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異世界ダンジョンにコンビニごと転移したら意外に繁盛した  作者: あぼのん
第三章 婚約、魔王十二宮での闘い
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第四十六話 史上最低の魔法対決? 大賢者対呪術王②

 第四宮に入った時には感じなかったはずの硫黄臭が急激に立ち込める。

 これだけ強烈に臭っているのだ。今しがた硫化水素を流し始めたのだとしたら相当の量と濃度であるはず、そんなものをこんな密閉された空間で吸引したら急性中毒で即死だろう。

 であれば恐らくこれはハッタリ(ブラフ)。人工的に作り出した臭いをここに充満させたのだろう。屁か? 大量の屁をここに流し込んでるのかっ!? それはそれで気持ち悪いな。


 落ち着いて冷静に考えればすぐにその思考に辿り着くが、そう簡単には拭いきれないからこその心的外傷(トラウマ)である。


 ぽっぴんは青褪めたまま動けない。

 一度、疑心暗鬼という沼に足を踏み入れればそれは泥沼、思考を巡らせ足を踏み出せば踏み出すほどにずぶずぶと嵌っていく。

 それがブラフとわかっていても。こちらがそうだと看破することすら相手は逆手に取っているかもしれない。

 そうなってしまったら気がつけない。その疑問はいつしか、相手ではなく自分に向けられているということにすら。

 疑問に疑問で答える堂々巡り、気が付けば膝まで泥沼に沈みそこから先へは一歩も動けなくなっているのだ。


「くっくっく、使えないでしょう? それは火炎系魔法だけではなく。他の系統の魔法も一緒です。一度疑いだしたらキリがない。全てが、今、あなたが導き出した答えに誘導する為の策だった……そんな可能性を1ミリでも感じてしまったら、人はそれを否定できないものですからね」


 呪術王……なるほど、その名は伊達ではないようだな。これはまるで“言葉の呪い”だ。

 この硫黄臭だけでは弱いブラフも、奴の言葉によってより虚構(リアル)が増している。


「ぽっぴんっ! 惑わされるな! 大事をとって火炎系魔法は使わないにしても、他の魔法は十中八九安全だ!」


 しかし俺の言葉はぽっぴんの耳には届かない。それほどまでにぽっぴんは前回の爆発事件を気にしていたのだろうか? そんな風には見えなかったが繊細なところもあるんだな。

 なんて感心している場合ではない。このままでは戦わずして負けが確定してしまう、なんとかしなければと思っていると、ぽっぴんが杖を握りしめて相手の方へゆっくり歩みだす。


「なるほど……元来、魔法や魔術、呪いというものは、言葉に宿る力を現実に顕現させたものだと言う解釈もあります。“言霊”なんてものがあるように、言葉にはそんな霊力が備わっているものなのでしょう……」

「ほほぉ、中々に博識ではないですか。そういった考え方、私は嫌いではありませんよ」


 ぽっぴんはインポテックの眼前まで行くと、相手のことをジッと見据える。なにをしようとしているのか? インポテックもぽっぴんの次の行動が読めずにじっと身構える。


「……てんつ」


 ん? 今、なんて言ったぽっぴん?


 ぽっぴんがボソリと呟くと、インポテックがビクりと震えて脂汗をかきはじめる。


「な……ななな、なぜそれを?」

「やっぱり……どうやらこの呼ばれ方には覚えがあるようですね? 私にも使えるんですよ? そういう言葉の魔術……」


 な、なんだ? 一体なにを言ったんだぽっぴん?


 すると、ぽっぴんは大きく息を吸って大声で叫ぶ。


「インポテックはイ〇ポテ〇ツぅぅぅううううっ!」


「や、やめろおおおおおっ! そのあだ名はやめろおおおおおおっ!」


 ぽっぴんの発したピー音全開の単語に身悶えるインポテック。

 その単語自体は決して相手を侮辱するような意味はないのだが、しかし男性に向かってそう言う事は、特に頭の三文字に略して言い放つことは多分に侮蔑を込めた言い方に捉えられがちの危険な単語だ。


「おまえっ! なんで俺の小中学生の時のあだ名を知ってるんだあああっ!」

「ふはははははははっ! イ〇ポイ〇ポっ! このイ〇ポ野郎っ! やっぱり本名だったんだなwwwwww」

「くっ、くぅぅぅぅぅぅっ! 親がこんな名前を付けたせいで、俺は多感な時期をどんなに恥ずかしい思いをして送ってきたことか……おまえは、そんな……そんな俺のトラウマを突いてきたと言うのかあっ!」


 ぽっぴんはなにやらよくわからないハイテンションになっている。

 目を光らせながら手をフワフワと、まるで星座の軌跡を描くように動かして怒涛の攻撃(悪口)を続ける。


「第一の宮でリサが言っていた童貞三人の魔闘神の一人はおまえだろうっ! ロリコンで童貞で不能なんて数え役満確定のドクズだなっ! ふひょひょひょひょーっ!」


 なんなんだあいつ……マジで最悪だ。なにが賢い大賢者だよ。単なる下ネタ大王じゃねえかおまえ。


「ど、どどど、童貞ちゃうわっ! 私には妻も娘もいるんだぞおっ!」

「へー? それってあれですか? 二次元嫁ってやつですか? べんりさんにも正妻と側室を合わせたら5人くらいいますよそう言う人? て言うか二次元嫁はよく聞きますけど、娘って……ちょっとさすがにそれはドン引きですわー」


 マジで蔑むような目でインポテックのことを見るぽっぴん。中学生の年齢の娘にそんな目で見られたらもうね、心が壊れちゃうよ俺だったら。ほら、インポテックも目を真っ赤にして下唇を噛みしめて今にも号泣しそうだよ。なんか可哀相になってきたよ。


「く……くそったれめぇぇぇぇぇ。女の子に言葉責めされて、蔑むような目で見られて……なにより、そんな状況に少し興奮してしまっている自分にくそったれええええっ!!」


 あぁ……あんたもそっち系の人でしたか、て言うか見た目的に変態っぽいもんね。奥さんと娘がこの場に居たら泣くぞ。


 インポテックは後退り、仕切り直すようにぽっぴんと距離を取るとなにかごにょごにょと呪文のようなものを唱えだす。


「戦意を喪失させるだけで済ませてあげようと思っていたのですが、ここまで侮辱されてはさすがの私も黙っていられません。あなたが悪いのですよ。この私を本気にさせたのですからっ!」



 インポテックが叫ぶと背後に開いた異空間から、おぞましい姿の悪霊達が無数に飛び出してくるのであった。



 つづく。


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