱うものが未熟っ! その程度の実力では我が剣技とこの魔剣バウルムンクには敵うこと能わずっ!」
エカチェリーネは魔剣の切っ先をローリンに向けると、再び攻撃を仕掛けようと剣を振り上げる。
「くっ、皆さん下がってくださいっ! またあの攻撃が来ますっ!!」
「我が魔剣の前に平伏せっ! 聞くがよいっ! バウルムンクの叫びをっ!!」
「エクスっ! カリボーーーーーーンっ!」
二人の放った必殺の一撃が衝突すると、凄まじい閃光と衝撃が宮殿内を包むのであった。
少し時間を遡る。
第八の宮殿を守るビゲイニアはローリンの必殺技の巻き添えを喰らい、宮殿ごと吹き飛ばされて瓦礫の下で死んでいた。
今回の黒幕でありメームちゃんの命を密かに狙う、最終的に倒さなくてはならない敵をこんな形であっさり倒すことになるとは思わなかった。
たぶんまだ時間があるだろうと余裕ぶっこいてたんだろうな。まさか下から宮殿を二つも巻き込むような一撃が来るなんて思いもしなかったんだろう。
「せめてもの情けだ。成仏しろよ……」
俺はビゲイニアの本体である眼鏡を拾い上げると、簡易的な墓を掘ってやり宮殿の外にあった花を摘んできてその墓前に供えてやるのであった。
そして第九の宮殿は当然無人だった。だってそうでしょ?
おそらくここで色々調べれば壁の下とかから「メイムノーム様を託す」とか、なんかそんな感じのメッセージが出てきたりするんだろうけど。
はっきり言ってここの元住人とかまったく絡まないし知らない人なのでどうでもいい。だからそのまま素通りで俺達は第十の宮までやってきた。
残るはここを含めてあと三つ。なんだかんだで残りは三時間ちょっとしかなくなってしまっている。
移動中に犬がちょくちょくマーキングをするのが一番時間を無駄に消費したような気がする、まあそれは本能だろうから仕方ないだろう。俺は女の子と動物には優しいんだ。
そして第十の宮の前まで来るとローリンがピタリと足を止めた。
「どうしたローリン?」
「皆さん……この宮の中から感じる気配に気が付きませんか?」
ローリンは冷や汗を垂らしながら宮殿を見据えてそう呟いた。
なにを言っているのかよくわからず皆不思議そうな顔をするのだが、ローリンだけは神妙な面持ちで皆の顔を見るとなにか決意したかのような表情になる。
「次は私が戦います。おそらくこの中に居るのは相当の手練れです。ソフィリーナさんやぽっぴんさんの実力を侮っているわけではありませんが、現状、最強の武器を持つ私が戦うのが最良だと考えます」
次の相手がどのような能力を持つ者なのかわからない以上、相手を見てから考えたいものだが、まあそこまで言うのならべつにローリンにやらせても構わないかな。
と言うかいつもの流れで考えると、この宮に居る相手は、剣に生き剣に死ぬ、己の精神も魂も究極にまで鍛え上げ、肉体すらも一振りの剣と変えるような、たぶんそんな奴だ。だったらローリン向きの相手と言えるかもしれない。
相手が正々堂々剣士として向かってくるのであればローリンも卑怯な真似はしないだろう。仲間が卑怯な戦い方をしないか心配するって、なんかそれも違う気がするけどしょうがない。
次はローリンが戦う事を全員承諾すると、俺達は宮殿の中へと入って行った。
宮殿の最奥で腕組みをしながら仁王立ちで待ち構えていた人物は、ローリンの姿を見ると深く頭を下げて一礼する。
「待っていたぞ聖騎士ローリン。私はエカチェリーネ・オルストラ。貴殿と相見える日を私は心待ちにしていた」
「私を……待っていた? どういうことでしょうか?」
ローリンは怪訝顔で相手を見つめている、どうやら知り合いってわけではなさそうだ。
「そうだっ! 見ての通り、私は剣士だっ! 言うまでもなく私はこの剣だけを頼りに魔族の中でも最強と謳われる魔闘神の一人に上り詰めたっ!」
手にしている鞘に納めた剣を前に翳しながら目の前の女剣士は声を張る。
「それで、それが私を待っていたこととなにか関係があるのですか?」
「大ありだ。聖騎士ローリン、貴殿の剣の腕前は風の噂に聞いている。あのレギンス帝国に伝わる伝説の聖剣エクスカリボーンを手に、大陸からの侵略者数万の軍勢を相手に一騎で蹴散らしたと言う話は正に圧巻であった」
数万をたった一騎で? え、マジで? 強い強いとは思っていたけどマジでなんなんだよこの女子高生。え? 俺けっこうセクハラ紛いの事したり、バイト中にぞんざいに扱ったりしてたけど、後で仕返しされたらどうしよう。
そんな、戦いとは別の所で俺は戦々恐々とするのであった。
「そんな話は……誇れるようなものではありません……」
「なにを言う、帝国の騎士である者が、剣で立てた武勇を誇らずして何を誇るのか。貴殿の強さは私も実際に目にしている。あの日、魔王城を吹き飛ばしたあの一撃、あの日以来私は貴殿と剣を交わすことを夢見てきたっ! この私が三〇〇年かけて練り上げてきた剣技を! その真価を試すに相応しい相手が遂に見つかったと震えたぞっ!」
恍惚の表所を浮かべて捲し立てるエカチェリーネを前に、ローリンは苦渋の表情を浮かべると唇を噛む。
「さあっ剣を抜け聖騎士よ! 決闘を始めよう!」
エカチェリーネが剣を抜くように催促するのだが、ローリンはそれに応じない。そして悲しげな表情を浮かべると相手を見据えて言った。
「私はあなたとは戦えません。私はあの日の出来事を悔やんでいます。あの日、あなた方の住処を奪ってしまった自分が今でも許せないのです。ですから……あなたも、そんな私を許せないというのであれば、この場で私を切り伏せてください」
そう言って、ローリンは剣を置くと両手を広げるのであった。
つづく。




