顔
携帯の着信が36件。多すぎやしないかと内心、苦笑い。
全てあいつからの着信だ。
俺の名は絵野 健二。この名前は気に入っている。
駅のプラットホームで俺はあの3人を待っている。
まさか、来ないつもりじゃ無いだろうな。
時々、思うのだが。奴は俺と尚奈の関係をどう思っているのだろうか。
まぁ気にする事は無いか。
改札口から3人が歩いて来るのが見えた。
俺は改札口に入って行く4人を後ろからジっと見つめる。
何故、あの女がそこに居るのだろうか。
俺は前から歩いてくるカップルを忌々しげに見つめる、持っているミネラルウォーターの水を握り締める。
腹の奥底に溜まっているドロドロしたものを薄めるように水を飲む。
先生と別れた後、私達は虐められっ子と共にドーナツ屋を出て列車に乗ろうと急ぐ。
「それで?例の計画って、一体何処まで進んだの?」と、尚奈は私と手を繋ぎなから、改札を抜ける、
「奴は国語教師だったから、職を変えてる可能性が高いわ。…でも、それを逆手にとって塾の講師とかね。おんなじ穴のムジナかもね」
「あのー…それで僕に何か頼むつもりなので?」
「あなたの通っている塾に国語講師っている?」
「僕は虐められている身なので、何も知りません」
その時、列車から出てきた学生服の2人組が不意に肩にぶつかって来た。
そして、眼鏡の虐められっ子に睨みつけると、こう吐き捨てた。
「よう。虐められっ子の眼鏡君が何、女の子連れて、良いご身分だな」
見るからに顔見知りの不良青年だ。
「えーっと、誰この2人」
眼鏡の青年は怯えてよっちゃんの影に隠れている。
最初はあんなに怖がってたのに、殊勝なものよね。
「なぁに?良い身分って、私達これからデートなのだけれど…」
尚奈は前に進み出ると、2人組を真正面から見つめる。
「なんだ、この女、楯突こうっていうのか?」
そして、私は見つけてしまう。こいつらの真後ろに健二がいた。
な、なんだ!?何が起きたのだ?前を行く3人組に話しかけた2人が、背後にいた大柄な青年と口論になっている。
明らかに俺の塾の生徒が3人いるが、その内の1人が逃げ出した。
それを遮った青年が殴られ始めたではないか。
混乱して頭がどうにかなりそうだ…。