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第三話 甦るがいい、至高の料理人

 紆余曲折はあったが、武器や魔法についての記憶は無事に結合させることに成功した。

 その代わり、思いっきり顔を潰すことになった女神さまたちは、不機嫌の極みになっていた。


『……私はあと1回だけ『女神の祝福』が使えるんだよね……悪意さえなければ使えるはず……どんな『女神の祝福』だとお仕置きになるのかな……』


 ハリセン女神さまが凍りついた笑みを浮かべながら物騒な事を呟いている。


(それって『祝福』じゃなくて『呪い』だよな? それに神さまが人間に呪いをかけるってありなのか?)


 その場合の対処法は呪った神様を倒すのが一般的だと思うけど……。


「だから『呪い』はイヤなのよ! 人を呪った神はその代償として受肉してしまう! そうなったら最悪の場合はキミに殺されちゃうのよ!」

 

 オレが神殺しについて考えた瞬間、ハリセン女神さまは焦ったように言ってくる。 

 

「えっ? 女神さまたちって強いんですよね」

 

 かりにも神様なんだからものすごく強いはずだ。

 

「もちろん、普通の人間よりはずっと強いわよ! だけど、さっきの育成ゲームのときにウィルくんは毎月のように『武神』を蹴散らして『神様』にあってたよね? そしてついでに毎月『神様』も殴り倒して能力値を貰っていたよね?」

「……ええ。間違いないですよ」

 

 武者修行の最終エリアに登場する守護神、その護衛の武神。

 神話級の魔物であるフェンリル、ベヒモス、リヴァイアサン、アジ・ダハーカなどの魔獣。

 これらの魔獣たちは蹴散らすだけで全ての能力が成長するという凄く美味しいボーナスなので徹底的に狩りまくっていた。

 再登場が1ヶ月なので、毎月のように倒し続けてきた。


 これがオレの育成方法の肝であって基本でもある。

 

「……あのときの『武神』が私で『神様』はあの子だったの!」

「はあ!? あの能力ボーナスを授けてくれる雑魚神さまたちがですか?」


 ハリセン女神さまの説明に仰天してしまう。

 神様ってもっと強いんじゃないのか?

 それに、あの武神って玉串の代わりに日本刀を持った雑魚神さまだぞ?


「雑魚じゃない! キミの能力が異常で非常識でぶっ壊れているだけなんだからね! あれに出てきた魔狼(フェンリル)とか魔竜(アジ・ダハーカ)とかの実力も本物と同じなんだからね!」


 なんと魔狼(いぬ)とか魔竜(とかげ)の能力が本物に準拠だって? それってありえないと思うぞ?


「だから、あのエリアの最深部の魔物を倒す人間なんてあり得ないの! だから、間違ってもキミに呪いなんかかけられないわよ……」


 女神さまは冗談抜きでガクブル状態で事情の説明をしてくれる。


(知らない間に神話級の魔物たちを雑魚のように狩っていたのか……)


 さすがにこんな事は知りたくなかったよ……これじゃあ完全な戦闘中毒者(バトルジャンキー)だ。


「「自覚が無かったの!!!」」


 内心で自虐的に突っ込んだ途端、女神さまたちに一斉に突っ込まれてしまった。 

 どうやら、女神さまたちの認識だとオレは戦闘中毒みたいだな。


   □   □   □   □

 

「次はお料理系スキルね」

「……今度こそ余計な概念は持ち込まないでよね!」

 

 料理で余計な概念って言われてもよくわからないよな。

 

「……簡単に作れる万能調味料マヨネーズ」

 

 ラノベでの定番中の定番のマヨネーズなら大丈夫だろうか?

 

「却下!」

 

 即答で却下されてしまう。

 

「……日本人の必須調味料の醤油」

「却下! 食文化を変える事はダメなんだからね!」

 

 醤油もダメなのか……それだとどんな食い物なら良いんだ?

 

「この世界にある料理だけに決まっているでしょう? そんなに心配しなくても料理スキルが高いんだから美味しい料理くらい作れるはずよ」

 

「……だといいんですけどね」

 

 これ以上女神さまたちの仕事を増やすと後が怖いけど、料理ってスキルも大事だけどが知識とか概念とかも大事なんだよな。


 例えば……初期の蕎麦なんかは蒸して調理をしたのだが、蒸し蕎麦ははっきりいってパサパサしてとても不味い。

 現代みたいに茹でる方が圧倒的に旨い。

 

 つまり、この事実を知っているド素人が茹でた蕎麦のほうが、大昔のプロが作った蒸し蕎麦よりも圧倒的に旨い……なんて逆転現象が発生してしまう。

 

(調理法とかの概念がしっかりしている世界だといいんだけとな)

 

 さてっと……どういう風になっているのかな?

 

seen 3

 

 今度の場面は収穫祭のメインイベントの一つ、料理コンテストだ。

 育成ではこのイベントは3年目から5連覇している。

 メンバーを見ると……どうやらちょうどその3年目だな。

  

「それでは料理コンテストを始めます。本日のテーマは……肉料理!」

 

 司会らしい人がテーマを告げると観客から大歓声がおきる。


「それでは、予選を突破したメンバーを紹介します!

 一人目は前回の覇者、鉄人ミチバ~!!」

 

 初老の料理人が歓声に応えるように手を振る。

 

「二人目は前回の二着。今度こそ鉄人になるんだ! サカイ~!!」

 

 イケメンの料理人が手を振る。

 

「三人目は同じく前回の二着。今度こそ勝つぞ! チ~ン~!!」

 

 今度は小太りの料理人が手をあげて観客たちに応える

 

「四人目は一見可愛い女の子。だけど本当は男の子! 冒険者ギルドが送る新星、ウィルフレッド~!!」

 

 最後にオレの出番だが酷い紹介だな。もう少しまともな紹介はないのか。


「お~い、姉ちゃん。ウィルフレッドって昨年から武闘会を連覇している天才魔法使いだぞ」

「はい?」

「……魔装装着」

 

 とりあえず流れに乗るように武器を装着して戦闘装備に切り替えると、凄い大歓声が起きた。


「誰が女の子ですか?」

 

 相手を脅かさないように優しい笑顔で確認をするのだが、司会のお姉さんは可哀想なくらいガクガク震えている。


「え、えっと……その……見た目が凄く可愛いって事で悪意は全くないのですが……」

「……それなら良いです。ボクを女の子したらどうなるかは、武闘大会の関係者に聞いて下さいね」

 

 そういう不埒者は半殺しにした記憶を想像すると、あっさりと確定した。

 

「……わ、わかりました。それでは料理を開始して下さい!」

 

 司会のお姉さんの合図と同時に料理開始だ。

 

 材料として用意されているのは、肉の固まり、塩、ハーブ、玉子、食パン、小麦粉……。

 

(……こんな材料で何を作ればいいんだ?)

 

 すぐに思いつくのはカツレツとかだけど良いのか?

 

『こら~!! 勝手な料理を持ち込まないの!』

 

 すると、女神さまに文句を言われてしまった。

 

『この世界の料理は……あれだよ』

 

 プロの料理人たちは……肉の固まりの形を整えてそのまま炙っている。

 

「……ケバブ? それにしては下拵えが甘いよな」

『ただの丸焼きだよ! いかに上手く肉を丸焼きに出来るかが腕の見せどころなんだよ』


 頭が痛くなってきた。これがこの世界での鉄人料理人の料理なのか……

 これをオレの料理スキルとして確定させてしまうと、今後の異世界生活でもこのレベルの料理しか出来なくなる可能性が高い。

 

(……決めた。やらかしてやろう)

 

 オレにとってベストの展開は、料理漫画とかで溜め込んだ《南条直政》としての知識を、チート育成で高レベルに育てた《ウィルフレッド》の料理スキルで再現することだ。

 これならば、転生先がどんな世界であっても美味しい料理が食べられる。

 女神さまの仕事が増えても気にするもんか!

 

『気にしてよ!!』

 

 即座に文句を言われるが相手にしない。

  

「……すいません。バターとかはありますか?」

「バター?」

 

 追加の材料を注文すると、係員が不思議そうに首を傾げた。

 

「……ミルクでいいです」

 

 どうやらバターを知らないみたいなので材料の方を用意してもらう。


 魔法を使って手早く分離をして即席のバターを作ると、ハーブを低温で炒めて香りを移す。そして、パン粉を着けた肉をフライパンでこんがりと焼く。これでイタリア風のカツレツの完成だ。

 

 次に中華式に焼豚……醤油系の調味料が無いのが痛すぎるな。だったら塩とハーブで下味をつけて塩唐揚げにしよう。

 

 和風は……肉の和風か。刺身にでもしてみるかな。

 魔法で真空調理法を使って加工すると、食べやすく薄く斬っておく。


 ついでに審査とは関係ないが、和菓子や洋菓子なども作っておく。

 全ては知識とスキルを完全に融合させるためだ。

 煮る、焼く、蒸す、炙る……等々の知っている範囲の料理方法を全て試しておく。

 

 すると、不思議な事に鉄人料理人たちの料理が丸焼きからオレが知っている普通の料理に変わる。

 どうやら新たな料理の概念が発生した事で、材料や調理法とかが替わったみたいだ。

 

 ライバルたちは和風、洋風、中華風の料理を作っている。どれも凄く美味しそうだ。

 コンテストの後に試食させてもらったが、どれもメチャクチャ美味かった。


(これでこの国の人達も美味しい料理が食べられるようになったんだよな)

 

 我ながらとても良い事をしたと思う。

 

『……言いたい事はそれだけかな』

 

 しかし、冷たい口調の女神さまに責められて我に返る。

 

『よ~く~も~仕事を増やしてくれたわ~ね!!』

 

 ハリセン女神さまは怒りに震えながら怒りをぶつけてくる。

 

『…………』

 

 一方、チビっ娘女神さまは何かを思案するように首を傾げていた。


 

 

 

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