友達
私の名前は秋月 葵としよう。この学校の3年生。今、友人と別れて尚奈の所へサンドイッチを届けに行こうとするところだ。
豪奢な造りの玄関を抜けて、ハッチングのあるバラ園を通過すると、木目調のドアのインタフォンを押す。
暫く待ってみるが誰も出てこない。
「ごめんくださーい」
そのまま10分以上経過。まだ来ない。ボタンを連続で押してみるが、まったく音沙汰がない。仕方がない。いつもの抜け道を使うとするか。
バラ園の茂みを潜り抜けて、中に入る。小柄な私にこそ出来る芸当だ。
「尚奈?居るのー?今、帰ったわよー」
まあ多分ねてるんだろうけど、一応呼び掛けてみる。彼女の自室はこの家の一番奥にあり、鍵もかかっていない。ドアも開けっ放しだ。
部屋の中央にベッドがあり、彼女はまるでお姫様のように眠っている。
「尚奈?もう昼の2時半すぎよ。朝食持って来たわ」
「むー」
「それってもう昼飯じゃん。おそようー」
「はいはい。おはようございます。マイロード」
私はベッドに腰掛けると、バスケットの蓋を開ける。サンドウィッチだ。
「欲しくないよ。私が低血圧だって事知ってて、そんなの持ってくるんだから、勘弁してよね」
「良いから食べなさいよ。あなたの好きなハムとレタスと卵よ」
「むー」
彼女は眠たい瞼を擦りながら、寝巻きのまま、口に入れようとする。
「むー」
彼女はそのままリビングへ行こうとする。私は慌てて其れを止める。
「ちゃんと自室で着替えなさいな」
「えーでも、学生服は居間にあるんだよ」
「そんな事どうでも良いから、いい加減に学校へ行きなさいな」
「むー」
彼女は渋々、台所に立つと、何かを作り始めた。
どうやら、まだ空腹のようだ。
「あなた、そんなに食べていると彼氏に見放されるわよ」どうやらホットケーキを焼くようだ。
「んふんふ。こうプツプツが出てきたら、ひっくり返すサインなのよねー」
「あなたの得意料理ってそれだけよね」
ホットケーキを食べ終わると、2人は目配せをする。
「では、今日はダブルデートと洒落こみますか」
「勿論、学校サボってね」
葵は、ひと安心する。あんなことあったけど、やっぱりこの子、へこたれない子だわ。