夏至の出来事 夕暮れの戦い
補習は無事に終わり、逃げるように教室を出てきた俺は鶴見に連絡を取る。
どうやら、時間を潰すためにもう街に出ているらしい。
「今日は夏至って言ってね!一年で一番昼間が長いんだよ!いっぱい遊べるね!」
といわれた。
その後のことは特に何もなく。
映画を見て、マクデナウドに行きダラダラして、なんとなく解散した。
さつきさんはあんな美少女とおデートなんて言っていたが、別にデートではない。
腐れ縁なのだ。不思議と馬が合ったし、暇があれば遊びに行く。
最近、確かにあいつは綺麗になったとは思う。だが、それだけなのだ。
そんな事を思いながら歩いていると
「きゃーーーーーーーー!」
夕暮れの街に叫び声が聞こえ、竜光は走り出す。
曲がり角の先にいたのは、異常に大きな犬と少女だった。
そして少女に対して犬は、一歩、二歩と近づいていく。
「やだ、だれか、たすけて・・だれか、たすけてよ・・・」
犬から目を離せない少女は竜光の存在に気付かない。怯えきっているためか、犬を刺激しないようにか、誰にも聞こえないような小さい声で、助けを呼び続けている。
あと少しで犬が少女に近づきそうなその時に
「ふんっ!!!」
と少女と犬の間に飛び込んだ。
「え・・・・・?」
唖然とした声を出す少女の声を背に
「大丈夫か?今助けるからな?」
「着装!!」
そう叫ぶと、竜光の体は灰色に染まり、その右手を灰色の鎧が包み込む。
そしてそのまま犬に向けて、こぶしを突き出し
「てやーーーーーーー!!」
と、殴り飛ばしその巨体が飛んでいった。
いったい何が起こったのか、少女が確認しようとしたところ、気が抜けて、目が回る。
だめ、ここで倒れちゃ・・・
そう思いながらも、少女の意識は暗転していった。
犬の巨体が飛んでいった先で煙となり消えていったのを見届けながら
竜光は「解装」とつぶやき、右手の鎧は消えていった。
第一段階の始装で殴っただけでやっつけれた、、、?あの大きさなら相当に育っている筈。それに感じた力も弱いものじゃなかった。
というか、なんで消えたんだ?生物じゃないのか?あの犬は、いつもの、獣魔じゃないのか?
そう考えていると。
「獅子ヶ谷」
耳元で呼ぶ声が聞こえ慌ててのけぞる。
「さつきさん!驚きますから、心臓が鼻から出ますから!」
「出るのは普通、口じゃないのか・・・?」
「・・・」
「それはいいんだ。冗談はこれくらいにしよう。お前、勝手に何をしているんだ?」
そういわれ、竜光は黙る。そう、彼のしたことは人助けであり、間違えていない。ただ、自身が宿した能力が人目について困ることはわかる。
なにより、具現化出来、視認できる能力を持つことは能力者でも少なく
一般人はもとより、ある程度能力者に関わっているものが見ても問題になり得る。
竜光自身も右手に宿した鎧は異常であることは理解している。
だが・・・
「女の子が助けを呼んでいたんだ。助けるのが当たり前だろ?」
「・・・もう。わかった。不問、って訳にはいかないが、何とかしよう。」
そういい片手をあげて、いつの間にか周囲にいた黒服サングラスの男たちが周囲に機械を設置していく。
痕跡を消す、らしい。が竜光にはよくわかっていない。
「さつきさん、獣魔が増えてきたんじゃないか?今週だけで一体何件目だ?」
「さぁな。忘れたよ。ちなみにこの地域だけでなく日本全国に発生しているから、本来ならお前は寝る間もなく、働き、地域の住民のために働く必要が・・・」
「あ、じゃあ佐藤先生明日の楽しい授業をお願いします。」
今日の勝手という不手際をなんとか尻拭いしてもらい、ほっと一息ついたところで、会話の怪しくなってきた」ところをなんとか防ぐために言葉を差し込んだ。
そしてそそくさと、早歩きで去っていく。
「あ、っておいコラ、まだ事情を!」
といいながらももう竜光の姿はない。
「なんて奴だ。ま、獣魔を倒すって仕事をちゃんとしている分、尻拭いくらい幾らでもしてやるがな。」
といいながら新しい煙草に火をつけようとしたところで
「う~ん」
先ほどの竜光が助けた少女がうめき声をあげた。
さつきとしては、こんな少女なんて放っておいて、夢でも見たと思ってほしいが
「うちの生徒か・・・」
教師としての姿も持つ、さつきは放っておくわけにもいかず
黒服に手で指示を出し、車に乗せた。
この制服からすると、医療科の1年か。
竜光も同じ1年だし、面倒なことにならなければいいが・・・
この面倒なことというのが具体的に何を指すかは
さつきにもわかっていない。
竜光君は普通の高校生ではありませんでした。さつきさんも普通の先生ではありません。そういう世界で戦っている高校生くらいで思ってください。




