新たな能力の目覚め
「獅子ケ谷!!どうしたの!?」
声が聞こえた時にパリン、と水晶が割れる音がした。
部屋中の水晶が粉々に砕け散っている。
色とりどりの欠片が中に浮かんでいる。
「鶴見俺は今どうしてた?」
「どうって、暫く考え事してたから邪魔しちゃ悪いかなって思ったけど、様子がおかしかったから、慌てて声を掛けちゃって。でも、成功したようだね。」
「成功?」
「うん、獅子ケ谷の周りにあった水晶ね、私が用意した能力の生まれる媒体になるものだったのよ。どれかが当たればいいな、って思ってあるだけ用意したのよ!でも、全部だなんて・・・」
「あ、貴重な物だったのか?すまない、イメージが膨らんでしまって。つい、あれもこれもとなってしまったんだ。」
「いいよ。私が考えていたのは、全部割れることなんて有り得ないと思っていたって事だから。器用貧乏だからかな?全部叶っちゃうなんて。」
「そうかもな。最近色々あったからな。」
「そう。色々あったんだ。言いたくなったら教えてね?」
「あぁ、約束するよ。この件が落ち着いたらな。」
「もしや、気付いちゃった?」
「気付いたよ。能力が無いと、気配にも鈍感になるんだな。」
すぐ近くにも、遠くにも、恐らくは、渋谷、原宿、六本木辺りは獣魔、そして獣魔とは違う化物が山程いる。
未来で聞いた「魔物」が現れた時とは今日の事だろう。
そして、「魔族」が現れたのも。
「それで、あなたはどんな能力にしたのかな?ヒーロー。」
「刀だ。」
俺の右手に中に浮かぶ水晶の欠片が集まっていく。
右手を覆うように集まり、先端が伸びていき
一定の長さになった所で
パリーーン!
右手を覆っていた水晶が割れた。
俺は刀を手にしていた。
鍔には花鳥風月の意匠。
鞘シンプルな作り。
刃は黒い。
というか、全部が真っ黒い。
「良い刀じゃない。なんて名前にするの?」
「『花鳥風月』にしようかな。」
「そのままね。ツバのデザインでしょ?ここからでもちゃんと見えてるんだから。それで、能力のキーワードは?」
「うーん、もう着装ではないしなぁ。」
「長い方がいいよ。」
「そうなのか?」
「そうよ!お師匠なんて一文字しかキーワードにしてないから戦闘向きじゃないのよ!私は三文字だから戦闘に使えるし、三倍凄いのよ!」
サツキさん聞いたら目くじらを立てそうなセリフだ。
「そうだな・・・じゃあ、、、決めた。」
「次は、「刻め!」と言った後にキーワードを言って。ちゃんと力を込めるのよ?それに、拒否される事もあるからね?」
「拒否って?」
「勿論、能力よ。」
「え?能力って意志があるのか?」
「意志は?多分、あるんじゃないかな?私は喋れはしないけど、意思疎通は出来てると思うよ。うん。」
知らなかった。じゃあ、さっき女性の声は・・・
「さ、早くキーワードを決めちゃいましょう。」
「そうだな。・・・刻め!『威風堂々』!!」
黒かった『花鳥風月』が白と黒のコントラストの刀になった。
「四文字いかれたか!!これでお師匠の四倍ね!」
「だから、その漢字でのカウントといい何基準なんだよ!」
思わずフッと笑ってしまった。
新たな力に酔ってるんだろうか?
今なら何でも叶いそうな気がする!
「やっと、いつも見たく笑ってくれた。」
「え・・・?」
「ずっと、無理してた。私もお師匠も心配してたんだから!感謝しなさいね!特に私に!」
気付かなかった。何も。
平常心に戻っていたと思っていた。
「心配させて悪かった。もう大丈夫だ。」
この力で、守りきってみせる。
もう何も失ったりしない!!
「それで、その子はどうするの?」
え、その子って?
「キュー!」
赤い蛇?というより赤い龍?
デフォルメされて妙に可愛いけど、何コイツ。
「獅子ケ谷の能力なんだから、大事にしなよ?」
使い魔の能力の希望も叶ったのか。
名前は・・・
「レッド」
「キュー!」
「そのままね・・・」
さて、そろそろ行こうか。
「私も行くわよ。」
「キュー!」
「あぁ、頼りにしているよ。さぁ行こう!」
もう俺は一人じゃない。




