『光』の中で『強欲』が叫ぶ。
落ち着いてみると、どうやら補修のテストの最中だったようだ。
机の上にテスト用紙がある。
「もう落ち着いたのか?少ー年。」
恥ずかしい!17歳になって泣いてしまうだなんて!
「無言でモジモジしてんなよ。男なんていくつになろうと泣くもんなんだから気にすんな。」
「それで、何があったって?」
「はい、あの、俺は・・・・未来から来たんです。」
「それは・・・お前は獅子ケ谷じゃないって事か?」
「いや、そうじゃなくて、俺は獅子ケ谷で間違いないんだけど、一度自分の人生を過ごして、戻ってきたというか。」
「どうやって?」
「えーっと、神様に助けたれて・・・」
あれ?こうして言葉にしてみると滅茶苦茶胡散臭いな。
神様に助けられて未来から戻ってきた!
「ドッキリじゃ無さそうだな。ここらで鶴見や篠原が看板を持って出てこないって事は・・・」
「ドッキリじゃないんだ。」
「ドッキリじゃないのか。」
「マジだ。」
「マジ、か。」
「あぁ、大マジだ。」
俺は言い切った。なにせ事実なんだ。
「少なくとも、お前に変化は起きているようだな?」
え、心理的に成長したとか?
「さっきまで子供らしく泣いていた奴の言葉じゃないな。」
笑いながら言うサツキさん。
「お前、能力使えるか?」
「・・・え?いや、多分。」
過去に戻るって事は鎧の能力が戻ってきてるんじゃ?
「やってみろ。」
「はい。・・・『着装』!」
「あれ?『着装』!・・・『着装』!『着装』!」
「使えないっ。」
「『見通す』にお前の中の『流れ』が止まっているように視えるな。」
「そんな、今日は重要な日なんだ。能力が無いなんて」
「どう重要なんだ?」
「今日、俺は捕まるんだ。夜の港の見える丘公園で怪しい女の子2人組と出会って、その後にマッドハッターっていう狂人と戦う。そして、俺は負ける。」
「それで、捕まる?」
「あぁ、捕まる。それから俺は、狂ったような経験しかしていない。あれが本当に事実だったのか、信じたくない。でも、こうして!俺は能力を失っている!」
「未来で俺は人を助けるために鎧の力を使い果たしたんだ!だから、今の俺は、能力を使えない・・・。」
「ふーん?そっか。じゃあ、お前は今日港の見える丘公園へ行くことを禁ずる。いや、今日はこちらが用意した場所に泊まってもらう。」
「!!」
「とりあえずの対処になるが、もう時間もない。他のエリアから人を呼ぶ時間も、作戦中の戦士を呼び戻すにもな。」
「それが、サツキさん。もしかしたら、横浜にゾンビが溢れるかもしれないんだ。」
「そいつは、先に言っておけよ。とはいえ、変更は無い。今日は補修の終了後、私の決めた宿に止まってもらうからな。」
「でも!」
「お前は今、力がない。お前の言う事を全面的に信じ、お前という戦士を失うわけにはいかない。それ故の決断だ。以上。」
さっさと補修のテストに戻れ!!留年したいのか!
そういい、教壇でスマホをいじりどこかに連絡するサツキさん。
恐らく、横浜エリアの警備部隊を向かわせるんだろうが、警備部隊は能力を持たないただの人間だ。相手が悪い。
「終わりました。」
「よし、そのまま待て。」
サツキさんはそう言い残し、教室を出ていく。
本当にこれでいいのか?
ゾンビが溢れ出たら、あの一帯はどうなる!
俺一人だけでも?いや、力がない人間が行っても・・・
しばらく経ち、サツキさんが戻ってきた。
「待たせたな。入ってこい。」
「やーほー。獅子ケ谷、大丈夫?今日遊びに行けなくなっちゃったね。」
鶴見だ。
色々な感情が胸に浮かび、声を上げそうになるが、ぐっと堪える。
「よう。悪いな。今日は補修が長引きそうでさ。」
「下手糞か。まどろっこしい。鶴見、お前は今日からこいつの特別訓練手伝え。」
「「え?!」」
「獅子ケ谷、聞いてのとおりだ。今まで言わなかったが鶴見は陽光学園で私の部下として動いて貰っていて、学生の能力開発の補佐をしてもらっている。」
「鶴見、お前も噂は聞いたことくらいあるだろう?月光機関の『鎧』の能力の戦士の事を。そいつは獅子ケ谷だ。それで、こいつは鎧の能力を失ってきた。」
「二人共分かったか?暫くは高校に通うのを諦めろ。勿論、獅子ケ谷は仕事もだ。なに、少し早い夏休みだ。なんなら夏の過ちをしてもらっても」
「何言ってるのよーーー!?」
顔を真っ赤にして叫ぶ鶴見。
楽しそうに笑うサツキさん。
俺は日常に戻ってきた。
俺は、弱い。全てを取ることは出来ない。
俺は周りの人を助けるために全力を尽くさなければ
全てを失ってしまう。
正義の味方は失格、だな。
「いや、まぁ、宜しくな、鶴見。」
俺は手を差し出す。
暴れていた鶴見は顔を真っ赤にしながら
さつきさんの白衣にかけていた手を離し。
「別に、あんたの為じゃないからね!お師匠が言うからやむ無しよ!」
お決まりを言いながら俺の手を握る。
もう、この手を離さないようにしよう。
見つめ合う俺と鶴見。
そして・・・・
「おーい。すまないがここは教室で私もいるんだが。」
パッと手を離す。完全に流れに飲まれていた・・・!
「二人共顔が真っ赤だぞー?」
ニヤニヤしながらいうこの人は子供みたいだ。
「それで、お師匠!どこで能力開発を?いつもの部活棟を使う?」
ウチの部活棟ってそんなんなってる?
「いや。」
「機関のサツキさんの部屋か?鶴見も機関の人間なのか?」
「いや。鶴見は機関に属していない。能力が戦闘向きではないからな。学園での能力開発をする時に手伝ってもらっているんだ。」
本当は戦闘可能なんだがな。学園で能力者のデータを取ることを優先させるために誤魔化してるんだ☆と付け加えた。
「結局どこでやるんだ?」
「アテがあるから着いて来い。」
「アテねぇ。」
そのまま俺達はサツキさんの車に。
車に揺られ15分。
ここは
「明治神宮?」
「本殿まで車に乗りけることなんて出来るのか・・・」
明治神宮は車も通れそうな広い参道だが車が通ったりはしないんじゃないのか?
車から降りた俺達を出迎えた巫女さんは車をどこかに運転していった。
「獅子ケ谷。そこから動くな。」
「?」
そういうと、鍵束の中からボタンの付いた鍵を持ち、ボタンを押した。
賽銭箱が横に動いていく。
「賽銭箱って動くの?!」
「それよりも、下にあるのは階段か?」
「そうだ。行くぞ?」
入り口近くは暗かったが少し先には松明があるようで炎が揺れている。
「ここは、いつからか現れた『獣魔』に対して古来から対抗してきた者達の本拠地だ。」
「陽光学園も月光機関も、その集団の1部門でしか無い。各部門のトップも関係者も本人達は気付きもしていないだろうが、ココが全てを司っている。」
「それは管理しているといえないんじゃ?」
「管理は、確かにしていない。ただ、ここから全ては始まったんだ。表舞台には立たない『正義の味方』達はここから生まれた。」
「当時の仕組みがまだ生きていてね。『各部門』のすべての情報はここに集まるんだ。」
少し降りた先に強い光が広がってる空間が見える。
「そして、この場所において私は壮絶に偉い。」
ふんぞり返り、悪い笑みを浮かべる姿がサツキさん非常に似合っていた。
「この場所を使うことを許可しよう。愛しい教え子達よ。」
「ココこそ、私が率いる能力者集団『光』その本拠地だ。」
「おめでとう、言うなれば本部への栄転。二人共大出世だ。」
「ここが、『光』なのか・・・」
俺は未来から持ち得た知識が、『今』の俺の周りにあまりにも関係していた事に驚愕していた。
ここから始めるんだ。全て。
この人生で、俺は俺の大事な物を守りきってみせる。
正義の味方じゃなくてもいい。偽善でもエゴでも構わない!!
強欲に全てを手に入れてやる!!




