渋公のドレスの少女
「ここは・・・なんか異質な雰囲気を感じるな。」
通りすがるだけの放送局前は非常に怖かった。
「何故でしょうね?鶴先輩分かりますか?」
「いやー?私はそんなに感じないけどなぁ。」
「じゃあ獅子先輩の気のせいですよ!」
「まぁ、いいよ。多分ホントに気のせいだから。こっちにはリザードマンやっぱりいないみたいだし・・・よっと。」
今度はやたらとケンタウロスとミノタウロスが多くなってきた。
よって、斬り捨てながら歩いていく。
「しかし、何でまたこんなに牛と馬が多いかな・・・っと。」
何故、こいつが拳を振り抜くとボゴッという音が必ず付くんだろう。勿論腹に穴を開けながら煙にはなっていくんだけど・・・
「龍ちゃん!そっち!尻尾で薙ぎ払っちゃって!」
随分とレッドの使い方が上手くなっている鏡野さん。
俺とはまだ一緒に戦った事もないのに・・・
「あれやるか。」
「うーん、結局あれか。」
「しょうがないんじゃないですか?獅子先輩、お願いします。」
《花鳥風月》を手にした俺は体内の力を注ぎ・・・・
「・・・・はっ!!」
垂直に振り下ろした。
ズドドドドドドドドっと周りを巻き込んでいく剣撃。
「獅子ケ谷、ちょっとは加減をしてもいいのよ?」
「いや、これでもしてるんだぜ?」
「綺麗に全滅出来ましたね〜。」
魔物は煙となって消えていく為に、残ったのは俺の攻撃の跡だけだった。
「行こう。」
俺達は渋公を目指す。
この坂道を登ればすぐ・・・
坂道を登った所には、異質な風景が浮かんでいた。
リザードマンがミノタウロスとケンタウロス相手に戦っているのだ。
観察をしてみるとリザードマンが攻めて、ミノタウロスとケンタウロスが守りのような印象を受ける。
「なぁ、アレってどんな状況だと思う?」
一際大きなリザードマンが剣を片手に叫び声を上げている。
「仲間割れって感じじゃ無いわね・・・。」
冠を付けたケンタウロスが矢を射り、斧を持ったミノタウロスがリザードマンを切り捨てていく。
そして、ケンタウロスが蹄を鳴らし、ミノタウロスが叫び声を上げると
魔物同士の混戦が始まった。
「拠点を攻めるゲームみたいですね。」
それはさっき俺も同じ事思った。ゲーム口にすると不謹慎な気がして言わなかったが。
「煙になって消えるとこも、現実味がないわよねー。」
確かに。言われてみたらゲームキャラが消える演出のような気さえする。
「取り敢えず、今の内に渋公の中に行かないか?入り口前にいたミノタウロスもケンタウロスも前線に出て行ったようだし。」
「そうね。考えていても正解は分からないし。早いとこ拠点を潰しちゃいましょう。」
魔物同士の争いの中、コソコソと建物の中に入っていく。
「いるか?」
俺は剣を握りしめる。
「この中ね。」
鶴見も拳を握りしめる。
「龍ちゃん、よろしくお願いしますね。」
鏡野さんはレッドを撫でる。それに「グルル」と応えるレッド。
「俺が扉を開ける。」
「私が中を覗く。」
「私は見守っています。」
「開けるぞ?」
鶴見が首を縦に振る。
バーンッ
鶴見が中を覗く。
こっちを見た!
なんだそのよく分からない表情は・・・
前にカレーをウチで食べて行った時に俺がカレーに納豆とキムチとマヨネーズを混ぜた時にもそんな表情だったな・・・
俺が行くしかないか。
「行くぞ。」
二人に声をかけ、扉の中に入る。
ホール内は照明が付いていた。
舞台中央にはドレスを着た少女。
「来ましたね〜?待ってたよ!」
「待っていた・・・?」
「私が青の宝玉を守る番人!勝負だよ!」
宝玉ってなんだ?
遅れてやってきた鶴見と鏡野に目で問い掛けるも、首を横に振られた。
「リザードマンを囮にするなんて!ウチの子達は入り口から離れちゃうし。」
「間違ってはいないかな。」
「でもプレイヤーが乗り込むなんて事が出来たんだね!私、驚きです!」
「プレイヤー・・・?」
「え?どうしたんですか?」
「プレイヤーって、どういう事だ?」
「何言ってるんですか?もしかしてゲームの参加者では無いんですか?」
ゲーム・・・?
「それって・・・!」
「ちょっと落ち着いて獅子ケ谷!私が話す。」
相当の剣幕だったんだろう。鶴見が俺を止めた。
今舞台上には鶴見と少女。
俺と鏡野は舞台袖で見守っている。
「こんにちは、私は鶴見 舞。あなたは?」
「私は、半獣同盟のミズキです。」
「ミズキちゃんって呼んでいい?」
「どうぞ。」
「ありがとう。ミズキちゃんは今ゲームをしているの?」
「そうです。ワールドイズマインってゲーム。」
「どんなゲームなの?」
「えっとね、チームごとに陣地を決めて相手の陣地を奪い合うの。」
やっぱり、陣取りゲーム。
「宝玉だっけ?それを壊せば勝ちなの?」
「うん、陣地ごとに宝玉が与えられるの。」
「マイさん、私も聞いていい?」
「うん。勿論。」
「ゲームの参加者じゃ無いの?」
「うーん、そうなの。迷子になっちゃって。」
「そうなんだ!じゃあ私のものだね!」
・・・雲行きが怪しくなってきたぞ?
「私のものってどういう事・・・?」
「だって、マイさん達は人間だよね?それもゲームに迷い込めるような!能力者でしょ?」
・・・この言い方、俺には覚えがある。
「ミズキちゃんも人間じゃ・・ないの?」
「人間?って冗談は止めてよ!もーう。でもね、分かって欲しいのは、私は人間ってだけで差別をしないよ!」
こいつは、この少女はまさか・・・!




