第十六話 秘密の第五皇女様①
真っ白な湯気の立つお湯に、しなやかな足をゆっくりと入れて行くと肩まで浸かる。
ほんのり桜色に上気した肌を惜し気もなく晒しながら、一つ吐息を漏らすと、うなじから零れた滴が鎖骨へと流れて行った。
「うぅぅうううううぃいいいいい。いい湯だなぁ」
はい俺でしたああああ! 残念女子じゃありませえええん!
と言うわけで今は入浴中だ。
ネクロマンサー事件の際にぽっぴんぷりんの放った獄炎魔法が、地下から漏れ出ていた硫化水素に引火して大爆発を起こしてから2週間。
地下でのガス爆発なんて、さすがの俺もあれは死ぬかと思いましたがパワビタンZとギャグ小説というご都合設定のおかげで無事生還することができたわけだ。
ネクロマンサー尾崎及び三重死達は、従業員に対し法外な時間外労働を課したことと、賃金の未払いの罪によりローリンによってその場で検挙、今は拘置所で裁判を待つ身となった。
そして過酷な労働を強いられていた屍人達は、ようやく労働から解き放たれた解放感からか皆その魂が天へと帰って逝ったというのが今回の事件の結末である。
さて、俺は今、天然温泉に浸かっているわけだがこれはどこにあるのかと言うと。
そう、大爆発を起こした16階層に沸いてきたのだ。
ぽっぴんの魔法で大爆発を起こすと、ガスの噴出していた岩肌に亀裂が入り地下の温泉が沸きだしてきたというわけだ。
「いやあ、怪我の功名と言いますか、転んでもただでは起きないと言いますか、毎日毎日店内のポットで沸かしたお湯を水で温めて、缶の底に穴をあけた自家製シャワーだったからほんと助かったわ」
こうやって毎日お湯に浸かれるというのはやはり気持ちの良いもので、フィジカル面にもメンタル面にも良いものだ。最近では毎日のお風呂の時間が楽しみで仕方ないと言う、しずかちゃん脳になってしまったよ。
俺が意気揚々と、いい湯だなを鼻ずさみながら温泉に入っていると、向こうの方から声が聞こえてくる。
「ちょ、ちょっとソフィリーナさん、まだべんりさんが入ってる時間じゃないですかっ!」
「気にしない気にしない。だいたいなんで女神であるわたしがあいつより後に入らないといけないのよ。あんなの人里に下りてきた猿か狸だと思えば全然気にならないから」
な……んだと? あれは、ぽっぴんとソフィリーナの声ではないか……。ま、まさか? 俺がまだ入っているのに温泉に入ろうとしているのか? え? ここ混浴だったっけ? え? まじでっ!?
俺はドキドキしながら、二人がやってくるのを待つ。
しかしここでがっついてはダメだ。食い入るように凝視するとスケベな野郎だと思われて帰ってしまうかもしれない、ここはあくまでも平静を装うんだ。
べつに、二人の裸なんか見たって欲情しないよ? だって、なんかダメな姉とバカな妹にしか思えないし? 家族に対してそういう感情抱きませんからあ? みたいな態度で迎え入れるんだ。
「や、やっぱりやめましょうよぉ、恥ずかしいです」
「いいからいいから、ほら、余所見してると転ぶわよ」
き、来たっ! 落ち着け俺、目をギンギンに血走らせながら見ていたら逃げられるぞ、いや、目よりもあそこがギンギンに……ばかっ! ここはノクターンじゃないんだからっ!
「べんりくーん。わたし達も一緒に入るわよ」
「お、おう、べ、べつに構わないぞ」
俺は平静を装いつつも横目で女子達の裸を確認しようとするのだが……。
「水着じゃねえかよおおおおおおっ!」
「あったりまえでしょ。まあべつにわたしは構わないけど、ぽっぴんの裸を晒したら児ポ法に引っ掛かっちゃうし、その時点で連載終了よ。だいたい女子と一緒にお風呂入れるなんて、童貞のあんたにはもうこれが天井、これ以上のことなんてないんだから感謝しなさい」
なんて失礼な奴なんだ。て言うか、なんで俺が童貞って知ってんだよ。
そんなんだったらこんなドキドキしながら待つ必要なんかなかったじゃないか。
「し……失礼します」
ソフィリーナの後ろから恥ずかしそうにおずおずと出てくるぽっぴん。
二人はゆっくりとお湯に浸かると、「ん~」と気持ちよさそうな声を漏らす。
ん? これって……。 水着を着てようが、女子二人と一緒に温泉に入ってるシチュエーションってなんかエロくね?
そんなことを思い出したら、妙に興奮してきた俺はついつい二人の姿を凝視してしまう。
「なにじろじろ見てるのよ」
「なんか、目つきが異様にエロくないですか? やっぱり猿や狸とは思えません。いや、ある意味猿ですね」
「い、いやっ……なんだよ? 違うぞ! べつに俺はそんないやらしい目つきでお前達のことを見ているわけじゃないぞ!」
すごい! こんなバレバレの言い訳をするなんてある意味俺すごい! 恥ずかしい!
俺がモジモジ君になっていると調子に乗ったソフィリーナが近寄ってきてからかい始める。
「あれえ? なにを隠しているのかなぁ?」
「ちょ!? や! やめろっ!」
ソフィリーナは俺が腰に巻いているタオルを掴んで引っ張り始める。
なんなんだよこいつ痴女かよ? やめろよ! いや、やめないで! いやいや、そうじゃなくて。
「お、おおお、俺もう出るわ」
マズイ、今この俺の分身を見られたらドン引きされることは間違いない。とにかくここはバレないように一刻も早くこの天国から……いや、羞恥地獄から逃げ出さなくては。
「ええー。もう出るの~? いいからもうちょっといなさいよ~」
このやろうぉぉぉぉ。こいつぜってぇわざとやってるだろう? なんのプレイだよこれ? 目覚めそうなんですけどっ!
「やめろ馬鹿っ! タオルを引っ張るんじゃねえっ! おまえ酔っぱらってるのか?」
「そう言えばさっき、お店のお酒飲んでました」
「やっぱりかこのやろう、後で給料から点引くからな」
「うっさいわねえ」
その瞬間、ソフィリーナが勢いよく俺のタオルを引っぱると簡単に結び目が解けて剥がれ落ちる。
「あ……」
「あっ……」
「ひっ!」
そして、ちょうどぽっぴんの顔の前で俺の荒ぶる分身が露わになった。
「いやあああああああああああああああっ!」
「なんでべんりさんが悲鳴あげてるんですかっ!? きゃああああああああああっ!」
「ひっく、ひっく……もうお嫁に行けないよぉぉぉぉ」
ダンジョンの中に木霊する俺のすすり泣く声、途中すれ違った何人かの冒険者達は怪訝顔をしながら俺達を見ていた。
「まあまあ、悪かったわよ。後でコーヒー牛乳奢ってあげるから。ね? ぽっぴんも」
「もう二度とソフィリーナさんとはお風呂に入りません」
この駄女神の所為で一日の終わりが台無しになってしまった。
そう言えばローリンは居なかったけどなんでだ? どうせならJKと一緒に入りたかったのだが、まあさすがに来るわけないか。
そんなこんなで店舗兼自宅まで戻って来ると、店の前に人だかりができている。なんだなんだ。もう夜の8時を過ぎようってのになんでこんな行列ができているんだ? だいたいうちは24時間営業じゃないからもう閉店してますよ。
「すいませーん。今日はもう閉店してるんで、また明日ご来店してもらえますかあ?」
店の前の人だかりに声をかけると、真ん中が割れてそこを一人の女性騎士が歩み出てきた。
「ベンリー・コン・ビニエンス! きさまを帝国領土内における無許可での商売及び、今回のダンジョン内、爆発炎上事件の首謀者として拘束するっ!」
は? この人は一体なにを言っているのだろうか? わけがわからないまま俺の手には枷が嵌めらるのであった。




