プロローグ 2
「それじゃあ、どんな風に転生をしたいの?」
チビっ娘女神が何気ない口調で質問をしてくる。
「転生するなら異世界が面白そうだね」
最近のブームの異世界転生の主人公を体験するのも面白そうだ。
「ちょ、ちよっと待ちなさい!」
慌ててハリセン女神さまが制止してきたのだが、とりあえずは返答してしまった。
「はい……異世界に転生が希望ね。
承認っと」
その間にチビっ娘女神はニコッと笑顔を浮かべると、何かを書類に書き込んで判子を押す。
「よし! 認証オッケー」
そして、とても可愛らしい笑顔でガッツポーズを決める。
ズバシャァァァ
「……あんた、自分で何をやっているのか分かっているの?」
刹那、ハリセン女神が怒気を抑えるようにしながら確認をする。
「でも、これってルール違反じゃないですよ? こうやって認証印が押せましたからね♪」
どうやらチビっ娘女神は、かなり悪質なルール違反をやらかしたみたいだ。
いったい、何をやらかしたんだ?
「認証印が通れば良いって話じゃないでしょうが!」
「ルールの範囲内なら問題無しですよ♪」
さらにハリセン女神さまが突っ込むが、チビっ娘女神は得意そうに答える。
本当に何をやらかしたんだ?
事情の説明をしてもらいたくなるな。
「だったら私から説明をするからいいわよ!」
俺の内心での訴えが聞こえたのかハリセン女神さまは俺の方に視線を向けると、事情の説明をしようとするのだが、口をパクパクさせるだけで何も声が出ない。
「そっか、これって説明は儀式を主催する女神じゃないと無理なんだっけ……」
すぐに説明が出来なかった理由を思い出したハリセン女神さまは、険しい視線をチビっ娘女神に向ける。
「それじゃあ……自分で説明するよね」
ハリセン女神さまはハリセンを大きく振りかぶりながらチビっ娘女神を脅迫する。ハリセンが青白く輝いているので、莫大な魔力が込められているのだろうな。
「ぜ、絶対に嫌です! ぼ、暴力には屈しませんからね!」
チビっ娘女神は慌ててオレの背中に隠れながら健気に反論する。
「えっと……小さな女の子を暴力で脅すのは良くないと思うけど」
事情はよく分からないが、綺麗なお姉さんが幼女を折檻する光景は目に余るので、思わずと静止してしまった。
「さっすがお兄さん。そうだよね。暴力は良くないよね。だから、先輩は凄く美人さんなのに彼氏が出来な……」
「それ以上言ったらマジでぶっ殺すわよ!」
調子に乗ったチビっ娘女神がハリセン女神さまの最大の禁忌を暴露しようとした瞬間、ハリセン女神さまがドスを効かせた口調で警告する。
先ほどまでの先達者としての怒りではなく、純粋な殺気に溢れた激しい怒りにチビっ娘はあっさりと白旗を掲げる。
「は、はい、ゴメンなさい!」
「な、何も聞いてませんよ?」
すぐにオレとチビっ娘女神はハリセン女神さまに頭を下げる。
「……つまり、アンタの言い分だとルール通りなら全く問題は無いんだよね」
少し小首を傾げていたハリセン女神さまは、改めてハリセンを振りかぶると莫大な魔力を集中させる。
「痛いの、少しだけ我慢してね」
そして、オレを見ながら警告をするとハリセンを一気に振り下ろしてきた!
ズバシャァァァ
もちろん、避けるまもなく女神のハリセンに叩き潰されてしまった。
「先輩……何をやっているんですか」
それを見ていたチビっ女神が呆れたように確認をする。
「ただ、女神からの祝福を与えただけだよ」
今度はハリセン女神さまが得意そうなドヤ顔で理由を説明する。
(……女神さまの祝福にしてはずいぶんと漢らしいよな)
オレのイメージする女神の祝福だと、せめてデコにキスとかだよな?
間違ってもハリセンで相手を殴り飛ばしたりはしない。
さすがに彼氏……。
ギロロッ
刹那、ハリセン女神さまがキツい視線で睨んで来たので思考を中断する。
考えるだけで心の声になってしまうのだから仕方がないな。
「書類を確認してみなさいよ。どこか変化しているはずよ?」
そして、ハリセン女神さまは得意そうな顔でチビっ女神に説明をする。
「えっと……あぁぁぁぁっ!!」
書類を確認したチビっ女神が悲鳴を上げる。
「アンタの言い分だと、これなら問題無いnだよね」
「ななななんて事をするんですか!」
「書類が変化したって事は、ルール的に問題ないんだよね」
パニックを起こすチビっ娘女神に、ハリセン女神さまはイイ笑顔で説明をする。
「問題大ありだよ! だけど次の選択肢を選らんでもらえば大丈夫だよ!」
チビっ娘女神は明るく応えると、オレに可愛らしさを装いながら視線を向けてくる。
「それじゃあ、性別はどうするの?」
「ストップ! ここで応えるのも考えるのも禁止よ!」
今度はオレが何かの答えを考える前にハリセン女神さまに制止された。
「転生者が自分で選択出来る回数は3回だから、計画的に選ばないとダメなのよ!」
そして、ハリセン女神さまが選択回数に制限がある事を教えてくれると、チビっ娘女神さまは満面の笑みを浮かべる。
「あ、さっきの異世界への転移希望ももちろん1回に数えるからね♪」
ロリっ娘女神さまは、ニパッと笑顔で言ってくる。
「……説明無しでそれってズルくないか?」
「それなら、私からの祝福で相殺したから大丈夫よ」
そして、今度はハリセン女神さまが得意そうに説明をしてくる。
「理由の説明は…………………やっぱり出来ないけど、これからはこの娘の質問には全部って応えてよね」
そして、ハリセン女神さまが真剣な顔でお願いをしてくる。
「分かりました。性別はランダムでお願いします」
騙し討ちみたいな事をしてきたチビっ娘女神よりも、救済してくれたハリセン女神さまの方が信頼できるので素直に従うことにする。
「了解。それじゃあサイコロを振って決めるわね。1~3が男、4~5が女、6がその他だよ」
先に出目による分岐の説明をしたチビっ娘女神は、真剣な表情でサイコロを手に乗せる。
コロロッ
サイコロの目は……6だった。
「よしっ!」「あっ!」
チビっ娘女神はガッツポーズを決めて、ハリセン女神さまは表情を強張らせる。
「……性別がその他ってどうなるんですか」
「1~3が男の娘、4~5が自分が女の子だと思っている男の子、6が両性具有だね」
「ど、どれもハードルが高いな」
どれを選んでもかなりヤバイ。生まれ変わるなら普通の男子ってそんなに贅沢な答えなのか?
「だったら、普通に選ぼうよ♪ まだ確定はしてないから大丈夫だよ」
「……ランダムでいいよ」
どっちの女神さまが信用できるかとなると、明らかにハリセン女神さまの方が信頼出来る。
それなので、指示通りにランダムという答えを返する。
「うんうん、日頃の行いは大切だよね」
「……後悔しても知らないからね!」
オレの選択にハリセン女神さまは満足したように頷く。そして、チビっ娘女神さまは真剣な表情でサイコロを手に乗せる。
コロロッ
サイコロの目は……1だ。
「ふう、助かった」
二番目の選択肢だと、男の娘は外見が女の子になるだけなので勝ちと言えるだろうな。
「それじゃあ、いよいよメインイベントだね。どんな生まれで転生したいかな?
オススメは王子さま、勇者さまかな」
おお~さすがにメインイベントだな。
生まれつき勝ち組が約束されている人生を選べるのか。これは冗談抜きで女神の祝福だな。
「ランダムだからね♪」
しかし、オレが答える前にハリセン女神さまに釘を刺されてしまう。
「生まれつきの勝ち組人生を放棄するんですか?」
さすがに少し文句を言いたくなる。
勝ち組を約束されているのに、どうしてそれを諦めなければならないんた?
「どんな人間も生まれは選べないのよ! 普通のどこに文句があるのよ!」
すると、ハリセン女神さまが厳しい口調で叱責してくる。
「わ、分かりました。それじゃあ、ランダムで‥‥」
「は~い。それじゃあ、今度はこの賽子だね」
チビっ娘女神さまは丸いボールのような100面賽子を取り出した。
「王子とか勇者とかになる確率って10万分の1なんだけどな~」
そんな勝ち組人生を放棄をしたのか……もったいないオバケが出そうだぞ?
コロコロコロ
「えっと……あらら『魔界生まれの人間』なんだ。これは大変そうだね」
チビっ娘女神さまが何回か100面賽子を振ると、そういう生まれで確定した。
(絶対に最悪に近いんだろうな……)
「魔界での人間族って魔力が少ないから下級魔族なんだよ。長生き出来ればいいね♪」
勝ち組人生のはずが、最悪の負け組人生なのか……さすがに抗議をしたくなるぞ?
「あはははは……ここまで酷い結果になるとはとは思わなかったよ。人間で魔界生まれって冗談抜きでヤバいんだよね」
ハリセン女神さまが冷や汗を流しながら呟いている。
もしかして、彼女を信頼したのは致命的なミスだったのだろうか?
「もう変更は受け付けませ~ん♪」
チビっ娘女神は、嬉しそうにペタンと判子を押した。
「それじゃあ、次は能力値を決めるよ。
《体力》《筋力》《知能》《気品》《容姿》《モラル》《感受性》《戦士評価》《攻撃力》《防御力》《魔法評価》《魔力》《抗魔力》《社交評価》《礼儀作法》《芸術》《話術》《家事評価》《料理》《掃除洗濯》を順番に決めるわよ。
アンタは人間族だからサイコロ三個+5になるから、最大で23までの数値なら自遊に設定出来るわよ?」
「ちょっと待って! ここで私が二回目の《女神の祝福》を使うよ。さすがに私のお願いのお蔭で酷い事になっているから見過ごせないよ」
「うわ、あれを使っちゃうんだ。本当に良いの? 先輩が祝福を与えても魔界で生き残るのは無理だと思うよ?」
「この子には早死にをされたら困るからね。仕方がないよ」
「それじゃあ《女神の祝福》の効果で全ての能力値に10のボーナスを追加するよ。それで、今度もランダムでいいの?」
「もちろん、それで良いわよ」
もはや、オレの意見は無視して話が進んでしまっている。
「じゃあ、それで‥‥」
コロコロ コロコロ コロコロ
そして、チビっ娘女神がサイコロを振った結果がこれだ。
《体力》 24
《筋力》 26
《知能》 22
《気品》 18
《容姿》 25
《モラル》 28
《感受性》 29
《戦士技術》21
《攻撃力》 23
《防御力》 24
《魔法技術》19
《魔力》 20
《抗魔力》 19
《礼儀作法》24
《芸術》 22
《話術》 24
《料理》 30
《掃除洗濯》25
《気立て》 18
(3D6+15でこれか‥‥)
3D6の期待値は10.5なのでサイコロの目が平均なら25になる。
つまり、オレの能力値は明らかに低いと断言できるので少し凹みたくなるな。
「うん、人間としてはすごく優秀だね。さすがに《女神の祝福》を授かっただけあるよね。じゃあ、承認っと」
そして、チビっ娘女神がペタンと判子を押そうとするが、承認の判子は弾かれてしまう。
「あれ……どこかミスしたかな?」
チビっ娘女神が不思議そうに小首を傾げる。
「えっと……そうだ。この子って30歳越えの童貞だよ。だったら、この魔法関係の能力はありえないよ」
「そっか。さすがにレアだから気付かなかったよ。という事は10D6になるんだよね」
ハリセン女神さまがチェックをして間違いを指摘すると、チビっ娘女神は改めて賽子を用意する。
(……30歳過ぎの童貞が魔法使いになるって話は、都市伝説じゃなかったんだな)
どうやら世界の意外な真実を知ってしまったみたいだ。全く約にたたないけどな。
コロコロコロ
「……これってありえないよ?」
振り直しの結果にチビっ娘女神さまは思いっきり戸惑っている。
「うわ~これなら私の祝福は必要無かったか」
そして、ハリセン女神さまも苦笑しながら呟いた。
「ありがとさ~ん」
そして、正式に決まった《魔力》を見た瞬間、思わずチビっ娘女神さまにお礼を言ってしまった。
《魔法評価》58
《魔力》 75
《抗魔力》 62
つまり、《魔力》は10D6で全てが6だったということだ。
その確率は約6000万分の1だ。それに他の能力値もかなり高い。
おそらくは、先ほどのリバウンドなんだろうな。
「それじゃあ、後は……あれ? ここまで結果的に全部ランダムって事なの?」
「ようやく気付いたわね」
チビっ娘女神さまが首を傾げた途端、ハリセン女神さまがドヤ顔で応える。
「え、えっと髪の色を選ぼうね」
「ランダム♪」
チビっ娘女神さまがどうでもいい選択肢を選ばせようとするが、ハリセン女神さまはランダムだと即答する。
「そ、それでキミは良いの?」
「それくらい、ランダムでいいよ」
3回しか選べないんだから、こんな時で浪費するのはありえないので即答でランダムだと応える。
「あう~~そ、それじゃあ、身長体重とかを選ぼうよ」
「ランダム♪」
「うん、ランダムで」
生まれを選ぶのさえスルーしたんだ。
もちろん、こんな事に選択は使えないよな。
「えっと……えと、えと」
すると、チビっ娘女神さまが露骨にあたふたとしだした。
「残った重要な選択は、一つだけだよねえ」
ハリセン女神さまがニヤニヤと確認をすると、チビっ娘女神さまは慌ててオレに飛び付いてきた。
「あの、その、あの、あのその……私からも《女神の祝福》をあげるからリメイクしましょう♪」
そして、いきなりリメイクを提案してくる。
「3D6+25か……」
ボーナスだけで人間の能力上限の23を軽く振り切っている。
かなり美味しい話なので検討には値するかもな。
ズバシャーン
「その前に本来ならば一番最初にしなくちゃいけない選択の説明しなさいよ!」
「そ、それだけは絶対にイヤだよ」
ズバシャーン
「ど、どんなに叩かれても絶対にイヤです」
「……じゃあ、アンタの指導係として正式にアンタを女神から降格させるよ?」
「そ、それだけは許して!」
「じゃあ、分かっているよね?」
ハリセン女神さまが厳しい口調で叱責すると、チビっ娘女神はシュンと萎れてしまう。
「……記憶を保持したまま転生しますか? その場合は全ての運命はこちらで決定します……」
「………………はゑ!?」
いきなり超重要な選択肢がやって来たぞ?
「えっと、記憶を保持しないとどうなるんですか?」
「……今回の人生の記憶は、たまに思い出すくらいかな♪」
「だったら、選択の余地なんか欠片も無い! 記憶は保持するに決まっている」
いくら転生して勝ち組人生が約束されていても、それがオレじゃないのならと全く意味なんか無い!
(どうして、こんな超重要な選択が最後になるんだ?)
罠としては悪質過ぎるぞ。
「前世の記憶を保持して転生させる場合、転生先の世界バランスを壊さないようにするために転生させた女神が責任を取って監視する義務があるからよ」
「そんな面倒な事は絶対にイヤだよ!
それよりも、転生先くらい選びませんか? 誰もが羨むステキな人生が待ってますよ♪」
改めてチビっ娘女神さまが何かを選ぶように勧めてくる。
「いくら勝ち組人生でも、それがオレじゃないなら意味が無い!」
「記憶を持ったまま生まれ変われば、勝ち組人生が待っているとでも思っているんですか?」
「……失敗しないように頑張れば可能性はあるはずたよ」
「甘い、甘すぎです!
生まれ変わっても負け組人生が待っているだけですよ?
だから、魂だけでも幸せな勝ち組人生をさせてあげましょうよ」
確かに次の人生で同じ失敗をしない保証なんか誰にも出来ない。
しかし、全ての記憶を失って転生したらオレがオレじゃなくなってしまう。
選択の余地なんかどこにもない。
「はい、記憶を保持したまま転生で決定! 長くても100年くらいなんだから、真面目に女神を勤めなさいよ!」
「う~面倒くさいよ……」
チビっ娘女神は、不満そうに頬を膨らませる。
「これは人を無意味に殺してしまったペナルティよ! あきらめなさい」
「でも、この転生先の異世界って老不死とかも存在するんだよ!」
「………はゑ? あ、ホントだ」
チビっ娘女神さまが涙目で訴えると、ハリセン女神さまはビックリしたように書類を確認する。
「そ、その時は……土着の女神さまとして永久就職……かな?」
「そんなのイヤだよ~~!!」
チビっ娘女神さまは、ハリセン女神さまの無情なセリフに悲鳴をあげる。
「ねえ! 転生したら絶対にすぐに死んでよね!」
そして、オレにチビっ女神は必死の形相で詰めよってくる。
ズバシャーン!
「それが女神の言う事か! 少しは真面目に仕事をしなさいよ!」
「だって、悪いのはこの男なんだからね! せっかく可愛い女の子と縁を繋いだのに、連続|致命的失敗で事故死なんてありえないよ!」
「その気持ちは分かるけど、あきらめなさい!」
「…………わかりました。それじゃあ、ほどほどに頑張りなさいよね。
間違っても不老不死とかを目指したらダメよ?
そういう酷い嫌がらせをしなけれぱ、アンタの守護女神として見守ってあげるわよ……」
チビっ娘女神さまは、なげやりに言ってくるとペタンと判子を押す。
「それじゃあ、私はちょっと出かけてくるから、転生が完了するまでこれで自分の身体をを育てておいてね」
そして、タブレットみたいな端末を渡してくれる。
「へえ育成SLGか。初期パラメーターは……オレって事だな」
《名前》ウィルフレッド
《年齢》 7歳
《性別》男の娘
《身長》 120
《体重》 27
《バスト》 60
《ウェスト》 45
《ヒップ》 60
《戦士評価》 65
《魔法評価》 215
《社交評価》 70
《家事評価》 73
《体力》 24
《筋力》 26
《知能》 22
《気品》 18
《容姿》 25
《モラル》 28
《感受性》 29
《戦士技術》21
《攻撃力》 23
《防御力》 24
《魔法技術》58
《魔力》 75
《抗魔力》 62
《礼儀作法》24
《芸術》 22
《話術》 24
《料理》 30
《掃除洗濯》25
《気立て》 18
「へえ育成SLGか。初期パラメーターは……オレって事だな」
それにしても、このステータス画面って思いっきり見覚えがあるんだけどな。
「それじゃあ、とりあえずプレイしてみるかな」
ステータス画面ですが、某育成ゲームと同じ感じです。