第五十三話 沙羅双樹の花びら回転④
圧倒的な強さであった。
髪を掴まれ引き摺られてくるシッタシータの姿を見ながら誰もが息を飲む。
魔王の娘メイムノーム・リゲリア・フォン・デュ・ユーフィリア。
彼女もまた傷つき額から流れた血が顎から滴り落ちる、潰された左腕からも大量の血を流していた。
それ以上にボロボロになり最早虫の息のシッタシータ、額にある第三の眼を開き魔神の姿になった彼女はまさに破壊神のごとき強さであった。だがしかしその強さを更に凌駕し、瀕死の状態まで追い詰めたメームちゃんはなんと呼べば良いのか。
あらゆる魔族や魔神たちの頂点に立つ王……。
それが、魔王。
やはり、そう呼ぶのが相応しいのかもしれない。
「ベンリ、この子にパワビタンを飲ませてやれ」
「う……うん。メ、メームちゃんは?」
二人が戦っている間に俺もパワビタンで回復していた。
これがあるからこそメームちゃんは全力で戦い、シータさんのことを完膚なきまでに叩きのめすことができたのであろう。
「我は後でもらう、早くしないと死んでしまうぞ」
そう言いながら掴んだ頭を放り出すメームちゃん。シータさんは床に投げ出されると小さな呻き声を漏らすのだが意識はないようだ。
俺はシータさんの口の中にパワビタンの瓶を突っ込みなんとか中身を飲み込ませる。
パワビタンのチート効果であっと言う間に怪我が回復すると、シータさんは俺の腕の中で意識を取り戻した。
「べ……べんりさん」
「大丈夫ですかシータさん?」
「私はいったい……これは? べんりさんが私の介抱をしてくださったのですか?」
俺が優しく頷くとシータさんは涙目になり抱きついてきた。
「恐ろしかったです。殺されるかと思いました」
「もう大丈夫ですよ。もう、すべて終わりましたから」
そりゃ怖かっただろうな。どんな攻撃もすべて返されて、悪魔的な力で自分を攻撃してくる相手と戦うのなんて、はっきり言って俺、メームちゃんの強さにビビってちょっとチビっちゃったもんね。
ふと目の前を見ると鬼の形相でぷるぷると震えているメームちゃん。まずい、これは第二回戦が勃発してしまう。
と、思ったのだが、突如メームちゃんの身体から蒸気が吹き出し姿が見えなくなる。そして霧が晴れると小さくなったメームちゃんが駆け寄ってきて俺の頭を両手でぽかぽか叩くのであった。
「ばかばかばかばかーっ! べんりのばかあっ! あーん、あぁ~んっ!」
そして仕舞には泣き出してしまうメームちゃん。俺は抱き上げて宥めるのだがしばらくは機嫌を直してくれないのであった。
「泣き疲れて眠っちゃった」
俺の腕の中でスースーと寝息を立てるメームちゃんを獣王の背中に乗っけるとシータさんが話しかけてきた。
「おそらくは私と戦い力を使った為、疲労が限界まできたのもあるのでしょう。正直私も悪ふざけがすぎました」
「え? 悪ふざけだったんですか? あれが?」
「うふふ。なんにしても、メーム様のお身体が限界に近いと言うのは事実です。ビゲイニアの奴がなにか企てていることも存じています。しかし……」
そう言うとシータさんは目を伏せ黙り込む、しばらくそうしているのだがぶるぶると首を振ると意を決したように顔をあげて俺達に懇願してくる。
「お願いしますべんりさん。メーム様を、メーム様のお命をお救いくださいっ! メーム様の胸に深く埋まったその星の欠片、あなた方が探していた物だと言う事も聞きましたっ! であれば、それを取り出す方法を知っているのでしょう?」
俺はシータさんのその言葉にゆっくりと首を横に振る。申し訳ないが本当に知らないのだ。元凶であるソフィリーナも知らないと言うのだからどうしようもない。
「そ……そんな、嘘ですっ! もしメーム様をお救い下さるのなら私はなんだってしますっ! この身を差し出せと言うのならそれだって厭わないっ!」
そう言うと真っ赤になり恥ずかしそうにしながら服を脱ぎだすシータさん。下着姿になりブラの紐に手をかけた所で俺はその手を優しく握った。
「そんなことしないでくださいシータさん……そんなこと」
シータさんの眼を見つめると、彼女の目は真っ赤になっていた。そして堪えきれなくなり大粒の涙を零すと大声で泣き崩れるのであった。
彼女も必死だったのだろう、メームちゃんをなんとか救うことはできないかとずっと悩んでいたのに違いない。
それで俺を誘惑してメームちゃんの胸に埋まった時の歯車を取り出す方法を聞きだせないかと考えたのだ。もし俺が男の娘でもオッケーな人種じゃなかったらどうするつもりだったのかは知らない。
「シータさん。今は時の歯車を取り出す方法はわかりません。ですが俺は必ずそれを見つけ出してみせます。約束です。俺は絶対にメームちゃんを救ってみせますっ! その為にはまずこの呪いを解かないと、死んじゃったらその約束も果たせませんからね」
俺がにっこりほほ笑むと、シータさんは笑顔で返してくれた。
そして不意に顔を近づけると口づけをしてくるのであった。
「はい、信じていますべんりさん」
突然のことに俺は慌てることもできずただ呆けて彼女のことをみるのだが、頬を染めハニカム彼女の姿はとても可憐でまさに乙女であった。
俺は自分の胸がトクンと鳴るのを感じた様な気がした。
あれ? これってまじで……恋かも?
そして、俺は死んだ。
つづく。




