第十話 高度な情報戦を制す者が世界を制す
こちらの世界に来てから一週間でわかったことをいくつか纏める。
まず、このダンジョンができたのはローリンがこちらに来たのとほぼ同時期であるらしい、おそらく【時の歯車】が関係しているのではないかと推測される。
ダンジョンができてしばらくは冒険者達の探索の場であったが、魔王が現れてダンジョンを占領してしまったのが約半年前。
魔王が来てからと言うもの、ダンジョン内にはモンスターがうじゃうじゃと徘徊するようになって探索し辛くなってしまったらしい。
次にこのコンビニのこと。
ダンジョン内の壁にずっぽりと埋まった状態で出現したのだが、なぜ電気が通っているのか? ソフィリーナが言うにはこれは、このコンビニだけは俺らの世界とこちらの世界で次元がリンクしているらしくそういった機能は損なわれていないということらしいのだがよくわからない。
そしてレジの表示がなぜこちらの世界の文字になっているのか? これもこっちの世界の法則にリンクしつつ、あっちの世界の機能を残しているのでどうたらこうたらと説明されたがよくわからない。
さらに最大の謎がいつまで経っても商品が売り切れないこと。これは何故かと言うと、一度試しに発注してみたらどういうわけか次の日に注文した分だけ商品が勝手に補充されていたのだ。
発注していなくても売れた分だけPOSレジを通したものは補充されるらしいこともわかった。
それもこれも【時の歯車】が起こした時間の歪みが原因らしいのだが、どうにも胡散臭い。まあでもこちらの世界での生活がかなりイージーモードなので良しとしておこう。
さてそういうわけで、異世界ダンジョンでコンビニを開店してから一週間が経った。
この情報は地上にある冒険者ギルドで共有されるとたちまち広まり、さらにはパワビタンZドリンクを持ち帰った冒険者がそのアイテムの効果を広めるとその人気が爆発。異世界に空前のパワビタンZドリンクブームが到来するのである。
「いやぁ今日も忙しかったわねべんりくん」
「もう、うっはうっはだぜ。これだけあればたぶんこっちの世界なら一生遊んで暮らせるんじゃね? パワビタンZ様様だな。ありがとう鷹のマークの製薬会社さん」
バックヤードのテーブルの上に積まれた千両箱を前に高笑いを上げる俺とソフィリーナ。
その横でローリンが怪訝顔をしながらじっと俺達を見つめている。
「ん? どうしたんだローリン?」
「べんりくんなにか忘れてませんか?」
「え? なにが?」
ちなみにいつの間にか「べんりくん」と呼ばれるようになった俺。なんか便利な使い走りみたいな呼び方だが、まあ気にしないことにした。
「なにがって、時の歯車! 探しに行かなくていいんですかっ!?」
「あーそれねー」
「それねー……じゃないですよっ! 一刻も早く見つけて戻さないと、元の世界に帰れないどころか世界が消滅しちゃうかもしれないんですよっ!?」
涙目で俺に迫るローリンであったが、んなこと言ったって闇雲に探し回ったところで、そんな簡単に見つかりっこないだろう。これだからお子ちゃまは現実が見えていないな。
まあ、こっちの世界に来て一年。ようやく元の世界に戻れる方法がわかったのだから居ても立っても居られない気持ちはわかるが、こういう時は焦ってはいけない。
なにか大きな事を成すにはしっかりと地盤を固める必要があるのだ。
「まあまあ。俺だってこの一週間なにもしていなかったわけじゃない」
「本当ですか? 一体なにをしていたんですか?」
「この店に訪れるお客さんはみんな冒険者なんだぜ? このダンジョンのことのみならず、この世界のあらゆる情報を持っている人達だ」
「な……なるほど。つまり?」
「情報ってのは内容によっては生き死にを左右するくらいに重要な物でもあり、時に高価な商品としての価値を生み出す物でもあるんだ」
ローリンは俺の言わんとすることが理解できないのか、眉を顰めながら黙って聞いている。
「つまりだ。冒険者達ならより多くの情報を持っているだろうから、俺はその情報を買うってわけだ。その為には金が必要だろう?」
「あ! なるほど、そういう事ですか」
「さらにそのお金でまたうちの商品を購入してもらうというループを繰り返す。謂わばこれは経済の縮図ってわけだ」
べんりくんすごーい。と感心した様子のローリンを見ながら、単純な娘だなと俺は思うのであった。
まあ一応今言ったことは嘘ではないが、ぶっちゃけ俺はその【時の歯車】を探す意欲はあまりない。
だって、元の世界で時給1000円のコンビニバイトをしているよりも、こっちの世界に居る方がいい暮らしできそうだし。世界が崩壊するかもとは言っているが今の所なにも起きていない、甘い汁を吸えるうちに吸っておきたいってのが本音である。
「早く元の世界に帰りたい気持ちはわかるけど、こういう時こそ焦りは禁物。しっかりと腰を据えて行こうぜ」
「わかりました。そういう事ならわたしもお店のお手伝いをしっかりさせていただきます」
と言うわけで今日は店じまいにしようと片付けに出る俺は店先であるものに気が付いた。
「た、大変だああああっ!」
「ちょっ! な、なによいきなりっ!?」
「きゃあっ! ちょっとべんりくんっ! セクハラですよっ!」
大慌てでバックヤードに飛び込んできた俺にソフィリーナとローリンは驚いた様子。どうやら着替え中だったらしいがそんなのは無視。
「それどころじゃねえ。こいつを見ろっ!」
俺は背中におぶっているそれを見せて二人に言い放つ。
「女の子拾った!」




