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異世界ダンジョンにコンビニごと転移したら意外に繁盛した  作者: あぼのん
第三章 婚約、魔王十二宮での闘い
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第五十五話 時をかけるバイト②

 女の人のすすり泣く声が聞こえる。


「あぁ……神様、どうかこの子をお救い下さい……メイムノームの命をお救い下さるのならば私の命だって差し出します。どうか、どうかメイムノームを」



 メイムノーム……? メームちゃん……どうして?



 視界がぼんやりしている。まるで水の中にいるかのようだ。

 俺は宙に浮きながらどこかの部屋を俯瞰するように見ていた。

 これはよく漫画なんかで見る幽体離脱のようだと、なぜかそんなことを思った。


 ベッドの上に誰かが寝ているのだが、とても苦しそうにしていた。

 医者と看護婦らしき人達がバタバタと忙しなくしている。その傍らで寝ている人の手を握り、祈り続けている女性がいた。


 誰だろう? どこかで見たことがあるような?


 俺はなんとかして顔を覗きこもうとするのだが、どう足掻いても彼女の元へ近づくことができない。


 くそぉ、もどかしい、もどかしいけど、どうすることもできない。


 なにか音を立ててこちらに振り向かせることはできないだろうかと、辺りを見回すのだが大きな音が出せそうなものはなにもない。

 ならばと大声を出そうとしても声がでない。叫ぼうとしても喉の奥で声が詰まる。息苦しい、俺の身体は一体どうなってしまったんだ。

 空中でじたばたと足掻いていると、ズボンのポケットから何かが落ちた。

 まずいっ! と思い手を伸ばすのだが、それは俺の手をするりと抜けて「ゴトン」と大きな音を鳴らして床に転がった。


「誰っ!?」


 振り向いた女性の顔を見て俺は声にならない声を上げる。



「メームちゃんっ!」




 目を覚ますと薄暗い場所に居た。

 仰向けに寝転がり真正面に見える空には無数の光の粒が散りばめられた星空が広がる。


 綺麗だなと思いながら眺めていると、一際赤く輝いていた星が流れて落ちた。


「流れ……星……あれ?」


 気が付くと俺は一筋の涙を流していた。

 なぜだろう? 別に悲しいわけではないのに、それでも自然と涙が流れた。



「また一つ、星の命が尽きましたね」



 突然頭上から聞こえてくる声に俺は驚き飛び起きる。


「あら? ごめんなさい。びっくりさせてしまったみたいですね」


 ちょっぴり申し訳なさそうな顔をしながら微笑む女性の姿に、俺は一瞬頭の中がこんがらがってしまうのだが、すぐにその女性の名前を思い出した。


「ソフィリーナっ!? どうしてここに?」


 俺がそう呼ぶとソフィリーナはすごく驚いた様子で問いかけてくる。


「え? なんでその名前を? どこかでお会いしたことありますでしょうか?」

「何言ってんだよ。俺だよ! べんりだよっ! またふざけて、俺のことからかってるのかっ!?」


 しかし、ソフィリーナは不思議そうな顔をしたまま黙り込んでしまう。


 こいつ、またそうやって俺のことをからかって、ローリンやぽっぴんもグルか? どこかに隠れているのだろうか?


 キョロキョロと辺りを見回すのだが、人が身を隠せるような場所や物は見当たらない。

 少し離れたところに王様椅子みたいのがあるだけで、それ以外は特になにもない寂しい場所であった。


「あ、あのぉ?」


 オドオドとしながらソフィリーナが俺に話しかけてくる。


「なんだよ?」

「どうして、姉の名前を御存じなんですか?」


 は? 姉?


「私はソフィリーナの妹のユカリスティーネと言います。私はここ“時の狭間”で星の動きの観測をしているんですよ。でも、姉と間違えられたのなんて初めてです。いつもあんまり似てないって言われるんですよ?」


 そう言われると全然似てないな。むしろ妹の方がかわいい……いや、美人で巨乳だ。


「そう言えば、あなたが持っているそれ……もしかして時の歯車ですか?」

「え? なんで?」


 ユカリスティーネが俺の右手を指差しながら少し困ったような顔をしている。


「時間操作はあまり関心しませんね。特に時間の跳躍は記憶の混濁を招きます。繰り返しすぎるといずれ自分が何者でどこから来たのかもわからなくなってしまいますから気を付けてくださいね。できればそれも、元あった場所に戻すことをおすすめします」


 俺はその言葉に、ようやく話の通じる相手が見つかったような気がして、ユカリスティーネに迫るとこれまであったことを一気に捲し立てた。

 最初は驚き困惑した表情で聞いていたユカリスティーネも、次第に俺の話がまったくの嘘ではないと思ったのか、真剣な表情になり聞いている。


「なるほど……確かにこれは、強力な呪いのようですね」


 俺の額に手を当てながらユカリスティーネは頷く、ひんやりした手の平がとても心地よかった。


「あ、あの? 俺は一体どうなったんでしょうか? なんかもうずっと現実味のないことが続いてて正直わけがわからないです」

「そうですね。私にも実際それが正しいかどうかはわかりませんが、おそらく時の歯車を体内に宿したメームさんと契約を交わしたことによって、べんりさんはより歯車の影響を受けやすくなったのかもしれません。呪いが発動したことにより肉体から離れた魂が時間旅行をしていた可能性が高いかと」


 う……うおぅ……マジかよ。単なるギャグファンタジーだと思っていたのに、いきなりSFちっくな展開になってきたな。


「とにかく、ソフィリーナ達のしたことに関しては後で罰を受けて貰うとして。べんりさんが今持っている、その時の歯車を元に戻さないとなりません」

「そ、そうだな……。早くこれを時の管理棟に戻さないと」

「いいえ違います」


 え? 違う? なにを言っているんだこの子は、せっかく時の歯車を手に入れたんだ。さっさと元の場所に戻して全てを元通りに、俺とローリンを元の世界に帰して……。


 帰って……それから、どうなる? ぽっぴんは? メームちゃんは? 獣王は? オルデリミーナ皇女やマリーさん。店の常連の奴ら。そして、俺のあっちの世界での初恋の女性(ひと)、シータさん。


 皆に何も言わずにこのままお別れなのか? でも、それでも……。


「でも、これを元に戻せば全部なかったことになって、メームちゃんは助かるんじゃ?」


 そうだ。そうすればメームちゃんの命は助かるじゃないか……そうすれば……。


「いいえ。それではなにも解決しません、下手をすれば時間の法則が乱れてなにもかもが消滅してしまう恐れがあります」

「そ、そんな……どうして?」

「話を聞いた限りでは、ソフィリーナが時の歯車を失くしたことが始まりです。であれば順を追わなくてはなりません」


 順を追う……それって……。


「時間軸通りに出来事を追うのであれば、今べんりさんが持っているその時の歯車は、これからメームさんの体内に入らなくてはならないと言う事です」



 それはつまり、俺がメームちゃんの身体に時の歯車を入れろと言う事に他ならなかった。



 つづく。


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