恋人
私の名前は詩歌 尚奈。この名前結構気に入っている。なんだか雑貨屋さんの店名みたいでしょう。
今日は彼氏と学校サボってダブルデート。
楽しみだなー。雑貨屋さん巡りだ。
恋人と友達が2人、葵とアイツは兄弟なので本物のデートって訳では無いけれど。
一緒に居ると楽しいので、良く4人でつるんでいる。そこに先生が加わったら完璧なのになぁ。
「むー」
「遅っいなぁーあの2人」
尚奈は縁取のついたカーディガンに黒いベルトのスカート姿だ。
先程のバスケットに今度はお握りを詰めている。
それ私の家の炊飯器から拝借されたものだけれど、まぁいつもの事だし別にきにしていない。
私はラフなジーンズにTシャツ姿だ。
先日、買ったばかりでサイズが合っていない。
「この服どう思う?」
尚奈は座り込みながら通り過ぎていく人々を見て、満足そうに答える。
「ちょっとブカブカだけど、何にでも合うから良いと思うよ」
「そうかなぁ」
まぁお気に入りではあるが、着たおして袖が伸びている。彼氏が買ってくれたものなんだし、一応着ておくべきだよね。
「ちょっと待って、アレってりょう先生じゃない?」
尚奈は急に立ち上がると、改札口のほうへ駆けていく。
ツーピースのスーツ姿の女性がふと、こっちを見る。どうやら気付いたようだ。
「おーい」
手を振って呼び掛ける。
「尚奈、ちょっと声が大きすぎるわよ」
「わーい先生!!今日はお休みじゃなかったの?」
その美人教師は少しだけ照れながら、此方に向かってくる。
「貴方たち、どうしてこんな所に居るの?」
「えへへーこれからデートなんだ」
「私はこれから学校よ。普通は逆でしょうに」
緩くパーマをかけ、横分けした髪型が良く似合っている。
「新任教師の指導をしなくてはならないのよ」
「もしかしてその人って、お菓子を一杯、机の下に隠し持っている。あの天然教師?」
さすが葵、この子の情報網は甘く見てはいけない。
「貴方また、職員室に潜り込んだの?本当に面白い子ね」
りょう先生は優しい笑顔でそう言うと、
「貴方は頭の良い子だから見逃してあげるわ。但し、尚奈、貴方は別よ」
ヤバいっ、お説教が始まる時間の予感。
「先生、これあげるから見逃して!!」
私は尚奈の手からバスケットを取り上げると、中からお握りを取り出して、膝をついて謙譲した。
「やめなさい。こんな往来で恥ずかしいでしょう」
中身は梅干しだ。
「むー」
「私のお手製をそんな交渉に使わないで欲しいんだけど梅干しだけに」
りょう先生は爆笑しながら、それを受け取ると階段を下り、
「少しだけ付き合ってくれる…?」
と、私達に手招きした。
「どこに行くつもり?」
葵は心底、訝しげな表情をすると、駅を出て、3人で青葉の街路樹を歩きながら話す。
「待ち合わせの時間なんだけど…」
先生は携帯電話を取り出すと、
「まぁ、別に良いんじゃない?あの2人には私から連絡しておくわ」と、答えた。どうしよう。私といえば携帯電話忘れちゃった。