第二話 無詠唱魔法を覚えよう。
「次は使える魔法について決めてもらうけど……」
「これが魔法の常識なんだからね!」
次にオレが使える魔法の記憶を決める時なのだが、今度は事前に『常識的な魔法使い』についてのレクチャーを強制的に受けさせられてしまった。
非常識を常識に書き換えられたら堪らないからだろう。
「…………まあ、考えておきますよ」
教育動画で見せられたのは、杖を構えて呪文を延々と詠唱をする古典的な魔法使いだ。
とにかく魔法の発動が遅く、威力も乏しい。
この時代の物語の主役は戦士であって、魔法使いはそのサポートが役割だ。
(……とりあえず、こんな魔法使いは大却下だな。絶対にありえないよな)
考える余地もなく却下に決まっている。
まず、現代魔法の基本は無詠唱魔法だ。
そして、威力の方も人類最強の魔法使いなら最低でも戦術核レベルの威力だ。
「無詠唱魔法なんて絶対に止めてよね! 世界のバランスが無茶苦茶になるわよ!」
「こ、この世界にも高威力の魔法はあるのよ」
女神さまが慌てて魔法の動画を見せてくれる。
どこかの城の前で杖を立てていた魔法使いが魔法を唱えると、隕石が落ちてきて城門を破壊した。
「……オレの目標はこれですけど」
・戦場の魔力を集束して撃ち放たれた砲撃魔法の動画(劇場版)を見せる。
・物質をエネルギーの塊に分解する破壊魔法を見せる。
・互換性のない物質を強制的に転移させて融合させる魔法(漫画)を見せる。
これらの共通ワードは核爆発だ。
「「こ、こんな大威力の魔法で何と戦うのよ!」」
即座に女神さまたちに苦情を言われてしまう。
「えっと……魔導兵器とか侵略軍とか友達になりたい女の子ですね」
とりあえず、これらの魔法の直撃を受けた対象を説明しておく。
「意味不明だよ! とにかくこの魔法は威力がありすぎ!」
「こんな破壊兵器を持ち込まないでよね!」
やっぱり女神さまたちに釘を指されてしまった。
さて、どうしたらいいかな。
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今度は冒険者学校の校庭で魔法の練習のようだ。
「我が手に集いしマナよ。炎の球となって敵を撃て! ファイアーボール!!」
教官がお手本としてレトロ的な炎の球を撃ちだして、的を撃ち抜いた。
「これが基本となる……」
教官が丁寧に説明をしてくる。
(……これはダメだな)
女神さまたちに言われたとおりにこの魔法を肯定してしまうと、これがオレの常識として確定してしまう。
(やっぱり、魔法は無詠唱が基本だよな)
女神さまには釘を刺されているが、俺の中では魔法使いが呪文を唱える事のほうが珍しい。
それなので、魔法の詠唱という概念は否定する。
「……あとは、時間的な問題か。キャストタイムがあると、魔法使いが戦士に近接戦闘を挑まれたら詰むのが問題なんだよな」
これから怒涛のソロ狩りという流れが待っている。あまり魔法使いの能力を縛るのはまずい。
『キミは近接戦闘でも無敵なんだから大丈夫だよ!』
『頼むから、無制限無詠唱魔法だけは止めてよね』
確かに、完全ノータイムだと『魔法使いの小学生女子に軽く一蹴されてしまう屈強なオッサン』というアニメみたいな展開になるので却下。
「…………まあ、なるように任せてみるしかないな」
延々と詠唱をする古典的魔法使いはありえないが、それ以外は別に特別な注文はない。
オレの無意識さんに処理を任せることにしよう。
そんな事を考えていると、グラウンドから生徒や教官が消えてしまう。
ほどなく再登場したときには全員が先ほどの場面でオレが用意した魔導銃剣を携えていた。
「これが砲撃魔法の基本だ。スコープで目標を狙い引き金を引けば……」
教官が引き金を引くと一瞬で的を粉砕した。
「このとおり、相手を倒す事が可能だ。砲撃魔法はチャージされるまで一定時間が必要になる。
また、使用可能な魔法は魔導銃にカートリッジとして事前に登録しておく必要がある」
「……回復魔法、移動魔法、空間魔法などはどうなっているんですか?」
「回復魔法は専門の杖、移動魔法や空間魔法は専用の魔道具を使うことになる」
「……道具がないと魔法は使えないのですか」
「そんなことはないぞ? 威力や制度が激減するだけで普通に魔法は使用が可能だ」
さすがにオレの無意識さんだ。いろいろなネトゲやアニメと同じような魔法にしてくれたみたいだ。
これなら全く問題はない。むしろ、よくやってくれた。
『……事前に魔法について説明したよね』
しかし、女神さまたちが恨みがましく文句を言ってくる。
『あまり大きくルールを変えられると、管理するのがものすごく大変なんだよ!』
『何度も言ってるけど、キミは戦士としても最強レベルなんだから、魔法はサポートでも大丈夫なんだからね!』
「オレはこの子は魔法使いだと思ってますよ。育成中だって基本攻撃は魔法でしたからね」
実際、武器攻撃は魔法抵抗が高すぎてダメージが通らない相手にしか使ってない。
接近戦の能力は基本的に防御にしか使うつもりはない。
『あまり無茶をすると……怒るよ?』
そして、ハリセン女神さまが氷のような視線で警告をしてくる。
その後ろではチビッ娘女神さまがコンピューターの前で必死にキーボードを叩いている。
さらに見覚えのない女神さまたちも助っ人として調整をしている。
(これは……これ以上の無茶は出来ないな)
これ以上女神さまたちに苦労させるのは拙すぎる。
少しは自重しないとだめだな。
「……なんとか修正完了です! 無詠唱魔法は一部の者だけが扱える固有魔法として隔離しました」
「個人レベルで使用可能な魔法の極限は『メテオ』に調整出来ました」
どうやら、その間に『魔法の常識』とやらの修正が完了したようだ。
それと同時にウィル君の記憶にある魔法が詠唱魔法に切り替わっていく。
「……詠唱魔法が基本なんてありえないよ!!」
慌てて全力で抵抗する。オレが覚えているのは、早くて大威力の無詠唱魔法だ。間違っても古典的な魔法じゃない。
ドガガガガッ
次の瞬間、女神さまたちのコンピューターが爆発をする。
「……えっと、女神たちの干渉を人間がはじき返したの」
コンピューター担当の女神さまが唖然としながらオレに視線を向けてくる。
「……まさか、貴方の魔力って500以上なの?」
「ええ。そうですけど」
実際は1000以上だけどな。
「……だったら、今回の魔法の乱れの修正は不可能だね。カナちゃん。悪いけど魔法の修正はこの子が心の底から納得しないと絶対に不可能よ」
技術系女神さまたちは揃って匙を投げ出してしまった。
「それに『メテオ』が極限魔法……これが最強魔法ってやば過ぎですね」
推定180キロという超巨大隕石が落下したときのCG動画を見せながら思わず呟いてしまった。
「大きすぎだよ! 星が壊れちゃうよ!』
もちろん、女神さまたちが悲鳴を上げる。
「やっぱり上限は『皇帝爆弾』くらいの方がいいと思います」
人類史上最凶にして最狂の巨大水爆くらいの破壊力を威力の上限にしないと、冗談抜きで世界がほろびかねない。 もちろん、こんな物騒な魔法なんかつかうつもりは全く無いけどな。
結局、オレがこの『ゆりかごの王国』から出るまでは、無詠唱で大魔力の魔法が正しいことに決まった。