プロローグ 3
ステータス画面を見たオレは、この育成ゲームが昔やりこんだゲームとそっくりな事にすぐに気付いた。そして、重度のヘビーゲーマーであるオレが手加減抜きで育成をするとどういう事態になるか?
これがその結果だ。
《名前》ウィルフレッド
《年齢》 15歳
《性別》男の娘
《身長》 158
《体重》 55
《バスト》 78
《ウェスト》 60
《ヒップ》 80
《戦士評価》 999
《魔法評価》 999
《社交評価》 999
《家事評価》 999
《体力》 851
《筋力》 823
《知能》 819
《気品》 815
《容姿》 821
《モラル》 586
《感受性》 850
《戦士技術》821
《攻撃力》 823
《防御力》 824
《魔法技術》999(1058)
《魔力》 999(1075)
《抗魔力》 999{1062}
《礼儀作法》524
《芸術》 522
《話術》 524
《料理》 930
《掃除洗濯》525
《気立て》 518
《ストレス》252
《所持金》 15843253
うん。どこからどう見ても化け物だよな。
□ □ □ □
「……いったい、何でこんな事が出来るの?」
オレのプレイを間近で見ていたはずのハリセン女神さまは、顔面を蒼白にしながら確認をしてくる。
「……普通にこの子を育てた「「普通じゃない!!」」」
普通に育てただけ……と説明をするはずだったのに即座に否定されてしまった。
「私は何回も転生の儀式を主催しているけど、こんな非常識な育成方法って見たことがないよ!」
「えっ?」
その女神さまの台詞に思わず首を傾げてしまう。
今回の育成ゲームは、かつてブームになった《女の子育成ゲーム》の移植でしかない。
オレの育成方法は《バイトで稼いだ金で学校に通わせる》というゲームの作成者の意図からは外れてはいるが、最強キャラ育成のセオリーからは外れてはいない。
(ほんとうに今まで誰も気づかなかったのか?)
オレと同世代のおっさんゲーマーなら、簡単にこれくらいは可能なはずなんだけどな。
「おっさんゲーマーの転生なんて初めてだよ!」
即座に女神さまが反論してくる。それならオレがやった最強キャラ育成方法は知らなくても仕方がないな。
「それなら、この育成方法は運営側が規制したほうが良いですよ? ゲーマーの自主規制に期待するのは甘すぎですからね」
複数回のプレイが可能なら駄目プレイとかもありだが、これが唯一のプレイなら手加減なんてありえないからな。
「それは分かるけど……キミって自分のやったことを理解しているの?」
しかし、ハリセン女神さまが呆れたような口調で確認をしてくる。
「この子ってキミの生まれ変わる身体なんだからね? こんなとんでもない能力になって大丈夫なの?」
「……どういうことですか?」
「……例えばキミの《筋力》は800以上だけど、これってどれくらい凄いか理解しているの?」
「えっと……オリンピックの金メダリストレベルですか?」
人間の上限が999なら、800くらいなら人類で最強レベルの筋力の持ち主って事だろうからな。
「その認識って甘すぎだよ! 能力値999は人間の能力の上限じゃなくて生き物の能力の上限なんだよ?」
「はゑ!?」
生き物の上限が999だって!?
なんかものすごく嫌な予感がしてきたぞ?
「筋力800以上って古代龍とかと同じくらい……っといっても実感はないよね。
キミの生まれ故郷の世界には《象》って動物が居るでしょう? あの動物の《筋力》が250くらいなんだよ?」
「ぞ、象よりも圧倒的なパワー!?」
ドラゴンと同じくらいのパワーとか言われても全く実感はないのだが、象よりも圧倒的なパワーの持ち主だと言われるとさすがに異常だと分かる。
(……これってリメイクした方がよくないか?)
全能力が生き物の上限に近いって、明らかに能力値がぶっ壊れている。
今回のプレイで育成方法は把握出来たので、次こそは適当に優秀なキャラクターに仕上げればいいだけだ。
「気持ちは分かるけど、リメイクとかは不可能だよ?
ゲームみたいに見えたから一瞬だと誤解しているかも知れないけど、キミの身体はすでに生まれていて八年の時間が経過しているんだからね」
「……つまり、オレの操作した通りに育てられたって事ですか?」
最悪の可能性を想定して確認をしてみる。ゲームのつもりだったけど実は現実だった……はっきり言って全く笑えない話だ。
本当にリアルだと知っていたら、今回の育成方法は実行しなかった。
この最強キャラ育成の肝はエンドレスの武者修行だからだ。
毎月のように魔王を倒して能力値ボーナスをもらったり、森に隠された能力値アップのアイテムを拾ったりという育成方法。
こんな馬鹿が出来るのは、ゲームなら死んでも復活が可能だからだ。
もっとも、この育成ゲームに慣れているオレの場合は、安全マージンが大体分かるので殺されるようなヘマをする可能性はゼロに近い・
といっても、死ぬ可能性はゼロじゃないので武者修行プレイなんかはもう少し慎重にしていたはずだ。
『そういうことだよ。ものすっごく無茶な指示だったから本当に大変だったんだよ?
そして、チビっ女神さまが自信満々に胸を張りながら割り込んでくる。
どうやら、留守にしていた彼女がオレの転生する身体を育ててくれたみたいだ。
少しくらいは感謝してもいいのかもな。
{どっちにしろキャラクターのリメイクは無理って事みたいだな)
すでに転生する身体が完成しているのなら、もはや手遅れだからだろう。
「……せめて、プレイの前に説明くらいはして欲しかったですよ」
しかし、少しだけ愚痴を言ってしまうのは仕方がないよな。
「え、えっと……それについては謝るけど、こんな無茶な育成って想定外なんだよね」
『……必死で教育で鍛えても能力値200くらいが上限なんだからね!
毎月のように魔王とかエルフとか神様とか隠しアイテムとかに能力値をアップさせてもらうなんて誰も予想なんか無理だよ!』
「うん。能力値が200を超えれば基本的に無敵なんだから、ここまで貪欲に力を求めた人って初めてなんだよね」
「……えっと」
女神さまたちは貪欲に力を求めたと言って来るが、オレの感覚的には完全に舐めプなんだよな。
14歳の時までは100キロ超えの巨漢だったのに、育成が終了したときには半分の50キロになっている。
これは最後の一年で過酷なダイエットをやらせたからだ。
飲み食い厳禁の設定で武者修行……この無茶のおかげで体力が激減している。
この無茶をしなければ《体力》《筋力》などの全てを999にする事くらいなら余裕だ。
□ □ □ □
「それじゃあ、最後に転生前の最後の儀式を執り行います」
帰ってきたチビっ娘女神さまが静かな口調で話すと、最後の儀式が始まった
「最後の儀式は……記憶の結合です。アンタはこの子が経験してきたことを自分の記憶として心に記憶に刻み込んでもらいます」
「……本気か?」
毎日が武者修行という過酷過ぎる経験がオレの思い出として刻まれるって事なのか?
毎日が武者修行くらいなら全く問題はない。
しかし、オレの過酷な育成はありえないくらいキツイ。
例えば、育成をすればストレスとかが溜まるのだが、ストレスが体力の半分を超えないと育成の障害にはならないので、育成中のストレスの数値は平均で300を超えている
ダイエットのために飲まず食わずで灼熱の砂漠でのエンドレスバトル。
敵の攻撃からからはノーダメージだったけど、空腹と地形効果のダメージで常に《体力》の半分くらいのダメージを負っていた。
(……好き好んで過酷な経験を心に刻むって……ありえないよな)
こんな過酷な経験を記憶として刻み込むなんてりえない。
「言っとくけど、過酷な経験にしたのって全部キミの自業自得なんだよ」
「こんな無茶な子に育てたのはアンタなんだからね! 責任を取って引き取ってもらうわよ」
「うん。キミが引き受けないと、この子は適当に記憶を与えて解放すしかないけど……それって新たな魔王を生み出すのと同じなんだからね!」
しかし、女神さまたちが口々に文句をつけてくる。
「……分かりました」
まあ、やらかしてしまった責任があるからな。素直に女神様たちに従うことにした。
プロローグ完結。
次回の投稿は月曜日を予定しています。