プロローグ1
新連載を始めました。よろしくお願いします。
オレの名前は南條直政。
自他共に認めるヘビーゲーマーで現在は35歳になるオッサンだ。
そろそろ結婚でもしなさいよね……という周囲の圧力に負けて現在は週一くらいのペースで半ば強制的に婚活パーティーに強制参加している。
『………もう、連絡はしないでよね!』
あまりに面倒くさいので割と仲が良い会社の後輩をデートに誘ったのだが……些細な事で言い争いになってフラれてしまった。
重度の暦オタであるオレと、軽い暦女である後輩の女の子。
一緒に長野県まで出張って、彼女の憧れの『真田幸村』さんとやらが大活躍をしたという上田城までいったのだが、あの城って真田さんの時代の面影は欠片もないからな。
熱く語る彼女に、当時の城は川の底に沈められて影も形もない……という真実を伝えたら、女の子の夢を完膚なきまでに叩き潰すデリカシーがない最低男となってしまった。
(……毎度の事だよな)
自慢じゃないが女の子に振られる事には慣れている。
最近は週一の婚活パーティーなどで毎回振られている。
だから、女の子と一緒に小旅行に行って、いよいよ脱童貞というタイミングで女の子に振られたくらいで傷付いたりなんかしない。ただ、いつもの10倍くらいの酒を浴びるように飲んで嫌な記憶を洗い流せばいいだけだ。これで来週の頭からはいつものオレに戻れるはずだ。
「3次元がぁ~~なんだ~~~! オォ~レェ~には~2次元が~あ~るぞ~~~!!」
そうだ。3次元に安易に妥協をしようとするからストレスが溜まるダメのだ。
オレの彼女はが2次元世界の美少女たちでいいのだ。
「ちょっとどいて~~!!」
その時、遠くの方から女の子の声が聞こえてきた。
視線を向けると、自転車に乗った女子高生が坂道を爆走していた。
(3次元にしては可愛い娘だな~)
女の子は顔色を強張らせている。ブレーキが上手く効かないのかもしれないな。
捲れ上がったスカートの奥には清楚な純白が見える。清純女子高生の清楚なパンツ……うん、絶景だな。
(おっと、早く避けないと危ないよな)
美少女のパンツになんか見とれて撥ねられたらあほらし過ぎる。不幸中の幸いなことに、坂の下は比較的大きな通りだし車の気配は欠片もない。俺さえ回避すればまったく問題はない。
軽やかにステップを踏んで自転車を回避する……はずだった。
しかし、いつもの十倍という飲み過ぎ敗因だった。いつもよりも身体の反応が少しだけ遅れてしまった。
ガツン!
その結果、自転車と激突されたたオレの意識が断絶してしまった。
□ □ □ □
「いったい、何をやっているんですか!」
オレが目を覚ました途端、可愛らしい声での罵声があびせられる。
さすがに加害者に罵倒されるとは思わなかった俺は、不愉快そうに言い返す。
「人を跳ねておいて、何を言って……」
そこまで言った瞬間、あり得ない光景に思わず絶句してしまった。
目の前にいるのは、自転車に乗った清純系の女子高生ではなく、不愉快そうな顔の銀髪幼女だ。
白い上衣に緋色の袴という巫女さんのような装束を纏っているが、手には玉串ではなくて大きな木槌を持っているので違和感が半端じゃない。
そして、足下には自転車に乗っていた女の子と、頭から激しく血を流したオレの身体が倒れている。
女の子の方は全身を強打したのか痛そうに顔をしかめている。
そして、オレの方は頭蓋骨が割れていて何か白い物が溢れて……ってあれって脳ミソだよな。
(……こんな大ケガでよく生きているな)
どこからどう見ても致命傷だが、意識があると言うことは俺はまだ生きているのだろう。
生きてるよな?
生きてたらいいな……
生きててくれ!
「脳ミソが飛び出ているんですよ!
即死したに決まっているじゃないですか!」
しかし、銀髪ロリの幼女は不機嫌そう真実を断言してくる。
「……と言う事は、オレは幽霊って事なのか?」
「そうですよ。貴方は先ほどの事故で死んだんです! 全く何をやっているんですか!」
銀髪ロリの女の子は、頬を膨らませながら責めてくる。
「……別に死にたくて死んだんじゃないぞ」
「女の子と軽くぶつかったくらいで即死なんてありえないよ。貴方はスペ○ンカーですか!」
銀髪ロリの女の子は、さらに激しく文句を続けてくる。
ズバァァァァン!
その時、軽快な音がすると同時に銀髪ロリの女の子が頭を抱えてうずくまる。
「何をやっているのよ!
この人は、アンタの失敗で死なせてしまったの!
謝るのが先でしょう!」
そして、虚空から神々しいトーガを纏った銀髪美人のお姉さんが現れた。
まるで女神さまみたいな印象だが、手には何故かハリセンを持っている。
「で、でも、こんなの本当にありえないよ!」
ズバァァァァン!
銀髪ロリの女の子の反論を銀髪美人のお姉さんがハリセンで叩き潰す。
「だ・か・ら、言い訳よりも先に被害者さんに謝るのが先でしょう♪」
そして、銀髪ロリの女の子を厳しい視線で睨みつける。
「う~~~~っ!」
チビっ娘は涙目でオレを睨みながらうなってくる。
「……えっと……とりあえず、事情を説明してくれるかな?」
「……絶対に怒らない?」
チビっ娘は涙目で見上げながら祈るようにお願いをしてくる。
「え、えっと……」
相手が手出し無用のお子さまとはいえ、超美少女の乙女の祈りにあっさりと頷こうとしてしまう。
ズバァァァァン!
その瞬間、美人のお姉さんのハリセンが炸裂してチビっ娘はカエルみたいに潰されてしまった。
「アンタも見習いと言っても女神なんだからね! だから、そんなあざとい真似なんかするんじゃないわよ!
仕方がないわね。この娘に任せていたら話が進まないから、私から説明するわね」
美人のお姉さんは、呆れたようにため息を吐くと、真っ直ぐにオレの方に向き直る。
「このバカのお蔭でひどい迷惑をかけてしまいました。本当に申し訳ありませんでした」
そして、ペコリと頭を下げながら謝罪をしてくる。
「え、えっと……」
生まれてから35年、女の子とほとんど無縁だったオレは、神々しい女神さまみたいな美人さんに頭を下げられて狼狽してしまう。
「それじゃあ、何があったのか説明するわね。貴方は先ほどの事故で死亡しましたが、この事故は偶然ではありません。この娘が仕組んだ事です」
「はぁ?」
えっと……このチビっ娘が事故を仕組んだとなると……オレを殺した犯人はこのチビっ娘という事なのか?
「……やっぱり怒るの?」
チビっ娘は不安そうに確認をしてくる。
「あ、当たり前だろう!」
怒りを爆発させて怒鳴り付けるが、相手が小学校低学年くらいのチビっ娘だとオレとしても対応に困る。
「でも、この娘には悪気は全くないのよ? 私たちは……人間に分かりやすく説明をすれば《縁結びの女神》なの。そして、この娘がそこの女の子と貴方の縁を結ぼうとアクシデントを起こしたけど、失敗して貴方が死亡したって事なのよ」
自称《縁結びの女神》の美人さんの説明に目眩がしてくる。
ラノベやゲームなどでヒロインと曲がり角で激突して出会う……というベタな展開は珍しくない。
しかし清純系美少女アイドルみたいな女の子と、泥酔しているデブオタのオッサンを結びつけるなんて、どこの無理ゲーなんだ?
ヘビーゲーマーとして数多のクリア不可能と呼ばれた無理ゲーをいくつも攻略してきたオレでも、プレイ前に白旗を掲げたくなるレベルの無理ゲーだ。
「……どうやって縁を結ぶつもりだったんだ?」
ヘビーゲーマーとしてどういうチートで攻略するのか興味があるので質問をしてみた。
「それ、私も気になるわね。この二人の相性がものすごく良いのは分かるけど、だからって縁を繋ぐのってありえないくらい大変だよ」
「ゑ!?」
こんな超絶美少女とデブオタでオッサンのオレの相性が良いってありえない冗談だろう?
「それは本当だよ。これくらいすぐに分からないと《縁結びの女神》なんかつとまらないからね。それで、どうやって縁を繋ぐつもりだったの?」
自称《縁結びの女神》の美人さんは、ニッコリと笑顔で改めて女の子とオレの相性が抜群だと告げると、興味津々にチビっ娘に視線を向ける。
「えっと……自転車と激突したら、さすがのアンタでも怒るよね?」
「まあ、いきなり自転車に激突されて怒らない人間なんて存在するはずないよな」
「そしてこの娘が『どんな事でもするから許して下さい』って謝るんだけど、泥酔していたアンタは調子に乗っていきなりこの娘の処女を奪うの」
チビっ娘女神のあまりの説明に思わず目眩がしてくる。
デートで振られて脱童貞を果たせず泥酔していたオレが、女の子の台詞に乗るようにして襲ってしまう……。
普段のオレならありえないが、泥酔して理性の箍が外された状態のオレなら、銀髪女神の思惑に沿ってしまい、人として最悪の犯罪を犯してしまった可能性は低くない。。
「……つまりオレがこの娘を強姦するって事なのか!?」
人として最低最悪の性犯罪を犯させるつもりだったのか?
これのどこに悪意が無いんだ!
どう考えても悪意しか無いぞ!
「でも、二人の相性は完璧だから、すぐにラブラブのバカップルになるわよ。
だから、始まりはダメでも問題無しでしょう」
チビっ娘はドヤ顔で失敗した作戦を説明する。
「……でも、縁を繋げるならもう少し穏やかな方法もあったんじゃ無いの?」
同じく頭を押さえているハリセン女神さまも事情の説明を求める。
「この男はヘタレだから、こんな美少女と相性が抜群なんて説明しても信じるはずが無いですよ。
それに、この娘もすごく可愛い女の子なんだから、よほどの事が無いと、こんなヘタレなんか見向きしないよ」
客観的に見れば、銀髪幼女の分析は間違い無いと思う。
こんな美少女と相性が良いって話を信じるなんてあり得ない。
と言うか信じる人間なんているはずがない。
「でも、始まりがレイプってのはリスクが高いわよ。いくら相性が完璧でも、心が結ばれない可能性もあるわよ?」
「この娘は貞操観念がとても高いの。だから、処女を奪った相手との相性が良ければ全力で彼女になろうとするよ?
そして、このヘタレは自分で処女を散らした女の子に告白されたら断るなんてありえないよ?」
確かに酔った勢いで純潔を奪った女の子に『責任とって彼氏になってよね』とか責められたら無条件降伏するしかない。
そして、このレベルの彼女をオレの方から袖にするのはあり得ない。
この娘から俺が捨てられない限りは一緒にいるはずだ。
「なるほど。勝算は十分にあるか……だけど、死なせてしまったのは論外よ」
「……100キロくらいの大人の男が、自分の体重の半分以下の女の子とぶつかって即死する……こんな予想なんて主神さまだって絶対に無理ですよ!」
「……彼が自転車を避けようと飛び上がっていたために踏ん張れずにバランスを崩して転倒した。そして倒れた先に縁石があって頭蓋骨の一番薄い部分が割れた……どう見てもあり得ない失敗の連続だから情状酌量の余地はあるわね」
チビっ娘女神の弁明を聞いていたハリセン女神さまは、納得したように頷いた。
オレ的にはチビっ娘女神の作戦は論外だと思うんだが、神さま的には情状酌量の余地があるのか……。
(……神さまって綺麗だけどヤバいな)
人間とは全く違う価値観の生き物みたいだ。用心する必要があるな。
「普通なら、あれで死ぬなんてありえない話なんだからね!」
チビっ娘女神は頬を膨らませながら言い返してくる。
「……これが常識ならありえない話という事は私も同感なんだけど、女神が死ぬ予定ではない人間の生命を奪ったという事実は代わらない。だから、この娘には責任を取ってもらいます」
ハリセン女神さまは苦笑しながらチビっ娘女神を睨むと反省したようにうなだれる。
「……えっと、普通に生き返るのは無理なんですか?」
ここで生き返れば全く文句は無いんだけどな。むしろ、こんなに可愛い美少女と縁を結んでくれるのなら感謝したいくらいだ。
「それは無理。1回死んだ人間を生き返らせるのは女神でも不可能なのよ」
「はあ……死ぬ前に女の子とエッチしたかったな」
さすがに童貞のままで死亡が確定するとなると悔いが残る。
「そ、そ、それって本気なの?」
チビっ娘女神が顔を真っ青にして確認をしてくる。
刹那、ハリセン女神さまが慌てて割り込んできた。
「ちょっと待って! 先に説明をするけど、神が人間を死なせてしまった場合、その神はその人間に祝福を与える義務があるの。
その祝福は基本的にその人間が心の底から望んでいる事になります」
「えっと、という事は、オレがここで脱童貞を本気で望んだら……」
「その時にはこの娘に責任を取らせます。拒否権は認めません!」
「そ、そんな~~~っ!」
ハリセン女神さまの厳しい台詞に、チビっ娘女神は本気で泣きだしてしまう。
「……転生するよりも、この娘との契りを求めますか?」
そして、ハリセン女神さまは半ば呆れたような口調で確認をしてくる。
(……いくら童貞を捨てられるからって、相手がこんなお子さまじゃありえないな)
こっちのハリセン女神さまが相手ならば冗談抜きで究極の選択になる。
それくらい神々しい絶世の美少女だからだ。
しかし、相手が小学校低学年のチビっ娘女神ならありえない。
生まれ変わって来世では幸せになる方がマシだろう。
「そ、それは私も同感だけど、本人の前で失礼だよ!」
何故かオレの心の中の台詞にチビっ娘女神が文句を言ってくる。
(もしかして、言葉に出しているのか?)
「いえ。今の貴方は幽霊みたいな状態なのよ。だから、言葉にしなくても心に思うだけで思いは伝わるのよ」
神さまの世界って本気で怖いな。
心に思うだけでダメってことなんだな。注意しないとな。
「それじゃあ、貴方を転生させるわね」
貞操の危機から脱したチビっ娘女神さまは安心したように転生について説明を始めてきた。
更新は月・水・金を予定しています。