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生命の意味

「イチャイチャしてんじゃない!気色悪い。虫ケラのホムンクルスの分際で。」

黒い雨が降り続いている。




俺は立ち上がる。

目の前の悪魔と向き合うために。

口に出た言葉は




「着装」



現れたのは、西洋の騎士の姿。


至るところがヘコみ、ヒビ割れ、欠けている箇所すらある。


そして、その姿は深い夜を集めたように漆黒だった。





「その姿は、ブラックサンじゃないのかぃ?」



「だいぶ前に、確か、戦争の集結日に姿を消して以来、行方を暗ましていたと思ったら、こんな所にいたんだねぇ。」



「となると此処が、兵隊の製作所だったのかぃ?こんな辺境が。」




「暇つぶしに潰してやろうか。」



悪魔は瞳を輝かせながらいう。





俺は何がなんだか分からなかった。

さっきのクレーンと呼ばれた存在が誰だか。


目の前の存在がなんなのか。




ただ



「五月蝿い。」

目の前の存在が喋ること、息をしていること、生きていることがひたすらに、憎かった。



(なんで、あいつが・・・!)



俺は右手にありったけの力を込めて殴りかかった。

すると、真っ黒な光が俺の手に集まり、拳を包んだ。





「!・・・虫ケラ風情が、偉そうに。潰してくれるよ!他の奴らのようにね!!」



そういうと悪魔は空気の塊のようなものを手にしたと思ったら、俺の右拳に当ててきた。






拳と当たった瞬間に悪魔が手にした透明な塊はその実像を表して、禍々しい剣が現れた。


切迫する、黒い光に包まれた拳と禍々しい剣。




「うわあぁぁぁぁぁああああ!!!」



俺は叫んでいた。




なんでこんなに憎いのか、悔しいのか。何故か涙が溢れ出てくる。





「ふふふ、思ったよりかはやるようだね。ただ、もうブラックサンは時代遅れなんだよぉ!!なんだいその姿は。ボロボロじゃないか。ははは!!」


「切った後は存在すら残さないように食いきってやるよ!!」



「この虫けらがぁぁ!!」



「あぁぁぁああああ!!!!」



「つるの、、、、、つるみの!!仇だぁぁぁぁ!!!!!」




不思議と口に出たその名前は、酷く懐かしい言葉の気がした。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



その名前を口に出してみると、走馬灯のようにそれまでの事を思い出す。



あの運命が変わった夏の日のことを思い出す。



その後の絶望に満ちた、あの日々を。




幸せな日々に隣にいた少女、鶴見の事を思い出した。



俺は君のことが好きだった。

君を守りたかったんだ。




全身から右手に力が集まってくる事を感じる。


体を覆っていたボロボロの鎧が姿を消した。

右手を残して。




「なんだぃ、やっぱりぃ、限界なんじゃないかぁ。つまらないね。」



「五月蝿いっ!!許すか、許してたまるか・・・あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」




俺は自分の全てをかけて目の前の敵を打ち砕くと決めた。俺の全力を、命を使い切ってもいい!!!!




だから、だから、、、!!!!



ガキンッ

ガチャ、ガチャ


右手の形が変化していたことに、彼は気づいていなかった。




『ギュゥゥゥーーーーーーーーーーーン』



黒い光が輝きを増し渦巻いていく


彼の右手は、もはや身にまとう鎧ではなく

どこか剣のように見えるように先端が伸び、大きくなっていった。



禍々しく、見ているだけで呪われそうな強大な力。




瞬間、目の前の悪魔は真っ二つになった。




「ボゴゥ・・・・うん?なんだいそれは?ゲホ」




目の前の悪魔は上半身になりながらも言った。




俺は、何も喋る気にはならなかった。




「出し惜しみしていたのか、人間。それだけの力があれば、さっきの虫たちも助けられただろうに。」

「ははは・・・ハハハハッハ!!!!」




最後に大声で笑う、悪魔は煙となり消えていった。





俺はもう喋れなかった。




急に溢れ出した思い出が、鶴見への伝えられなかった気持ちが、目の前で恋した少女だった存在が引き裂かれた現状を、受け入れられずに





気付いたら、雨が降っていた。





宛もなく歩きだした。



体は疲れていなかった。少し熱っぽいだけだ。



自分がどこにいるか、どこに行けばいいか分からなかった。

自分の存在さえも分からなかった。




俺はいったい何なんだ?





目の前に浮かぶのは一面の木々。




「いたぞ!捕まえろ!おーい!こっちだ!来てくれ!!」




自分が捕まえられそうになっている事が分かった。




(暴れるかもしれない、大丈夫か、お前いけよ)




俺の周りを囲む人間の声が異様に遠く聞こえる。



(おい、あいつ・・・動かねぇぞ。)





一斉に取り押さえられて意識が遠くなった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「今取り押さえた、レオンの一体だけか?生き残りは。」

「他はミンチになって転がってたよ。」

「持って帰ってハンバーグにでもするか?」

「冗談、あれならゴブリン肉を食べるよ。」

「違いねぇ。」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「さっきのあいつ、覚醒者だったようだな。」

「あぁ。何らかの能力の後があった。」

「サンプル行きか?」

「もしかしたら蘇生されて量産されるかもな。」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「サンプルナンバー09は調整後ポーン1部隊に配属されることとなりました。」



ドヨめく周囲。

覚醒者じゃなかったのか?能力が失われたらしいぞ?ポーンなんて使い捨てじゃないか。解剖処理させてくれればいいのに、なんでポーンなんかに。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「所長、サンプルナンバー09の事ですが。」



「異論は許さない。」



「・・・わかりました。ただ、研究者達へある程度理由を伝えないと納得させることが」



「郷愁」



「え?今なんと仰られましたか?」



「何でもない。納得しないのなら、予算を削ると伝えろ。」


「・・・わかりました。失礼します。」



所長と呼ばれた女性はその答えには反応せず、その場には無音だけが残った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




ヴーーーーーーーーーーーーーーーーー



暗い部屋の中、ゆっくりと目を開ける。


その姿は全身をぴったりと拘束されたような


骸骨のような姿の存在。




「私はポーン1。」




今回の軍事演習は今までにない程苛烈なものになる。


培養液から出た私は、高鳴る胸と共に


準備のため風圧乾燥機へ向かった。





さぁ、出陣の時間だ。



栄光のブラックサン騎士団の一員として、戦いに赴こうではないか。

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