鏡の世界の街
「ふむふむ・・・?」
急遽、鶴見による診断が始まった。
「なぁ、後じゃダメなのか?」
この辺りには化物はいないけど、渋谷、六本木にもいるなら急いだ方が・・・
「急がば回れって言うじゃない。獅子ケ谷の能力が暴走してあの威力か、制御出来ていてあの威力かは重要なんだ。これからの戦闘にも関わってくるしね。」
それはそうだけど・・・気が焦る。
自分が不甲斐ないばかりに、助からない人がいるんじゃないかと・・
「あ、大丈夫ですよ、獅子先輩。私の能力で閉じ込めましたから。」
「鏡野さん。能力・・・《合わせ鏡》だっけ?」
「えぇ。鏡の世界に対象を放り込めます。どれだけ入れられるかは質量や強さにもよるんですが・・・今周囲にいるのは雑魚だけのようです。」
「すごい能力だな。世界を作るなんて、無敵じゃないか。」
「あ、いえ作ってはいないんです。元々ある鏡の世界に私は道を切り開くだけなので。」
「鏡の世界って・・・あるのか?怪談の中だけかと思ってたけど。」
「今いるじゃないですか。」
「まぁ、そうなんだけど・・・」
「獅子ケ谷、余計な事言わないの。・・・はい、診察完了ー。いやー、やっぱり機械がないとお師匠のようにうまくいかないねー。」
「お疲れ、どうだった?さっきの力は、暴走だったのか?」
「いえ、暴走じゃなかった。それどころか、まだ全力じゃないようね。」
「どうして分かるんだ?」
「えぇっとね、能力の吹き出る出口があると思ってくれれば良いんだけど、その出口がまだ半分も開いていない。扉をちょっと開けて顔を出してる位かな。」
さっきの力は少し恐ろしくなる位の威力だった。
でも、まだあれ以上があるのか・・・?
「ビビらないの。確かに強い力だと思う。ただ、今はその片鱗でしか無いし、どれだけの力を持っているかを理解しなきゃ、制御すら出来ないんだから、今は自分の力を解放する事を優先させて。」
「そっか、そうだな。そうするよ。」
専門家が言うんだ、大丈夫だろう。
それに自分が強くなる事は優先事項だ。足手まといになってはしょうがない。
「いざとなったら、私が閉じ込めてあげますよ!」
閉じ込められるのは嫌なんだが・・・
ここなんかオドロオドロしいし、見知った街の廃墟だしでいい気分はしないんだよなぁ。
「ほら、そろそろ行くよー?」
俺達は、渋谷方面へと歩き出した。
「どっちから行くんだ?」
「えっと、目的地は渋公なんだけど、明治通りから回り込んでいこうか。」
「じゃあ、こっちですね。」
「目的地があるのか?」
「魔物の拠点となってる場所があるみたいなの。1つはさっき獅子ケ谷が切り倒したラフーレ原宿。今向かっているのが、シブイ公会堂。あと一つが、六本木フルズ。」
「・・・伏せる意味ってあるのか?」
「あるかもしれないじゃない!あとで怒られるのは嫌なの!」
誰にだ。
途中途中で、何体かの魔物に出会うが、問題なく排除した。
さっきの魔物の量はやはり異常だったみたいだ。
俺達は明治通りから渋谷、スクランブル交差点に来た。
しかし、この世界は本当にオドロオドロしい。あんなに目立つ109の看板も壊れてるし、そんなに新しい建物ばかりじゃないとは言っても、とにかく破壊されている。
廃墟とは言っても、壊れかけの建物だから、どこかに何かが潜んでいるんじゃないかと思うところがミソだ。
俺は鶴見ほど探査能力が優れていなくて、なんとなくいる気がする。強い力をなんとなく感じるというくらいだから、そう思うだけなんだろうけど。
もう少しで渋公だ。




